横恋慕ヤンデレ美少年改め百合キューピッド男子になります。
「まさか、俺が異世界転生だなんて……」
伯爵令息レイ・シルフィード。
それは、『一〇〇本の薔薇を君に』の悪役令息の名前だ。
この物語のヒロインは、魔力を認められて入学を果たした一般(平民)クラスの少女、マリー・ステラが、第一王子エドワード・クラウンと恋に落ちるという物語だ。
この物語には、二人の悪役が存在する。
一人目は、悪役令嬢イザベラ・ヴァーミリオン。
彼女はこの国の公爵令嬢で、エドワードと結婚して王妃になるために育てられた。それをぽっと出のマリーに邪魔されて、彼女を虐めるというキャラクターだ。
そして二人目が、悪役令息レイ・シルフィード。
彼はマリーに恋に落ち、彼女を誘拐・監禁する、ヤンデレ美少年キャラとして登場する。
いずれにしても、『恋を盛り上げるためのハードル』として登場するキャラで、王子は二人を罰し、ヒロインマリーと王子エドワードは結婚、HAPPYENDというのがこの話の基本的なあらすじだ。
「なんでよりによって、『レイ・シルフィード』なんだ」
実をいうと、『前世の記憶』ははっきりとは思い出せなかった。
ぼんやりと覚えているのは、自分は『白嶺玲』という、『日本』の男子高校生で、『一〇〇本の薔薇を君に』という本を読んでいたということ、そしてその内容だけだった。
あと、覚えているとするなら――。
「この話、百合同人誌が最高だったんだよな……」
同人誌とは、公式(正史)の小説や漫画をもとに読者が描く、二次創作の本だ。
俺は所謂、『百合男子』というやつだった。
商業百合も嗜んでいたが、それだけでは飽き足らず、女性向け作品の百合も読んでいたわけである。
『一〇〇本の薔薇を君に』は、悪役令嬢が敵として出てくるのだが、ある一冊の同人誌を読んで俺は目覚めてしまった。
前髪なしの黒髪ロングの知的な美人。手にはいつもレースの手袋を身に着け、服も黒が多い公爵令嬢イザベラが、ピンクの髪にエメラルドの瞳のゆるふわ系ヒロインマリーと恋仲になるHAPPYENDストーリー。
イザベラを『お姉様』と呼ぶマリーと、マリーを『マリー』と呼び捨てにするイザベラ。
その話では王子はマリーとは結ばれず、イザベラとマリーはまるで美しい姉妹のように寄り添うのだ。
つまり百合である。
俺は、断罪される悪役令嬢の話の同人誌でイザベラ×マリーの百合に目覚めてしまった。
そして、目覚めたのは俺だけではなかったらしく、ついには公式までも動き――公式絵師による百合漫画が発表された時、俺は天を仰いだ。
ここに楽園はあったのだ――と。
だがその世界でも、レイは相変わらず悪役のまま。
『一〇〇本の薔薇を君に』で、レイ・シルフィードが幸せになる結末は存在しない。
「ヤンデレの気持ちがよくわからなかったんだよな……」
レイ・シルフィードという人間は、『顔だけ』の人間として物語では描かれていた。成績も芳しく無く、落ちこぼれ扱いされていた彼は、ある日学校で美しい少女に出会う。
『大丈夫ですか?』
心優しいヒロイン。天使のような美少女マリーに、王子と同じように一目で恋に落ちたレイは、彼女を自分だけのものにするために凶行に及ぶ。
そして、その罪を問われ断罪される――という、流れなわけだが。
「ん……? これってつまり、俺がヒロインに恋に落ちなければいいわけか?」
俺は記憶を辿りながら、重大な事実に気付いてしまった。
シルフィード家が不正を働いているわけではなくレイ個人の罪なら、俺が変わればいいだけだ。
ならば。
「俺はヤンデレ悪役令息じゃなくて、百合のキューピッドになろう!」
正史(公式)が許したのだ。
俺は目を輝かせた。この転生は、俺への天啓に違いない。
二人を愛により結びつけよと――。
「全ては美しき百合のために! ――ラブ&ピース!」




