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初めてのお使い//突入

……………………


 ──初めてのお使い//突入



 ミオンたちは中華料理店で夕食を終えると(リー)可昕(クァシン)からの連絡を待った。

 ファティマにとってのTMCで初めての食事は、何とも言えない経験だった。

 どんな食べ物もそれらしく作ってあるだけで、それそのものではない。

 そんな感じであったが、ちゃんと腹は膨れた。


「──来た」


 夕食から1、2時間後。

 ミオンは自分のARデバイスにメッセージが着信したのを確認。

 李可昕からのメッセージだ。

 メッセージを開くと李可昕と通話が繋がった。


 ミオンのARの視界にマトリクス上の李可昕のアバターが表示される。

 彼女のマトリクス上での姿は猫の着ぐるみパジャマを着た女性の姿だ。


『ミオン。(ジョウ)明軒(ミンシュエン)の方は見つけたぞ。連中のアジトだった場所の構造物から辿って行って突き止めた』


「ありがと。位置情報を送って。ナビもしてくれると嬉しい」


『我がままなやつ。まあ、いいや。ナビするから車両に乗ってくれ』


 李可昕からの指示を受けて、ミオンとファティマが車に乗る。

 ARデバイスにこのTMCセクター13/6を上空から撮影したドローンの映像が表示され、今現在ミオンたちがいる場所が示される。

 上空から見たセクター13/6も地上で見るのと同様に猥雑な光で溢れていた。


『周がいるのは天義会(テンイーフェイ)が所有していた港の倉庫。恐らくはそこから船でTMCを脱出するつもりだな。確実に殺したいなら急いだ方がいいぞ』


「あいよ。飛ばしましょう」


 李可昕からの警告を受け、ミオンはアクセルペダルを踏み込む。

 車は狭いスラム街の道路を加速し、港に向けて走る。


「もっ、も、もうちょっと安全運転で行きませんかっ!?」


「ダメ。逃げられたら困るから」


 加速を続ける車の中でファティマが悲鳴じみた声を上げるが、ミオンは嗜虐的な笑みを浮かべて拒否した。


『港の周囲にはすでに天義会の連中が布陣しているな。警備ボットの類がわらわらと……民生品の強化外骨格(エグゾ)を改造したゲテモノが1体。ゲテモノの方は馬鹿デカい電磁ライフルを持っているから気を付けろ』


「ふうん。生き残りに必死だねえ」


『そりゃそうだろう。天義会は大混乱だ。中枢から末端まで幹部たちが同時襲撃を受けて、首が飛び回っている。連中の構造物もマトリクスで攻撃されてずたずた。これが全部ジェーン・ドウの仕業なら、あいつほどの企業(コーポ)の代理人はいないだろうな』


「彼女は凄腕だと思うよ、あたしも」


 李可昕の言葉にミオンは僅かに片眉を上げて同意した。


『おっと。上空に連中のドローンだ。警戒しろよ。気づかれた可能性がある』


「連中、ただの一般車両まで警戒してるのかい?」


『そりゃそうだよ。港に向けて爆走している車はあんたらだけだからな』


「あらら」


 どうやら飛ばし過ぎたことで目立ってしまったようだ。

 上空を飛行していた天義会のドローンのAIは爆走するミオンの車をセンサーで捉え、不審な車両として天義会のメンバーたちに通報していた。


「派手な突入(ブリーチ)になるよ。備えてね、ファティマ」


「ひゃ、ひゃい!」


 ミオンは実に気軽にそう言い、助手席のファティマは身を強張らせた。

 ミオンは平気でもファティマには経験したことのない速度であり、彼女は今にも舌を噛みそうだった。


『港まで9キロ。敵の防衛線に間もなく接触!』


 セクター13/6に隣接する港は急速に近づき、李可昕の警告がAR上に表示される。

 コンテナが積み上げられた港が見えてきたと同時に、そのコンテナで何かが瞬いた。


「ていっ!」


 と、同時にミオンは車をドリフトさせる。

 さっきの閃光はアサルトライフルのマズルフラッシュだ。

 閃光に遅れて銃声が響き、アスファルトの地面に弾痕が刻まれる。


「わわわわわっ! はわはわわわあああっ!」


「大丈夫! この車、一応防弾仕様だから!」


 ファティマの悲鳴にもならない奇声から何を察したのか、ミオンが豪快に笑ってそう言う。

 ミオンはドリフトで銃弾を回避したのちに再び車両を直進させて、そのまま港のゲートに突っ込んだ。


 港のゲートには李可昕の警告通りアサルトライフルで武装した警備ボットがわんさか配備されており、そのうち4、5体がミオンの車両による体当たりで引き殺され、その安っぽい軽合金製のボディがばらばらになった。


