友達の部屋に内心ワクワクしている間にさらに問題が悪化した件
「ここが、ヴァーミリオン先輩の部屋か」
彼の部屋に入ると、俺の知ってる香りがした。
「この間母上が渡したの、使ってくれているんですね」
公爵令息に渡すものではない気もするが、母上は物を作るのが好きらしい。
そして最近、母上は俺と彼にお揃いグッズを渡してくるのである。
「僕の部屋と同じ香りですね」
つい、癖で微笑んでしまった俺は、背後にいた人物と視線があって固まった。
「……」
そう言えばここには、イザベラ様とマリーさんもいるんだった。
「本当に貴方はお兄様と仲がよろしいようで?」
声がとても刺々しい。
「いやこれは、僕の母上がお世話になっているなら先輩にと――」
「つまり貴方の親公認ということ?」
そうだけれどもそうじゃない!
友達に、公認も何もあってたまるか。
「イザベラ様。何か妙な誤解をされているようですが、僕とヴァーミリオン先輩は……」
『ただの友達』
そう言いかけて、俺は動きを止めた。
本当にそう言い切れる? 彼はイザベラ様の恋を邪魔しようとしていた。俺たちは、そこからすべてが始まったのに。
「……えっと」
言い淀んだ俺は、うっかり彼の机に置いてあった紙の束を倒してしまった。
彼の机の上から落ちたのは、彼が俺のために用意した学習用の資料と、イザベラ様の婚約に関しての書類だった。
もしイザベラ様が、王子の婚約者にならなければ、誰が一番相応しいのか。
身分・外見・財産・交友関係に至るまでの調査結果。
床に落ちた紙を拾いあげたイザベラ様は、静かな声で言った。
「お兄様は、こんなものまで用意してくださっていたんですね」
「これは、以前用意したもので……」
――今はもう捨てるつもりで。
もしかしたら彼は、そう言たかったのかもしれない。
「自分は彼と楽しそうに過ごしておきながら、私には、選択肢すら与えてくださらないのですね」
そこで俺を引き合いに出すのはやめてほしい。
「お兄様は結局、私のことなんてどうでもいいとお考えなのでしょう」
「……イザベラ? 何を言っている。私が……お前を?」
彼は妹を愛している。でもそれを、彼女は知らない。
「お兄様に、伝えておくべきことがあります」
イザベラ様は、マリーさんの手を握った。
「私は今、彼女とお付き合いしています。私は、彼女を――マリーを愛しています」
「……!」
友人だと紹介された少女を、恋人だと紹介される。
彼は、目を見開いてから固まってしまった。
「私を愛してくれた、私が公爵令嬢でなくとも、私を愛していると言ってくれたマリーを、私は心から愛しています。でもきっとお兄様は、私とマリーのことを認めてはくださらないでしょう? わかっています。お兄様は、そういう方だということは」
「……」
ヴァーミリオン先輩は何も言えない。
「――私は、お兄様が羨ましい」
それは、彼女の心からの叫びに俺には聞こえた。
「お兄様は、自分の人生を自分で選べる。誰に笑いかけるかも、誰を利用するのかも――お兄様は、きっと自由なのでしょうね」
彼女の声は震えていた。
「私なんて、お兄様にとって、ただの駒に過ぎないのでしょう! 私と殿下との結婚を望まれていたのも、私のためなんかじゃない!」
イザベラ様は、ぎゅっと拳を握りしめていた。
「わたくし、は。私は、殿下にも、一度も好意を抱いたことなどございません」
「イザベラ様!」
イザベラ様はそう言うと、彼の部屋を走って出ていってしまった。
残されたのは俺と彼。マリーさんは、イザベラ様を追いかけていってしまった。




