★王子様がヒロインに恋に落ちてしまいました。(王子エドワード初登場回)
「これ、ちゃんと似合ってますか?」
パーティーに向かう前、俺は公爵邸に寄ることになった。
「家族が新調して、髪も整えてくれたんですが、こういうのには慣れていなくて、いまいちよく分からなくて」
というのも、パートナーが必要だったためだ。
前回はイザベラ様とノクス先輩は一緒に行ったらしいが、今回は俺がイザベラ様、マリーさんはノクス先輩がパートナーを務めることになった。
安全圏ということらしい。
「私や妹たちと入場するというのに、その格好はいただけないな」
ノクス先輩はそう言うと、飾り気のなかった俺の服に、大きな赤い石のブローチをつけた。
「え? 駄目ですよ。高そうだし!」
「今日一日貸すだけだ。いいからつけておけ」
俺とノクス先輩がそんなやり取りをしていると、ドレスアップをしていつもよりさらに美しさの増したイザベラ様とマリーさんが部屋に入ってきた。
「貴方、そのブローチはどうしたの?」
「? これは、ノクス様がつけるようにと」
「そう。お兄様は、貴方にそれを渡したのね」
ちらり、と何故かイザベラ様がノクス先輩を見た。
なんとなく、含みのある表情だ。
「……あの、ノクス先輩。まさかこれ、すっごく高い奴だったりしませんか? 壊したら怖いので、今からでも返却しても良いですか」
「いいから黙ってつけておけ」
ノクス先輩。
よく見たらこのブローチ、公爵家の紋章が見える気がするんですが、本当にこれ俺がつけていていいものなんですか!?
■
「わあ……すごくキラキラしています。あと僕たちと同年代? みたいな人が多い?」
初めて訪れた王宮は何もかもが目新しく、お上りさんよろしく俺は周囲を見渡してしまっていた。
名前を大々的に読み上げられての入場にも驚いたが、パーティー会場の中も、俺が前世で本で読んだことのある景色で驚いた。
まさに、『一〇〇本の薔薇を君に』に描かれた風景そのまま――。
「今日は一般クラスの成績上位者と、貴族階級の生徒のみが集められている。いわばこれは、一種の見合いだからな」
「……え?」
「年頃の男女を集めて――という奴だな。一般クラスといえど、成績優秀者はやがて王宮魔法使いなどになれば、貴族の令息や令嬢と結婚する者も出てくるからな」
「待ってください。何今さらっと言ってくれたんですか! それを知っていたら、マリーさんには行くなと行っていたのに!」
異世界キラキラパーティー楽しいなとくらいのテンションだったんですけど!?
というか、ノクス先輩が知ってるなら、イザベラ様が知らなかった筈はない。もしかして、だからこそノクス先輩と一緒にマリーさんを入場させたのだろうか。
「王族の招待を断ることなど不可能だ。ましてや、貴族でない彼女は。それに、一般クラスの人間とはいえ、見目を整えなければ軽んじられる理由にもなる。だから私の妹が、この日のために彼女を仕上げたのだろう?」
彼はちらりとイザベラ様とマリーさんを見た。
「予想通りというか……二人が周囲の男達の目を奪っているな。美しすぎると関心を持たれるのは仕方がないな」
妹を見て『美しすぎる』という表現はシスコンすぎると思う。
「その言い方やめてください。クジャクじゃないんだから。見た目のよさイコール性的アピールみたいな発想は親父くさくて気持ち悪いです」
大人ぶる彼に俺は非常にイライラしていた。
「なっ」
「だいたい貴方の発言をふまえると、僕も貴方も『そういうこと』になりますけど。もしかして妹が心配だと言いながら、貴方は今夜未来の花嫁捜しでもするつもりだったんですか?」
そんなの――。
「……えっち」
俺は真剣にマリーさんとイザベラ様のことを思って行動しているというのに、兄であるこの人は『お嫁さん探し』に来るなんて。
俺が汚れを知らぬ清純な乙女が、異性にちょっとピンクな言葉を言われた時の反応みたいな表情で言うと、ノクス先輩が固まり、ついでに周囲の人間がざわついた。
「あれ? なんで僕まで注目浴びてるんですか?」
俺はちょっと頬を赤らめて、恥ずかしそうにして言っただけだったのに。
「見目の良さを自覚しているなら、人のいる場所でそんな表情はするな」
彼はイザベラ様みたいなことを言った。
「もういい。お前に期待するのが間違いだった。お前に、人の感情というものの理解は難しいらしいな」
「貴方に一番言われたくない言葉です」
つい先日まで、妹と一生仲違いしそうになっていたくせに。
「お兄様、レイ」
俺とノクス先輩が軽く口喧嘩していると、イザベラ様が彼に声をかけた。
パーティーでは踊らなくてはならないきまりらしい。とはいえ、俺もマリーさんもこういう場には全く慣れていない。というわけで、百戦錬磨な公爵家のご兄妹に、俺たちはリードして貰うことにした。
「誰ですの? あの子。ヴァーミリオン様と、どういう関係なの?」
「俺たちのイザベラ様が……誰だあの男。男……?」
ノクス先輩にリードされるマリーさん、イザベラ様にリードされる俺に注目が集まる。
マリーさんに嫉妬する女性の声や、俺に嫉妬する声――が、聞こえたかと思うと余計な言葉が混じって聞こえた。
男ですけど、何か????
