表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/43

マリー・ステラに嘘は似合わない。①

「何が違うっていうの?」


「違うんです。私が……私が一緒に過ごしていただきたいのは、レイさんではなくてイザベラ様なんです!」


 マリーさんは必死だった。


「何を言っているの? 貴方が誘ったのは彼でしょう。今日だって、彼も仲良さそうに話をしていたじゃない」


 イザベラ様は誤解していた。

 俺は彼女の恋の協力者。ただそれだけの関係なのに。


「レイさんには仲良くしていただいています。でもそれは、彼が私の手伝いをしてくれていたからなんです」


「『手伝い』?」


 イザベラ様の眉が、ピクリと動く。

 マリーさんはそれを見て、深く息を吐いてから――ずっと、胸の底にしまっていたことを話し始めた。


「私、ずっと騙してました。私、貴方に近づきたくて、これまで嘘をついてきました」


「マリー?」


 イザベラ様は、信じられないという表情でマリーさんを見つめていた。


「貴方……一体何を言っているの?」


 イザベラ様の声は震えていた。

 まるで信じていた世界の全てから、裏切られた子どもみたいに。


「イザベラ様を初めて見た時、私は、その全てに憧れました。綺麗で、私にはないものを全部持っている。みんなから、誰からも一目を置かれる、この国の公爵令嬢」


 マリーさんの声は静かだった。


「嫉妬することすら出来なかった。だって、貴方は何もかもが完璧に見えて。そして、誰より高貴な身分のはずなのに、人の目がなくても手を差し伸べる。私が、貴方を見ていたある日のこと。貴方は、校内でいじめられていた生徒に手を差し出した」


 マリーさんが話す内容は、俺が知る『一〇〇本の薔薇を君に』の内容と同じだった。


 このエピソードこそ、俺がイザベラ様をただの悪役令嬢だと思えなかった理由。

 彼女は物語の過去編において、マリーさんが王子に見初められ、自分という存在が好奇の目に晒される前は、寧ろ平民を虐める貴族クラスの生徒たちのいじめを、唯一止める令嬢として描かれる。


 校内の噴水に、体を押されて落ちた平民クラスの生徒。それを見て笑う、貴族クラスの生徒たち。

 お前の着ているその制服は、自分たちの領地から得た金で賄われているのだと、その利益が平民によって生み出されていることも理解せず、尊厳を貶めようとする貴族の令息。


『貴方たちは、一体何をしているの』

 イザベラ様はそんな悪に毅然と立ち向かい、見返りなく弱者を助けようとする。

 

『大丈夫?』

 イザベラ様は、虐められていた少年の濡れた頬をハンカチで拭ってやった。

 だがハンカチは少年に奪われ、彼は逃走――後に、病の親の薬代に変えようと、刺繍のハンカチは後に市場に出回ることになるのだが、その際公爵家の紋章が刻まれていたことで、少年は盗人として捕まり退学になってしまうのだ。

 それ以来、彼女は紋章入りのハンカチを学校では持ち歩かないようになった。


 この事件で、彼女は深く心に傷を負う。

 イザベラ様の優しさは、HAPPYENDで終われなかった。

 彼女の純粋な優しさは、誰にも理解されずに届かない。

 彼女の兄はこの件に箝口令を引き、そして言うのだ。


『簡単に人を信じるな。公爵家の令嬢が、他人に簡単に心を許すな』

 ――と。


「彼が虐められていることを知っていても、私は、彼を助けることはできなかった。私、怖かったんです。私は女で、力では、絶対に敵わないってわかっていて。でも、貴方は違った。公爵令嬢であったとしても、怖くない筈なんてなかったのに」

「……」


 マリーさんの話を、イザベラ様は黙って聞いていた。


「でもその後、彼が退学になって。貴方は一人、事件のあった場所で泣いていた。『どうして』と。誰にも聞こえないよう、小さな声で言いながら」


 人の心を救おうとする人間は、人の傷つけ方も知っている。

 心を病んだイザベラ様は、マリーさんと敵対する。本来の彼女なら望まないことなのに、心が壊れた彼女は他者ひとを傷つけてしまう。


「その後も、貴方は困っている誰かを見たら必ず手を差し出した。貴族の気まぐれな施しだと、揶揄やゆする人がいたとしても。私は、そんな貴方の姿を見る度に、思いが強くなりました。いつか、貴方と話がしたい。仲良くなりたい。でも私のような人間が、貴方に近づける筈がない。――そんな時」

 

 マリーさんは、今にも泣いてしまいそうな目で俺を見た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