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だったら俺は今だけは、貴方にとって出来損ないの

 俺の体から発掘(?)された石は、今度俺専用に加工されることになった。 

 ヴァーミリオン様は、すぐに俺に訓練を再開させた。


「属性に合わせた魔法の展開については改めて教える。だが今のお前なら、風だけでもすべてを破壊できるはずだ」


「はい」


「さあ、レイ・シルフィード。『本来の』お前の魔法を、私に見せてくれ」


 深呼吸。

 想像するのは、目の前の五つの的を、一気に破壊するイメージだ。

 体の中を魔力を巡る。アレキサンドライトと、俺の体の中に眠っていた魔力が反応する。

 いつもより、不思議と視界が明るくなる。

 もしかしたら今俺の瞳は――強い魔力を持つ人間と同じように、魔力を帯びて光り輝いているのかもしれない。


ウィンド


 呪文は、先ほどと同じ初級魔法。だが、威力は天と地ほど違う。

 俺が呪文を唱えた瞬間、五つの的は一瞬で霧散した。


「……わあ。わあああっ!」


 俺は、嬉しくて声を上げた。

 こんな魔法が使える日が、俺に来るだなんて!

 俺は急いで、彼の元に駆け寄った。


「ありがとうございます。出来ました! 初めてちゃんと、魔法ができました!」


 嬉しい。嬉しい。嬉しい!

 だが、興奮している俺とは違い、なぜか彼は硬直していた。

 そして――。


「……イザベラ」


 俺を見て、何故かそう呟いた。

 ――『イザベラ』?


「え……? なんで今僕のこと、『イザベラ』って読んだんですか?」


 俺の指摘に、彼は口元を押さえ、はっと我に返ったような表情をした。


「……す、すまない! その、昔のことを思いだして――」


 少しだけ赤くなった顔を手で隠し、彼は俺から顔を背けた。


「昔、あの子にここで魔法を教えたら、同じような顔をしていたから」


 ――あ。

 俺はその言葉を聞いて、イザベラ様を想像した。イザベラ様が魔法を使うとき、瞳が光るのを俺は見たことがある。

 もしかしたら昔イザベラ様も幼い頃、今の俺のように彼に魔法を教わって、魔力で瞳を輝かせて彼に駆け寄ったことがあるのかもしれない。


「……イザベラ様が?」

「ああ。今からは考えられないが、昔あの子は俺の後をついて回っていたんだ。だから、魔法を教えたらとても喜んで――」


 彼の言葉はそこで一度途切れた。


「今はもう、私には昔のように笑ってはくれないが」


 彼の声はまるで、後悔していたかのような声だった。

 だから、俺は――。


「……これは、今日教えて貰った貴方への『ご褒美』です。コホン。ふ――……」


 咳払いして、深呼吸。


「?」


「『私に勉強を教えてくださって、ありがとうございました。お兄様!』」


 シルフィードの家系が、風魔法を得意とするのもあるかもしれない。俺は、人の声を真似ることが得意だった。


「……っ!」


「『どうかこれからも、私に魔法を教えてくださいませんか?』」


 俺は、イザベラ様の声を真似て彼に微笑んだ。

 ――すると。

 彼は大きな手で俺を引き寄せると、そのまま強く俺の身体を抱きしめた。


「……っちょっ! いきなり、抱きつかないでくださいよ……!」


 俺はただ得意な声帯模写で、イザベラ様の真似をしただけなのに!


「は、離してください……」


 俺に男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。

 でも彼の腕から抜け出すには、俺は体格も力でも負けていた。それに、弱々しく感じる今の彼を、無理に引き剥がすことは、俺には出来なかった。

 涙をこぼすのは堪えている。年上の大きな男が、今は小さく体を震わせて泣いている。


「……ありがとう」


 彼は、消えてしまいそうなほどか細い声で俺に尋ねた。


「私は……まだ私は、やり直せるか?」


 その言葉を聞いて、俺はもしかしたらこの人は、ずっと妹にしてあげたかったことを、俺にしてきたのかもしれないと思った。

 今はもう、兄の力なんて必要ない。一人で独り立ちしてしまった妹に。


「泣いているんですか?」


 ノクス・ヴァーミリオンという人は、もしかしたら俺が思っていたよりずっと、不器用な人なのかもしれない。

 その時、俺は強くそう思った。

 

 この人は、イザベラ様が闇落ちする原因だ。でも彼は確かに、心からイザベラ様を愛している。


「本当、仕方の無い人ですね」


 だったら俺は今だけは、貴方にとって出来損ないの、手のかかる妹でいてあげる。


「……大丈夫。大丈夫ですよ」


 俺はそう言うと、彼の背を優しく叩いた。


 彼が心から愛する、俺が大好きな人の為にも。



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