「到着だぜ、お客さん!」


「はっ、はああああ……」


 見事、港に殴り込んだミオンがそう言ってファティマにサムズアップし、ファティマの方は魂が口から抜け出したかのように茫然自失となっていた。


「さあ、仕事(ビズ)を始めよう!」


「は、はい!」


 ミオンはそう言って警備ボットたちが自分たちを捕捉し終える前に車を飛び降り、ファティマもそれに続く。

 警備ボットの群れはまだまだ15体前後いる。

 それらは中国製のアサルトライフルで武装しており、銃口をミオンに向けた。


「そんな安物でやられるほどあたしは安い女じゃないよ!」


 アサルトライフルから銃弾がフルオートで放たれるとそれを弾き、回避しながらミオンが警備ボットに迫る。

 ここに配置されている警備ボットは本来アサルトライフルで武装することを考えられていなかったので、反動制御が間に合わず、そもそも銃弾は逸れまくっていた。


「斬り刻んでいっちゃおう!」


 警備ボットは肉薄されてしまうとできることはない。

 軽合金のボディは“月断ち”であっさりと引き裂かれ、残骸が地面にさらされる。

 警備ボットは次々にミオンによって撃破されていくが、そんな中で警報を受けた天義会のメンバーたちが港のゲートに向かってきていた。


『ミオン。連中のドローンをハックしたから、そこにいる雑魚どもは任せていいぜ』


「サンキュー、李可昕!」


『その代わり帰りに龍龍亭の肉まん買ってきてくれ~。家の中に食い物がない~』


「はいはい!」


 ここで上空を飛行していた天義会のドローンが急降下して警備ボットの群れに向かって突入。

 軽自動車ほどの大きさのあるドローンの墜落に、警備ボットたちが巻き込まれ、引き潰され、さらにはバッテリーの爆発で四散する。


「オーケー。ばっちりだ」


 警備ボットはこれでほぼ全滅。

 残るは──。


「いたぞ! 侵入者だ!」


「まずい! 片方はサイバーサムライだぞ!? 気を付けろ!」


 天義会のアサルトライフルなどで武装したメンバーとそれに加えて──。


「了解だぁぁ! 死に腐れぇぇ、サイバーサムラァァァァァァイ!」


 工事現場などで使用する民生用の強化外骨格(エグゾ)にDIY感覚で装甲を施したゲテモノ。

 それを装着した大柄な天義会のメンバーひとりが巨大な狙撃用の電磁ライフルを手にミオンたちを狙う。


「ファイアァァァァ──────ッッ!」


 そして電磁ライフルから口径30ミリのライフル弾が放たれた。

 狙いは真っすぐ──ミオンだ。


 ミオンに向けて銃弾が飛翔する中でミオンは地面にしっかりと足を付け、それから地面を大きく蹴る。

 それによって極超音速で飛来した銃弾は、ミオンを掠めることもなく外れた。


「畜生、畜生! 次は当ててやる!」


「やばっ」


 強化外骨格(エグゾ)の男が大声で叫びながらボルトアクション銃のように手動で空薬莢を出し、再びミオンを狙うのに初めてミオンが険しい表情を浮かべた。

 流石の彼女でもそう何度も電磁ライフルの攻撃は躱せないのだろう。


「だっ、大丈夫です!」


 しかし、そこでミオンの隣にファティマが立った。


「ここは私が何とかしますから! ミオンは先に進んでください!」


「任せていいんだね?」


「え、ええ! すっ、す、少しぐらいは役に立ちます……!」


 ファティマはミオンに向けてそう言い、光の刃を形成する。

 いつもの通りに二振りの刃が宙に浮かび、踊るように舞った。


「なんだありゃあ!? あいつもサイバーサムライなのかっ!?」


「分かるかよ! 両方殺せばいい!」


 天義会のメンバーたちが狼狽える中をミオンが刀を掲げて迫り、さらに後方からはファティマの光の刃が彼女を援護する。

 無数の銃弾が“月断ち”に、光の刃に弾かれて道ができてゆく。


「てめえもサイバーサムライだなぁぁ! 俺はてめえらが大っ嫌いなんだよぉぉ! 時代錯誤のサムライ野郎がよぉぉ!」


 それでもファティマの方が目立ったのか、強化外骨格(エグゾ)の男は次弾の狙いをファティマの方に定めた。

 光学センサーがファティマを照準し、強化外骨格(エグゾ)に連動した射撃(F)管制(C)システム(S)が正確な狙いを導き出す。


「来る────!」


 ファティマは光の刃を引き戻し、防御の姿勢を取った。

 すぐに電気の弾ける音とともに銃弾が飛来し、極超音速の銃弾がファティマを捉える。

 その運動エネルギーは厚さ400ミリの均質圧延鋼板(RHA)を撃ち抜く威力だ。

 あの有名なドイツのティーガー戦車の正面装甲でも100ミリしかないと考えれば、その威力が分かるだろう。

 それは防げず、ファティマも木っ端みじんにするかのように思われた。


「てえいっ!」


 だが、ファティマの二振りの刃がそれを弾いた。

 銃弾は逸れて、運動エネルギーを失いながらも港に積み上げてあった空のコンテナに命中し、そのコンテナをばらばらに破砕した。


「は、は、はっ、弾きやがったぁぁ!? 戦車砲並みの運動エネルギーだぞっ!?」


「はんっ。そりゃあ当然だよ!」


 いつの間にかミオンは強化外骨格(エグゾ)の男の懐に飛び込んでおり、にやりとサディスティックに笑う。

 それを見た強化外骨格(エグゾ)の男の表情が真っ青になる。


「彼女の力は魔法なんだから!」


 放たれる超電磁抜刀は強化外骨格(エグゾ)の男を確実に捕えていた。

 もはや死神の刃から逃れようがない。

 超高周波振動刃がDIY気分で後付けされた装甲を易々と引き裂き、その先にある肉を引き裂いていく。

 そして、そこには物言わぬ人間だったものが残され、ミオンはすっと残心ののちに構えを戻す。


「さて、残りを片付けようか」


 ナノマシン混じりの返り血を滴らせながら、ミオンは刃を生き残っている天義会のメンバーたちに向けた。

 死神にとって収穫の時期が訪れたのだ。


……………………

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