悪役令息に転生しました。
人生とは、ある日突然変わるものである。
「え……何この顔。めちゃくちゃ綺麗なんだけど」
ベッドから起きた俺は、海外風の見慣れない豪奢な部屋に驚いたあと、鏡に映った少年の顔を見て驚いた。
雪のように白い肌。ほっそりとした輪郭。長い睫毛に、夜明けの空のような色の、丸くて大きな瞳。少し長めの銀色の髪は、少年と少女の境目を曖昧にしている。
なんというプリティフェイス。
美少年というものが世界に存在するなら、その言葉を体現するかのように、鏡の中の少年は美しかった。
「……いや、でも、この顔誰?」
目を覚ます前の記憶はぼんやりとしている。
うーんと顔を顰めていると、部屋に入ってきた花を抱えたメイド服を着た女性が、俺の姿を見て叫んだ。
「坊ちゃまが……レイ坊ちゃまがお目覚めになりました!」
■
「ああ……! 本当にレイ、レイなのだな!」
「生きている間に、レイちゃんともう一度話すことができるなんて。……本当に、まるで夢のようだわ!」
それから、メイドさん(らしき人)のあとに沢山の大人が部屋に入ってきて、最後に身なりの良さそうな両親に抱きしめられ、俺は反応に困った。
「レイちゃん……やっぱり、私たちが分からないかしら?」
「お前が記憶喪失――というのは、本当のようだな」
お母さん(仮)は銀髪青目の美女、お父さん(仮)は金と銀の混じった灰色の髪に、俺と同じ目をした美中年だ。
話から考えると、どうやらこの体の持ち主、レイくん(仮)は、長い間意識不明で眠っていたらしい。
「……申し訳ございません」
「なに他人行儀なことを言っている。私たちは家族なのだ。ほら、パパと呼んでみなさい」
「パ……ぱぱ」
言われるがまま言葉を繰り返し、俺は顔に熱が集まるのを感じた。
――なんだこれ。すごく恥ずかしい!
だが、父(仮)はその言葉にいたく感動したようだった。
「恥ずかしがるな。昔は、そう呼んでくれていただろう? だが……そうだな。今のお前にとって気恥かしいなら、これからは『父上』と呼びなさい」
「じゃあ、ママも母上って呼んでほしいわ」
「……ちち……うえ? ははうえ……?」
俺がそう呼べば、二人は心の底から嬉しそうに、満足気に頷いた。
「うん。そちらのほうが、今のお前には合っているようだな。……仕方ない。お前はあの日以来、眠ったままだったのだからな」
「何か、理由があったのですか?」
「八歳の頃、お前は魔力のコントロールがうまくいかず、魔法を使いすぎてしまったんだ。それからというもの、今日まで眠り続けていた。とはいえ、これでお前が寝ていた間、体を維持するための魔法をかけ続けた甲斐があったというものだ。生きている間に、もう一度お前と話せたのだから」
父上はそう言うと、何か思い出したような表情をして手を叩いた。すると、メイドさんたちがさっと、俺に新しい服を差し出した。
そのデザインに、俺は不思議と見覚えがあるような気がした。
「そうだ。お前ももう、十五歳。学校に通わねばならない」
「学校……ですか?」
八歳から眠りにつき、目覚めたばかりのお坊ちゃんに、すぐに学校に通えというのは少し鬼畜仕様ではないでしょうか?
「どうした? 怪訝な顔をして。やはり、不安が残るだろうか。私から国王陛下に、まだ通学は難しいと申し上げるべきか?」
「い、いえ! 大丈夫です。魔法、ちゃんと勉強したいし! 精一杯頑張ります!」
俺はぶんぶん顔を振った。剣と魔法のファンタジー。目の前の両親を安心させるためにも、学校には通うべきだろう。
「それで、学校の名前は何というのでしょうか」
「王立魔法学校――ヴェリタス魔法学校だ」
「え……?」
その名前に、俺は聞き覚えがあった。
何故なら、俺が知る『物語』の中に出てくる魔法学校と全く同じ名前だったからだ。
「それで……あの、僕の名前はなんというのでしょうか?」
「それも忘れてしまったのか? お前の名前はレイ。伯爵令息、レイ・シルフィードだ」
その名前を聞いた瞬間、俺のなかで何かが弾けた。
ヴェリタス魔法学校に通う美少年、レイ・シルフィード。
それって――……。
「悪役令息じゃん!」