俺のどこが女の子に見えるっていうんだ! ノクス先輩に力で負けたくなくて最近は筋トレをしていのに! 確かに筋肉がつきにくい体質なのか、まったく見た目に変化がないけれど。
胸はないが胸が痛い。
「すいません。イザベラ様。俺となんて」
「しょうがないでしょう。こうするしかないんだもの」
流石公爵令嬢、イザベラ様はダンスが上手かった。
「イザベラ様」
「はじめはどうなることかと思ったけれど、少しはマシになったわね」
「……ありがとうございます」
だが美しい調べに合わせて踊りながらも、イザベラ様の瞳は俺ではなくマリーさんを映していた。
「……イザベラ様?」
ふと、何故か彼女の横顔が少しだけ悲しそうに見えた気がして、俺は彼女の名前を呼んだ。
仕方ない、といえばそうなのかもしれない。
ノクス様とイザベラ様はよく似ている。二人がちょうど性別を入れ替えたら、そうなるだろうと思うくらいに。
もしイザベラ様が男なら、今ここでマリーさんと踊っていたのは、彼女だったに違いない。
沢山の人が見ているなかで、手を取って目線を合わせて、微笑みあって――周囲の羨望と祝福を受けながら、今日にでも二人は婚約を周囲にしらしめたかもしれない。
二人の恋が、秘密ではないのなら。
「素晴らしい!」
俺たちがダンスを終えると、金髪青目の青年が、拍手をしながら俺たちのもとにやってきた。
「ノクス。君が妹以外と踊るなんて珍しいな」
「王国の若き太陽にご挨拶申し上げます」
ノクス先輩とイザベラ様が頭を下げて、俺は漸く彼が『エドワード・クラウン』王子であることに気がついて、慌てて頭を下げた。マリーさんも同様だ。
「見たことのない顔がいるな。ああ、君があの……。うん。兄に似て美しい瞳だ。確か、今年から学校に通い始めたんだったかな? 勉強の調子はどうかな?」
「ノクス様にご指導いただき、日々精進しております」
「へえ、ノクスが……?」
王子様はそう言うと、ちらっとノクス先輩を見た。
「最近僕の誘いを断っていた原因は、もしかして彼かな?」
「……申し分けございません」
ノクス先輩は素直に非を認めた。
「まあこの子が彼の弟なら、お前が目をかけるのも仕方ない。それで――隣のご令嬢は?」
「王国の若き太陽にご挨拶申し上げます。マリー・ステラでございます」
マリーさんは、王子様に『普通に』挨拶をした。
その瞬間、彼の瞳の色が変わった。
「……それだけか?」
「え?」
「他の女性達は、僕に話しかけるとき、もっと違う表情をするというのに」
俺には、彼の瞳が一瞬光って見えた。まるで、彼の心の変化に合わせて、彼の魔力が反応しているみたいに。
「君には――僕の異能が効かないのか」
そう言うと、彼はマリーさんの前に膝をついた。
「マリー・ステラ嬢。僕、第一王子エドワード・クラウンは、貴方に結婚を申し込みたい」




