放課後図書館個人授業(俺Ver)
「うう。なんて日だ……」
翌日の放課後、俺は彼が自作したテストを永遠と受けさせられていた。
魔法理論、薬草学、魔法工学etc……問題の難易度は様々。
『レイ・シルフィード』が目を覚ましてから学校で習った範囲は部分点ならとれるかもしれないけれど、段階的な質問で基礎知識を問われて細かい箇所を突っ込まれた俺は、自分が何をわかっていないのか丁寧に指摘されたように感じてメンタルにきた。
「なるほど。結果を見るに、根本的に基礎がまるきり足りないみたいだな」
「すいませんね。僕は八歳からつい最近までずっと眠っていたんです。出来なくて当然じゃないですか……」
思わず泣き言を吐いてしまう。
そもそも前世の世界には魔法がなかったのだ。
円を描くといえば算数の授業の時のコンパスくらいなのに、魔法陣を手書きしろと言われてもふざけるなと思う。しかもこれ、正確な円が書けるほど評価が高いのだ。魔法使いなのにフリーハンド描画の才能がもてはやされる世界! なんでだ!
「そうだな。勉学は積み重ねだからな。お前ができないのは仕方がない」
「……」
俺は、ヴァーミリオン様がわからなかった。
無理矢理彼を連れ回したのでウザがられたのは間違いないとして、俺がいなければイザベラ様たちを邪魔しやすくなるのに、わざわざ放課後の時間を俺のために使うだなんて。
もしかしてこの人、被虐趣味でもあるんだろうか。俺に散々に言われるのが案外悪くなかったり? ……いや、だとしたら、俺への圧が強いことが納得がいかない。
「だが、最近になって学び始めたとするなら、筋はいいほうか」
「……へ?」
ん? 今貴方に褒められてます? 俺。
というか俺のことを褒めるっていう優しさが、貴方の中あったんですか!?
貴方、今日何か変なものでも食べました? キノコとか! 毒キノコとか!!
「無駄に回る舌を思えば、頭の回転は悪くはないということか」
いや、違う。やっぱりdisられてる気がするな。
「まあ……」
ちら、と視線を上げて、ヴァーミリオン様は俺を見た。
イザベラ様と似ているのに、彼女よりも怜悧な赤い瞳に、俺は少しどきりとした。
今の彼に対する心象は良くないけれど、綺麗なものは昔から嫌いじゃない。
「基礎が無い中、これまで一人で努力したことは素直に褒めよう。お前の状況を思えば、個人での学習に頼っていたなら、寧ろこれは奮闘している方だ」
「……ありがとうございます」
誰からであろうと、褒められるのは悪くない。
特に魔法は、自分でも頑張ってきた自覚があるのだから。
ほら、そこの貴方。俺のこと、もっと褒めてくれてもいいんですよ?
「レイ・シルフィード。明日の放課後も時間は空いているか」
「はい。まあ、ここで勉強をしなくてはいけませんが……。て、うん? それがどうかしたんですか?」
突然明日の予定をきかれて俺は首を傾げた。
「明日からは毎日放課後、私がお前を指導する」
「は」
昨日に今日で、明日まで!?
というか、『明日から毎日』って――。
「待ってください。兄妹二人揃って、人に勉強を教えるのが好きなんですか!?」
俺は思わず、立ち上がって叫んでいた。
「私はお前に付き合ったんだ。ならお前も、私から逃げるなよ」
彼の俺を水松布は少し厳しい。
やっぱり優しさとか思いやりとかじゃなくて、俺に対する仕返しなのかもしれない。
なんでだ。この人も百合の素晴らしさを知れば、人生はより美しく輝くと俺は確信してるだけなのに。
それに彼の妹であるイザベラ様を思えば、俺の行動は最終的に貴方にとってプラスになるはずなのに――恩を仇で返すなんて。
善意を悪意で返すなんて、なんて人だ!
俺は一人目を閉じて、幸せそうに笑う二人を思い浮かべた。
マリーさんとイザベラ様の笑顔が恋しい。
「この私に教わるんだ。もう、出来ない理由は言わせない」
枯れ木に花を。人生に白い百合の花で潤いを。
ほら、荒んだ世界が、少しだけ綺麗に見えるようになったでしょう?




