百合エンドのために、ヒロインに好意を示します!
翌日、俺は昨日と同じ時間同じ道で彼女を待ち伏せして、お礼の品を彼女に渡すことにした。
「昨日はありがとうございました」
レイ・シルフィードの見目がよいとはいえ、美少女に話しかけるのは気後れする。
「貴方は……」
「僕の名前は、レイ・シルフィードといいます。これ、よかったらお礼に」
『マリー・ステラ』が好きなものは、花の形をしたお菓子。
これは、公式情報だ。
「ありがとうございます。私は、マリー・ステラです。シルフィード様――と、呼びしても?」
「レイさんで大丈夫です。貴方には、そう呼んで欲しい」
俺は、純粋な子どものように笑ってみた。
貴族と平民が通う魔法学校――同等に扱えと言いながらも、教室やカリキュラムの殆どは分かれているのが現実だ。だがここで様付けで呼ばれてしまっては、確実に男である俺は『お近づき』になれない。
「わかりました。……じゃあ、レイさん」
マリーはそう言うと、柔らかく微笑んだ。
「ん゛んっ」
「だ、大丈夫ですか?」
突然奇声を上げた俺に、マリー……さんが心配そうな目を向ける。
「だいじょうぶ、です」
あまりの美少女ぶりに昇天するかと思った。
流石ヒロイン! イザベラ様に愛されるために生まれた存在!
俺は、心の中で手を合わせた。
「それにしても、レイさんは勉強熱心なんですね」
マリーさんは、俺の大量の本を見て言った。
「お恥ずかしい話ですが、僕、実はつい先日まで、学校に通うことができなくて。今はみんなに追いつこうと必死で。ただ、それだけなんです」
これは事実だ。
俺の学力はまだ、小学生レベルの域を出ていない。俺が本をぎゅっと抱きしめて下を向くと、彼女は沈黙の後優しい声で言った。
「――だったら、頑張らなきゃですね」
マリー・ステラ。その名の通り星のように澄んだ声だ。聞いているだけで、心が落ち着く。
「実は私も今年から学校に通い始めたので、貴族様方に比べるとまだまだで」
マリーさんは苦笑いして俺を見た。
「だから、一緒に頑張りましょうね」
「……はい」
俺は思わず、マリーさんの言葉に頷いていた。
いやこれ、なんのギャルゲー?
こんなの、好きにならないほうがおかしいだろ! 百合男子を自負している俺ですら、一瞬グラッときてしまいそうな天使の笑顔を向けられて、俺は思わず胸を押さえた。
もしこれが画面上のゲームのやり取りなら、俺は同じ場面を保存・リロードして、確実に彼女との時間を噛み締めている。
勉強ができなくて困っていると言えば、一緒に頑張ろうと微笑んでくれる天使――でも俺は未来と百合のため、俺はぐらつくわけにはいかなかった。
「決めたんだ。俺は、二人をくっつけるって」
正史百合でも語られた内容だが、元々マリーさんとイザベラ様は、険悪なわけではなかったという。
むしろマリーさんは、美しく教養のあるイザベラ様に憧れていた。未来、王妃となる公爵令嬢――手の届かない赤い薔薇。自分は野に咲くローズ・マリー。マリーさんの思いは、最初は王子ではなくイザベラ様に向いていたのだ。
だがある日、建国祭のパーティーでマリーさんに一目惚れした王子が求婚。
これにより、周囲のイザベラ様の視線は憧れから同情や蔑みへとかわり、それが彼女を、悪役令嬢へと変貌させる。
「今の彼女は、イザベラに対して好感度はむしろ高いはず。……つまり、王子が求婚する前に成立させれば、このカプは成立する!」
そうなれば、横恋慕は王子ということになる。だがこの結末に導くには、マリーという少女は控えめすぎるのも事実だった。
「では、また」
「はい。……また」
彼女は静かにその場を後にした。
俺はそんな彼女の後ろ姿を見て、一人こう呟いた。
「やはり彼女こそ、イザベラ様には相応しい。でも彼女、多分基本受け身なんだよな……」
正史百合では『お姉様』と親しげに呼ぶことに成功しているが、今のままのマリーでは、王子に見つかってしまい、手籠めにされるのは確実だ。
守られるヒロインも良いけれど、ガッツがなければ勝ち取れない恋もある。
「だからこそ、俺がいる」
俺は、本に挟んでいた手紙を取り出した。
宛名はマリー・ステラ。内容は、放課後の呼び出しだ。
「告白のために呼び出すなら――やっぱり体育館裏か? ん? いや、体育館は違った気がするな……」
告白する場所に適切な場所が思いつかず、俺は一人首を傾げた。




