ちょっと! 流石にスキンシップが激しすぎやしませんか!?
俺を守ってくれたヴァーミリオン様は、攻撃を防ぎきれなかった俺に驚いていた。
「何故押し切らなかった? 彼の弟なら、可能かと思っていたが」
「あの。もしかして僕の兄は、力でゴリ押しするタイプだったりします?」
「ああ。彼は魔力が強いから、弱点となる属性相手でも、そのまま押し切るところは見たことがある」
どうしよう。会ったこともない兄に、脳筋フラグが立った。
「その瞳なら、できると思ったんだが」
爵位を持つ家系には得意魔法が存在し、それは名前や瞳の色に現れる。
シルフィード家は風であり、ヴァーミリオン家は炎だったはずだ。
「やっぱり僕には、才能がないのかもしれません」
「私はそうは思わない」
彼は断言した。
「少し確かめたいことがある。面倒かもしれないが、私に合わせてくれるか?」
■
「あ、あの……! この体勢は、本当に必要なんでしょうか」
「必要だ。ほら、ちゃんと集中しなさい。私の魔力を、そう――ちゃんと、辿って」
スキンシップが多い!
何故か俺は今、訓練前の彼の宣言通り、手を取って指導を受けていた。
俺の右手と左手の上に、背後に立つヴァーミリオン様が手を重ねている。
彼の身体からはゆっくりと魔力が流し込まれて、力は緩やかに、俺の中を巡っていく。
「や……だ。なんか、ぴりぴりする」
「我慢しなさい」
先生モードの時、口調が若干変わるのやめて欲しい。先生に怒られたみたいな気持ちになる。
「目を閉じて。心臓の鼓動を、魔力を感じて。……そう。ゆっくりでいい。それを、体に巡らせるよう思い浮かべて」
自分の頭より高い所から、低い声が降ってくる。
幼い子どもの手を引いて、ゆっくり大人が歩くみたいに。
「そう……。上手だ。偉いな」
その声は、やけに優しくて甘い。
「……あ、あの!」
くすぐったくて、俺は思わず抗議した。
「ちょっと、その、優しく囁くみたいなのやめて貰えませんか」
「どうして?」
本当無自覚なのか、彼は本当に不思議そうに俺に尋ねた。
「なんか、よく分からないんですけど」
俺は小さく体を震わせた。
「……ぞわぞわ、します」
女の子なら喜ぶかもしれないけど、俺は全然喜べない!
離れてほしい。
俺の意思を汲んでくれたのか、彼は俺から手を離した。
「魔力の質は悪くない。魔力も循環はできている。ただ、何故か出力がうまくいっていない。石の硬度も問題ない。なら、原因は別にある可能性があるな」
彼はそう言うと、服越しに俺の胸に手を当てた。
「ちょっ! ヴァーミリオン様、どこ触って――」
突然身体に触れられて、俺はぎゅっと目を瞑って身体を縮こまらせた。
「動くな」
だが当の本人は、あくまで真面目な表情だ。
「……っ」
彼の大きな手が、俺の身体に触れる。のどを滑り――鎖骨、肩、そして心臓へ。
「……ふむ」
そして彼は、ある場所に触れて頷いた。
「ここか」
そう言うと、とん、と彼は俺の身体を押した。その瞬間、視界でばちっと星が弾けた。
「!? あ……ぅ。なに、これ……あ、」
体がおかしい。
俺は、痛みのあまりその場にしゃがみ込んだ。
「からだの、なか、へんなかん……。うっ」
そんな俺を、彼は黙って見下ろしていた。
「ぃっ、あ……っ。ああ……っ!」
痛みは、ゆっくりと喉の方へと登っていく。硬い塊のようなものが、俺の体の中をこじ開けていくような妙な感覚。
「げほっ! げほげほっ!」
そうして俺は、『それ』を吐き出した。
「はぁ……はあ……。…………ん?」
ようやく痛みが治まって、だんだん鮮明になる視界の隅に、俺は不思議な塊を見つけた。
「なんだこれ。石……?」
それは美しく――名前はわからないけれど、俺の瞳に似た色をしてきらきらと輝いていた。
「ある意味それは、魔石の一種だ」
彼は、静かにそう告げた。
「私も実物を見たのはこれが初めてだ。かなり希少な症例だが、お前の場合長く眠っている間に、身体にできてしまったんだろう。生来強い魔力を持つ人間に出来やすく、これがあるとうまく魔法が使えないらしい。その石は、お前の蓄積された魔力そのもの。耳の石同様、魔石としても使える。自分の体でできた分、その人間が使えば効果は強くなる」
「え……」
俺は、石を手に目を丸くした。
つまり、俺は俺特製の魔石を手に入れたことになる。だが、問題はそこではなくて。
「え……!? そんな猫が毛をのんじゃうみたいなことがあるんですか!?」
「ある。原因が分かってよかったな? これで、魔力の巡りを邪魔するものはなくなったはずだ」
彼は断言した。
「そんな……」
俺は猫だったのか。
自分の魔力を体内に溜め込んで、それが体のなかに溜まったせいで、うまく魔法が使えなくなる――?
つまりさっきの彼の行動は、一種の医療行為だった、というわけだ。
これでは文句を言うことができない。
「魔力を身体に巡らせる、さっきの感覚をもう一度思い出してみなさい」
彼の指示通り、身体に魔力を込めた俺はその違いに驚いた。
「あ、れ……? さっきまでとは、全然違う……!」
喉の奥に支えていたものが取れたかのように、少しだけ力を込めただけで、大きな魔力が体を循環する感覚が、今の俺にはあった。




