「おもしれー女」はご存じですか?
「それで、私に話とは何だ?」
ノクス先輩を連れ出した俺は、彼の部屋に着くなり鍵を閉めた。
「パーティーで起こるかもしれない最悪の事態について、ノクス先輩には情報を共有しておこうかと」
「一体何が起こるというんだ?」
「マリーさんが、王子様に一目惚れされるかもしれません」
「……は?」
ノクス先輩は俺の言葉に意味が分からないという顔をした。
「いいですか? ノクス先輩」
俺は、存在しない眼鏡を空中で押し上げた。
「今まで周囲にいなかったタイプ! しかも性格がいい上に、最近はイザベラ様の監修もあり、誰もが振り向くような美少女! なんかいい香りもする!」
多分、香りについてもイザベラ様監修済みである。
「王子様には、婚約者がいなかった。つまり彼がこれまでに出会った女性の中に、タイプがいなかった可能性があります。貴族的ではなく、貴族としての素養も身につけているとくれば――」
「……くれば?」
「『運命の出会い』現象、毛色の違う女の子に惹かれる、『おもしれー女』現象が起こる確率が爆上がりします!」
「『おもしれーおんな』?」
どうやらこの世界にこの概念はないらしい。
「誰もが俺にアプローチをかけてくる。だというのにあの女は、この俺様に興味すら示さない。……気になる。この俺様を無視するとは」
俺はノクス先輩に近づくと、しゃがむよう合図した。そして、彼の顎に手を添えると、くいっと軽く持ち上げた。
「『お前、おもしれー女だな』」
最後に色気たっぷりに微笑んでみせれば、ノクス先輩の頬に朱が走り、それから彼は勢いよく俺から顔を背けた。
「あのうすいません。実演したほうが分かりやすいかと思ったんですが、不快でしたよね?」
もしかしてキモがられたか?
「……いや」
若干声が動揺している気がするが気のせいだろうか。
「言葉の切れが悪いですがもしかして体調が良くないですか? 一回お手洗い行きます?」
「必要ない」
ノクス先輩が急に真顔になった。俺の予想は外れていたらしい。
「お前の言いたいことは、大体理解した。それで? 防ぐために、何か方法はあるのか?」
「うーん。正直難しいと思います。だってマリーさんがイザベラ様一筋で殿下に興味を示さないのは確実でしょうし」
王子様との出会いはマリーさんが丈の合わないドレスで転ぶところから始まる。
だが、『おもしれー女』は相手の感じ方の問題だ。
「でも僕たちは、マリーさんとイザベラ様――二人の輝かしい未来のために、力を合わせて頑張りましょう!」
えいえいおー!
俺はそう言うと、ノクス先輩の手を取って天井へと上げた。




