金持ちの考えが理解できないんだが?
「――来たか」
公爵家の屋敷に着くと、ヴァーミリオン様が俺を出迎えてくれた。
馬車から降りる俺に手を貸してくれた彼に、俺は思わず叫んでしまった。
「来たか……じゃ、ないんですよ。僕の家に馬車をよこすとか、何を考えているんですか!」
俺は顔を手で覆って、彼の行為を非難した。
「そのせいで、父上と母上にバレたじゃないですか……」
「? 休日までしっかり学んでいることがご両親にわかってよかったじゃないか」
「……」
駄目だ。この人は何もわかっちゃいない。
母上は、最近この人の話をよく俺にふってくるのである。何が好きなの、だとか。どこで出会ったの、だとか。
貴方の愛する息子は、美少女二人のキューピッドとなり、その兄に目をつけられて今があるとはとても言えない。
「僕、貴方のそういうところ嫌いです」
「そうか」
彼は、俺が『嫌い』といったにも関わらず、サラッとひと言で流してしまった。
傷ついた素振りをしないあたりも気に食わない。彼が俺の扱いに少し慣れた感じがするのも癪に障る。
「まあいい。無駄話はやめて、そろそろ場所をうつそう」
■
「ここは?」
彼に連れてこられたのは、だだっ広い空間だった。
「公爵家の訓練場の一つだ」
説明を受けながら、俺はその場所を見渡した。純度の高い石で魔法が張られている場所特有の、肌に薄い膜が触れるような、不思議な感覚がある。
「この空間には、最上級の魔法石での結界が張ってある。暴発しても問題ないから、全力で魔法を撃って構わない」
「石の硬度は?」
「10+++」
彼の回答に、俺は言葉を失った。
「……それ、本当に高いやつじゃないですか」
普通の石の最大硬度とされる金剛石で10。
これは俺の前世のモース硬度と同じだが、魔法石の場合、更にその上の硬度があり、「+」という表記が行われる。
一般的に、「+」が付くたびに価格が累乗されるイメージらしいので、「+++」は10の1000倍の価値ということになる。
ダイヤモンドの1000倍の価値の魔法石を、四方に配置し結界を張った空間というだけで、公爵家の財力が窺えるというものだ。
「4000……4000倍……」
俺がブツブツ呟いていると、彼は何故か満足げだった。
「魔法石・結界に関する知識は、問題ないようだな」
そりゃあ、生徒が学習した内容を覚えていたら教えた側は嬉しいでしょうけれど!
俺にとって問題はそこじゃないのだ。
高価すぎるものに囲まれて、全然心が落ち着かない!




