★悪役令嬢の兄に捕まりました。(イザベラ兄・ノクス登場回)
「は〜〜。食事は美味しいし、庭には赤い薔薇が咲いてるし、本当ここは最高だな!」
さすが公爵家。
「散歩散歩、っと」
翌日、イザベラ様に屋敷に招かれた俺は、ご飯をご馳走になり、その後庭を歩いていた。
マリーさんとイザベラ様は仲良くお庭で二人お散歩中のため、俺は遠くから公爵家の人間に監視されつつ放置されていた。
「二人は無事両思いになったし、これからはいい感じの距離から二人の幸せな日常を眺めさせてもらえたら最高だな!」
美少女二人が仲良さそうにしてる姿を見れば、視力も上がりそうな気がする。まさに眼福である。
「そこの男、止まれ」
――なんて。
考えながら俺が歩いていたら、低い声が俺を呼び止めた。
「もしかして貴方は――公爵令息、ノクス・ヴァーミリオン様ですか?」
俺の足止めの仕方がイザベラ様に似ている。
なぜか彼は、剣の切っ先を俺に向けていた。
「その通り。だが、何故それを聞く? 知らなかったわけではないだろう?」
いや、普通に知りませんでしたけど?
「申し訳ございません。僕は最近、学校にも通えるようになった病み上がり(?)の身でして。少し前まで、静養のために学校を休んでいたのです。ですので、今の今まで貴方様のことは直接は存じ上げませんでした。ただ……」
俺は、じっと彼の姿を見た。
「本日、イザベラ様にそっくりの美しいお顔を拝見して、僕は全てを理解しました」
長髪黒髪赤目高身長。
イザベラ様のお兄様は、雰囲気含めイザベラ様そっくりだった。
「……仕方ない。その言葉に免じて剣を収めよう」
「ありがとうございます」
俺は、にこっとイザベラ様のお兄様に微笑んだ。
なんだこの人、すごくチョロいな。公爵家は後継ぎがこれで大丈夫なんだろうか。
イザベラ様のお兄様は、イザベラ様のトラウマ製造機だという認識だったんだが、この人自身が人を簡単に信じすぎじゃないか?
言いくるめる自信がありすぎる。
「その瞳……。なるほど。お前が私を知らなかったというのは、本当らしいな」
「? ありがとうございます」
お兄様は、俺の瞳の色で全てを理解したらしい。もしかして、彼は俺の家族の誰かと、面識があるんだろうか?
「説明をしろ。私の妹に、一体何を吹き込んだ?」
「あの、俺は別に妹さんと特別仲がいいわけではなく……。どちらかというと妹さんの隣にいる方と関係があるというか……」
イザベラ様は、昨日から俺に対して多少優しくなったものの、基本今はマリー様にしか興味がないはずだ。
「何であろうとどうでもいい。お前は、私の妹の周りをうろついて何をしようしているんだ? 答えないなら、容赦はしない」
「こたえます。こたえますからっ!」
お兄様は、血気盛んな人らしい。いちいち剣で脅そうとするなんてひどい人だ。
俺は、精一杯自分の小物っぷりをアピールした。
「それで、お前は何がしたいんだ?」
「僕は純粋に、百合を求めています」
「……百合?」
お兄様は首を傾げた。
「百合というのは花のことか?」
「いえ、そうではありません」
俺は静かに、はっきりと、その言葉を口にした。
「女の子同士の恋愛のことです」




