魔法学校でヒロインと出会いました。
――目立っている。
「あの方はどなたかしら」
「初めて見るわ。でも美しい方ね」
「男か? 女か?」
目立っている! 目立っている! 目立っている!
自分の顔を見た人間が、口々に噂しているのが聞こえる。
学生服に身を包んだ俺は、早足に彼らの前をと通り過ぎた。
「いちいち注目しないでほしい。この顔なら仕方ないけど……」
ヴェリタス魔法学校に入学してから早一週間。
俺は、毎日勉強詰めの毎日を送っていた。というのも、俺の今の学力が『伯爵令息』と呼ぶにはあまりに足りないことが、入学試験で明らかになってしまったためだ。
「魔法なんて、分かるはずないじゃないか」
前世の世界に魔法は存在しなかった。
「それに下手に計算が出来ても、それはそれで不自然だし……」
俺が休学していた理由はバレている。となると、出来る問題もわざと間違うしかなく、おかげで俺はあらゆる授業を大量に入れられてしまった。
「俺の楽園が遠ざかる……!」
苛立ちのあまり、俺は人目の着かない場所の壁を叩いた。
そして、自分の言動を思い返して、両手で口を塞ぐ。
「――いや違う。僕だ。『僕』」
レイ・シルフィードは、心は八歳・体は一五歳の伯爵令息。
現代日本人の知識があるとはいえ、大人びた一人称を使うことは憚られた。
それに、うっかり『レイ』を溺愛している両親の前で口にすれば、悪い友人が出来たんじゃないかと心配をかけるのは間違いない。
「にしても、まだヒロインに会えないなんて・・・・・・」
俺の最近の日課は、放課後の図書館での勉強だ。
学内に三つある図書館のうち、一番古くて人が通わない図書館の、奥で一人自習している。
生きているだけで目立ってしまう顔面が憎い。
というわけで一人ひっそり勉強しているわけだが、静かなのはいいとして、イザ×マリの実現の為には、障壁になっていると言っても過言ではなかった。
まずは接触が必要だ。二人の出会いの演出をする為の情報収集・分析が大事なのに、今はその時間がない。
「イザベラ様は教室で会うにしても、実はマリーとはまだ出会えていないんだよな」
貴族と平民は基本授業が別れており、教室もあまり被らない。しかも俺が二人と同性ではないことも災いし、俺は機会を見つけられずにいた。
「話通りなら、そのうち出会えるとは思えるんだけど……」
『レイ・シルフィード』は、マリー・ステラの恋の当て馬役。
俺のせいで若干世界軸がぶれたとしても、出会いまではなくなることはないだろう。
「今日はヒロインがいそうな場所でも少し歩いてみるか?」
俺は呟くと、第三図書館への道ではなく、第一図書館へ向かうことにした。
手には、沢山の本を持って――。
確か『レイ・シルフィード』がマリーと初めて会った時、沢山の本を持っていたという描写があったはずだ。ある種の願掛けである。
「わっ!」
渡り廊下を歩いて少しして、俺は誰かにぶつかり持っていた本を落とした。
「すいません! あの、大丈夫ですか?」
俺が尻餅をついて廊下に散らばった本を見ていると、可愛らしい女の子の声が、頭上から降ってきた。
『大丈夫ですか?』
――それが、レイとマリーの最初の出会い。
「お怪我はありませんか?」
彼女はそう言うと、俺に手を差し出した。
「あ、ありがとうございます。僕、前をちゃんと見ていなくて……」
中身は八歳! 中身は八歳!
俺は心の中でそう唱え、彼女の前で全力で可愛らしく微笑んでみた。
「ごめんなさい。私が避けるべきだったのに。本、拾いますね」
彼女はそう言うと、本の背表紙と表表紙をはたきながら、全て回収してくれた。
「はい。これで全部です」
「……あ、ありがとうございます!」
俺はそれだけ言うと、本を抱えて全速力で走った。
運動不足と興奮で息が上がる。彼女の視界から逃れ建物の影に入った俺は、その場にしゃがみ込んで思わず体を震わせた。
「はあ……はぁ……。ふふ……はは、あははははっ!」
嬉しい。嬉しい。嬉しい!
ついに――俺は、ヒロイン『マリー・ステラ』と出会ったのだ!




