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初めてのお使い//クロエ・ホアンを追って

……………………


 ──初めてのお使い//クロエ・ホアンを追って



 天義会(テンイーフェイ)の幹部である(ジョウ)明軒(ミンシュエン)を追って港に飛び込んだファティマとミオン。


 ミオンの握る“月断ち”の刃が舞い、ファティマの操る二振りの刃が踊る。

 天義会のメンバーたちが次々に斬り殺され、ナノマシン混じりの鮮血が散った。


「ひっ、ひいっ!」


「畜生、畜生!」


 天義会のメンバーたちは可能な限り抵抗したが、ミオンとファティマを止めることはできず、彼らはその屍を晒した。


『ミオン。港に向けて船が接近中。天義会の船っぽいな。到着までは20分ほど。それから──周の姿を埠頭に見つけた。監視カメラの映像をそっちに送るぞ』


「ありがと、(リー)可昕(クァシン)


 ここでミオンのARデバイスに李可昕から着信。

 ミオンのAR上の視界に埠頭にいる周の姿が表示される。

 周は40代前後のスーツ姿の男で、その表情には焦りの色が見られた。

 その周がいる埠頭に向けて、ファティマが密航に利用したような小さな貨物船が接近している。


「ファティマ。周を見つけてもすぐには殺さないで」


 と、ここでミオンがファティマにそう要請する。


「えっ? ど、どうしてです……?」


「恐らくクロエ・ホアンの居場所を知っているのはやつだけだから。やつを殺すとクロエ・ホアンの方が捕まえられなくなる。それは困るんだ」


「りょ、了解です」


 ミオンは周を尋問して、TMCに潜入しているクロエ・ホアンの居場所を吐かせるつもりであった。

 今のところ、李可昕もマトリクスでクロエ・ホアンの情報は掴んでいない。

 相手が産業スパイであることを考えれば、そう簡単に居場所は掴ませないだろう。

 だから、周を尋問する必要がある。


「さあ、逃げられないように捕まえよう!」


 ミオンは駆け、ファティマがそれに続く。

 彼女たちは埠頭に向けて迫り、肉眼でも周の姿が見えてきた。

 周はミオンたちの姿を見ると表情を死人のように青ざめさせる。


「畜生、来やがったぞ! サイバーサムライだ!」


(ジョウ)大人(ターレン)を守れ!」


 周の周りにいる天義会のメンバーたちがアサルトライフルの銃弾をミオンに向けて浴びせようとした。

 だが、ミオンは信じられない動体視力で銃弾を弾き、回避し、瞬く間に天義会のメンバーたちに肉薄していく。


「クソッタレ! 船はまだか!?」


「もう少しです、周大人!」


 部下たちに守られながら焦る周。

 船はすでにその船灯の光がはっきりと見える位置まで来ていたが、それよりも早くミオンたちの方が周に到達するのは間違いない。


 しかし、それでも周たちは粘り、抵抗を続ける。


「ファティマ。パワード・リフト機を落としたときみたいに、魔法で船も沈められたりする?」


「えっ、えっと。やってみます!」


 ファティマは光の刃を埠頭に迫る船に向けると、喫水線より下を狙って刃を放ち、二振りの刃を平行にして斬り裂いていった。

 これによって貨物船に大規模な浸水が発生。

 船は傾斜して、脱出ボートが展開されるとそこから人が逃げていく。


「じょ、冗談だろ!?」


 それを見た周が悲鳴じみた声を上げる。

 彼の部下も突然のことに動揺し、狼狽えているのが分かった。


「好機到来!」


 ミオンはその隙を見逃さなかった。

 彼女は一気に距離を詰め、周の護衛を撫で斬りにしていく。

 首が飛び、血が飛び、機械化された内臓が零れ落ちる。


「クソッタレッ! お前らどこの連中の差し金だ!」


「それはあなたがよく知っているんじゃないかい?」


 ついに護衛が全員排除され、周がミオンを睨む。

 彼女は刃を周に向け、そして嗜虐的な笑みを浮かべて周を見た。


「クロエ・ホアン。あなたが入国させた産業スパイ。こいつはどこにいる?」


「あ、あの傭兵か……! つまり、お前らは大井に雇われた連中か……!?」


「いいから居場所を言って。さもないと海に突き落とすよ。TMCの海がどういう場所かは分かってるよね?」


 TMCの海──東京湾は致死的な毒素を吐く海洋微生物によって汚染されており、海に落ちればその毒素で苦しんで死ぬか、または回復不能な障害を負う。


「クソ、クソ。やつの居場所を吐けば逃してくれるのか?」


「考えてあげよう。けど、急がないとこっちのハッカーが先に居場所を見つけて、あなたは不要になるよ?」


 ミオンはそうはったりをかまして、周を問い詰めた。

 周は恐怖と焦燥、そして混乱の色を顔に浮かべ、唸るようにして考え込んだ。


「喋らない? なら、そろそろ海に──」


「待て! 分かった、分かった! やつはセクター13/6にあるビジネスホテルにいる! これが位置情報だ!」


 そう言って周はミオンの端末に位置情報を送信してきた。

 位置情報はTMCセクター13/6にある、とあるビジネスホテルを指していた。


「李可昕? 確認してくれる?」


『こいつは天義会の所有物じゃないな。今、構造物をハックしてる。出入りの際の生体認証情報を引っこ抜けば──』


 李可昕は早速、問題のビジネスホテルの構造物にハッキングを仕掛け、内部の情報を抜き取っていく。

 そして得られた生体認証情報をクロエ・ホアンのそれと照合した。


『ビンゴ! 間違いなくやつはこのホテルにいるぞ』


「よし。やったね」


 これでクロエ・ホアンがどこにいるのかという情報は手に入った。

 あとは彼女を生け捕りにするだけだ。


「それじゃあね、周明軒。悪いけどこれも仕事(ビズ)だから」


「まっ、待て! それは話が違う──」


 ミオンはそこで袈裟懸けに周を切り捨て、周はばっさりと斬り裂かれた胸から血を流して埠頭に倒れた。

 それはほぼ即死であった。


「……生かしておくんじゃなかったんですか……?」


 その光景を見てファティマがそう尋ねる。

 彼女はミオンが周を見逃すと思っていたようだ。

 騙し討ちのような形になった光景を見て、ファティマは少し動揺していた。


「あたしはあくまで考えるとしか言ってないよ。まあ、ジェーン・ドウから殺害が依頼された時点で、生かしておくっていう選択肢はないんだけど」


 それに、とミオンは続ける。


「報復される可能性は潰しておかないと。下手に見逃せば、将来どこかで突然背後から刺されるかもしれない。そういうのが珍しくないのがこの街だから」


 そのミオンの言葉を聞いて、この街で生きていくのは大変そうだと改めて認識したファティマであった。

 この街は殺伐とし過ぎている。


「さあ、クロエ・ホアンを取っ捕まえにいこう。急がないと逃げられる」


「は、はい」


 ミオンがそう言い、彼女たちは再び車両に戻ると港から市街地に向けて走行。

 問題のビジネスホテルへ向けてスラム街を飛ばしていく。


「ファティマ。次の目標(ターゲット)は生け捕りが目的だ。間違って殺さないようにね」


「よ、用心しておきます」


 これまで一度たりともうっかりで人を殺したことはないのだが、ミオンにそう警告されてファティマは一応注意することにした。

 それから彼女たちを乗せた車はいくつもの高層建造物がある地区に入り、壁のように聳える雑多なビル群の間を通り抜け、目的のビジネスホテルに到着。

 目的のビジネスホテルは16階建てで1フロアに90室というそれなりの大きさであった。


「李可昕。まだホテルの構造物はハックしてる?」


 ミオンがARデバイスを経由して、李可昕にそう尋ねる。


『してるぞ。クロエ・ホアンは10階にいる。10階の1003号室だ。監視カメラのログを見る限り、一度部屋に入ったあと一度も外に出てはいない』


「オーケー。突入(ブリーチ)だ。やるぞ」


 それから李可昕の言葉にミオンはにやりと笑った。

 彼女たちはビジネスホテルのエントランスを潜り、ビジネスホテルの中に。


「ようこそ、お客様。ご宿泊でしょうか?」


「いいや。泊まっている人に用事がある」


 シルエットだけは人型の簡易な接客ボットがすぐに寄ってくるのにミオンは超電磁抜刀して、軽合金製のボディを有していた接客ボットを斬り捨てた。


「ごごごごごごしゅしゅしゅ、くくくく、はく────」


 ばちりと火花が散り、接客ボットが壊れたレコードのように言葉を繰り返しながら、やがて動かなくなった。


「ひゃあ!? な、なんで斬ったんです……?」


「だって、この手の施設は基本宿泊者以外は内部をうろちょろできないから。ホテル側に邪魔される。それにそれ接客ボットに見せかけてあるけど警備ボットだよ。ほら、内部にテーザーガンが仕込んである」


 いきなりのことに驚くファティマにミオンが冷静にばらばらになった接客ボットを見せる。

 接客ボットの内部には確かに物騒なテーザーガンが内蔵されていた。


「さて、李可昕。10階までエレベーターを動かして」


『あいよ』


 カードキーがなければ動かないエレベーターが李可昕の外部からの操作によって動かされ、1階に到着するとその扉が開く。

 ミオンたちはすぐさま乗り込み、エレベーターの扉が閉じる。


『10階に参ります~』


 李可昕が冗談を言いながら、エレベーターは上昇していく。

 エレベーターはそのまま10階に到着し、扉が開いた。


『1003号室はすぐ先だぜ。用心していけよ』


「分かってるって」


 李可昕の言ったようにクロエ・ホアンがいるはずの1003号室の扉は薄暗い廊下の中にあって、エレベーターからすぐそこであった。

 ミオンとファティマはゆっくりと部屋の扉に近づき、ミオンは扉の脇に立ち、李可昕に向けて連絡する。


「李可昕。3カウントで部屋の電子キーを解錠して。そうしたら踏み込む」


『オーケー。3カウント!』


 それから3秒のカウントが開始された。


 3────。


 ミオンが中から突然撃たれることに警戒して、決して扉の真ん前には立たない。


 2────。


 ファティマはミオンの動きを観察し、彼女が動いたらすぐに動けるようにする。


 1────。


 李可昕はホテルの構造物を掌握し、1003号室の扉の電子キーに手を掛けていた。


 0────。


 ガチャンと電子キーが解錠される金属音が響く。


「ゴー、ゴー、ゴー!」


 ミオンはファティマにそう合図し、素早く部屋の扉を開け、部屋の中にブービートラップがないことを素早く視認すると部屋の中へと踏み込んでいった。

 部屋はよくあるシングルベッドとユニットバスがある簡易な部屋だ。


 しかし──。


……………………

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