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ちょっと! 流石にスキンシップが激しすぎやしませんか!?

 俺を守ってくれたヴァーミリオン様は、攻撃を防ぎきれなかった俺に驚いていた。


「何故押し切らなかった? 彼の弟なら、可能かと思っていたが」

「あの。もしかして僕の兄は、力でゴリ押しするタイプだったりします?」

「ああ。彼は魔力が強いから、弱点となる属性相手でも、そのまま押し切るところは見たことがある」


 どうしよう。会ったこともない兄に、脳筋フラグが立った。


「その瞳なら、できると思ったんだが」


 爵位を持つ家系には得意魔法が存在し、それは名前や瞳の色に現れる。

 シルフィード家は風であり、ヴァーミリオン家は炎だったはずだ。


「やっぱり僕には、才能がないのかもしれません」

「私はそうは思わない」


 彼は断言した。


「少し確かめたいことがある。面倒かもしれないが、私に合わせてくれるか?」



「あ、あの……! この体勢は、本当に必要なんでしょうか」

「必要だ。ほら、ちゃんと集中しなさい。私の魔力を、そう――ちゃんと、辿って」


 スキンシップが多い!


 何故か俺は今、訓練前の彼の宣言通り、手を取って指導を受けていた。

 俺の右手と左手の上に、背後に立つヴァーミリオン様が手を重ねている。

 彼の身体からはゆっくりと魔力が流し込まれて、力は緩やかに、俺の中を巡っていく。


「や……だ。なんか、ぴりぴりする」

「我慢しなさい」


 先生モードの時、口調が若干変わるのやめて欲しい。先生に怒られたみたいな気持ちになる。


「目を閉じて。心臓の鼓動を、魔力を感じて。……そう。ゆっくりでいい。それを、体に巡らせるよう思い浮かべて」


 自分の頭より高い所から、低い声が降ってくる。

 幼い子どもの手を引いて、ゆっくり大人が歩くみたいに。


「そう……。上手だ。偉いな」


 その声は、やけに優しくて甘い。


「……あ、あの!」

 

 くすぐったくて、俺は思わず抗議した。


「ちょっと、その、優しく囁くみたいなのやめて貰えませんか」

「どうして?」


 本当無自覚なのか、彼は本当に不思議そうに俺に尋ねた。


「なんか、よく分からないんですけど」


 俺は小さく体を震わせた。


「……ぞわぞわ、します」


 女の子なら喜ぶかもしれないけど、俺は全然喜べない!

 離れてほしい。

 俺の意思を汲んでくれたのか、彼は俺から手を離した。


「魔力の質は悪くない。魔力も循環はできている。ただ、何故か出力がうまくいっていない。石の硬度も問題ない。なら、原因は別にある可能性があるな」


 彼はそう言うと、服越しに俺の胸に手を当てた。


「ちょっ! ヴァーミリオン様、どこ触って――」


 突然身体に触れられて、俺はぎゅっと目を瞑って身体を縮こまらせた。


「動くな」

 

 だが当の本人は、あくまで真面目な表情だ。


「……っ」


 彼の大きな手が、俺の身体に触れる。のどを滑り――鎖骨、肩、そして心臓へ。


「……ふむ」


 そして彼は、ある場所に触れて頷いた。


「ここか」


 そう言うと、とん、と彼は俺の身体を押した。その瞬間、視界でばちっと星が弾けた。


「!? あ……ぅ。なに、これ……あ、」


 体がおかしい。

 俺は、痛みのあまりその場にしゃがみ込んだ。


「からだの、なか、へんなかん……。うっ」


 そんな俺を、彼は黙って見下ろしていた。


「ぃっ、あ……っ。ああ……っ!」


 痛みは、ゆっくりと喉の方へと登っていく。硬い塊のようなものが、俺の体の中をこじ開けていくような妙な感覚。


「げほっ! げほげほっ!」

 

 そうして俺は、『それ』を吐き出した。


「はぁ……はあ……。…………ん?」


 ようやく痛みが治まって、だんだん鮮明になる視界の隅に、俺は不思議な塊を見つけた。


「なんだこれ。石……?」


 それは美しく――名前はわからないけれど、俺の瞳に似た色をしてきらきらと輝いていた。


「ある意味それは、魔石の一種だ」

 

 彼は、静かにそう告げた。


「私も実物を見たのはこれが初めてだ。かなり希少な症例だが、お前の場合長く眠っている間に、身体にできてしまったんだろう。生来強い魔力を持つ人間に出来やすく、これがあるとうまく魔法が使えないらしい。その石は、お前の蓄積された魔力そのもの。耳の石同様、魔石としても使える。自分の体でできた分、その人間が使えば効果は強くなる」


「え……」


 俺は、石を手に目を丸くした。

 つまり、俺は俺特製の魔石を手に入れたことになる。だが、問題はそこではなくて。


「え……!? そんな猫が毛をのんじゃうみたいなことがあるんですか!?」


「ある。原因が分かってよかったな? これで、魔力の巡りを邪魔するものはなくなったはずだ」


 彼は断言した。


「そんな……」


 俺は猫だったのか。

 自分の魔力を体内に溜め込んで、それが体のなかに溜まったせいで、うまく魔法が使えなくなる――?

 つまりさっきの彼の行動は、一種の医療行為だった、というわけだ。

 これでは文句を言うことができない。


「魔力を身体に巡らせる、さっきの感覚をもう一度思い出してみなさい」


 彼の指示通り、身体に魔力を込めた俺はその違いに驚いた。


「あ、れ……? さっきまでとは、全然違う……!」


 喉の奥に支えていたものが取れたかのように、少しだけ力を込めただけで、大きな魔力が体を循環する感覚が、今の俺にはあった。


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