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サーカス//連続攻撃

……………………


 ──サーカス//連続攻撃



 アーマードスーツから発射された近接防衛兵器──口径60ミリ軽迫撃砲弾。


 装薬がポンと音を立てて爆ぜて、それによって生じた燃焼ガスで発射されたそれが空中に向けて放たれた。

 AI制御の知性化信管(スマートヒューズ)によって制御される砲弾は、適切な高度での炸裂するよう制御されている。


 そう、肉薄するミオンを確実に殺害できる高度で炸裂するのだ。


「間に合え────!」


 しかし、そこにファティマが二振りの光の刃で割り込んだ。

 光の刃は弾丸よりも速く飛翔し、発射された迫撃砲弾に迫る。


 そして──。


「ナイスサポート、ファティマ!」


 迫撃砲弾は知性化信管(スマートヒューズ)が無力化されて不発。

 空中でばらばらになって落ちていく砲弾を見て、ミオンは満面の笑みを浮かべながらアーマードスーツに斬りかかった。


 まず彼女が狙ったのは脚部。

 アーマードスーツの脚部を切断し、バランスを崩壊させることでこれ以上攻撃が行えないようにする。

 アーマードスーツは右脚部を切断されて横転。

 暴発を防ぐための安全装置によって全ての兵装がロックされ、アーマードスーツの攻撃が止まる。


「これでトドメだ──!」


 それから操縦席に向けて刃を振るったミオン。

 その刃は操縦席と制御系を確かに切断した。

 しかし、ミオンはここで違和感を覚えた。

 普通ならばここで自動的にパイロットが脱出するための射出装置が作動するはずなのに、それが動いていないのだ。


「まさか……無人機……?」


 ミオンは制御系を破壊され完全に動かなくなったアーマードスーツを見下ろすと、後部にある封鎖された操縦席のハッチを金属音を響かせて開いた。

 そこにあったのは……。


「……ああ……」


 ミオンは()()から視線を逸らすように操縦席から首をそむけた。


「ミオン! や、やりましたね!」


「……そうだね。やったね」


 ファティマが駆け寄るが、ミオンの表情は暗い。

 その理由が分からずファティマはミオンの方に歩み寄る。


「え、えーっと。何かありましたか?」


「……あたしたち実験部隊の中には脳幹以外を全部機械化した人間もいた。その末路がこれだよ……」


「えっ……?」


 アーマードスーツの操縦席にあったもの。

 それは人間の脳の、その一部だった。

 アーマードスーツが機能を停止したことにより、保護液の中で急速に死につつある脳を見て、ファティマは身を震えさせる。


「そんな……こんなことって……」


「……こうなってはもう誰だったのかも分からない。あたしの戦友のひとりだったとしても区別もつかないよ……」


 ファティマがグロテスクな事実を前に戦慄し、ミオンの方はただ同情していた。

 こうなるまで日本情報軍の狂った実験に付き合ったオペレーターに対する同情だ。


『ミオン、ファティマ。アーマードスーツが停止したのを確認したが油断するな。マトリクスでの攻撃はまだ継続されている。連中、撤退していないぞ』


「分かってる。けど、周囲の状況が分からない。何か映像はないの?」


『待ってろ。今、偵察衛星の画像を見せる』


 李可昕はそう言い、上空にいる民間宇宙開発企業の偵察衛星の情報をミオンの端末に送信してきた。


『今そっちに向かっているのは、大井統合安全保障のパワード・リフト機だけだ。緊急即応部隊(QRF)だろうな。高速の方はようやく交通管制が始まって、通行が制限されている。というか、大井が封鎖した』


「なら、敵の次の一手は何だと思う?」


『ふうむ。サーカスって連中が相手なら、連中は高度な迷彩システムを持っているみたいだからな。……待てよ』


 そこで李可昕がミオンたちに元の向かっているパワード・リフト機の映像を拡大。


『マジかよ。大井のパワード・リフト機の上に別の機体がいる! 熱光学迷彩で大井の連中には見えてないんだ!』


 偵察衛星に撮影された大井統合安全保障のパワード・リフト機の映像に乱れがあるのを見て、李可昕がそう叫ぶ。


「嘘でしょ!? レーダーは!?」


『恐らく高度なステルス機だ! 大井のパワード・リフト機が搭載しているレーダーじゃ感知できない! クソ、やばいぞ……!』


 ミオンが叫ぶのに李可昕は不明機を特定しようとしていた。

 不明機の大きさは大井の大型パワード・リフト機よりやや小型。

 恐らくはヘリなのだろうが、攻撃ヘリなのか輸送ヘリなのか特定できない。

 かなり高度な熱光学迷彩を装備しており、エンジンの排熱を赤外線(IR)センサーで捉えることもできていない。


『不明機がミサイルを発射! 逃げろ、ミオン、ファティマ!』


 李可昕が叫ぶのがファティマにも伝わっていた。

 しかし、ファティマは逃げなかった。

 彼女はフェルドマン博士の乗る八輪の装甲車に向けて迫りくる大型対戦車ミサイルを真っすぐ赤い瞳で捉えていた。

 そしてそれに向けて二振りの刃を放った。


 二振りの刃は対戦車ミサイルを迎撃し、対戦車ミサイルは空中で爆ぜる。

 オレンジ色の火球が空中に出現し、その爆風はファティマたちの元まで到達した。

 恐らくあのままミサイルを迎撃しなければミオンたちも死んでいただろう。


「ふ、ふう……」


 ファティマは今にも地面に崩れ落ちそうなほどに緊張で足ががくがくしていた。

 だが、彼女は守ったのだ。

 ミオンたちのことを。


「ナイス、ファティマ! 李可昕、不明機は!?」


『撤退したみたいだな。今、大井統合安全保障の無人戦闘機がようやく緊急発進(スクランブル)した。こうなるとTMC全体に飛行禁止命令が出そうだが……』


 李可昕は偵察衛星のリアルタイムの映像で熱光学迷彩で姿を隠した不明機が撤退してのを確認した。

 どこに消えたかまでは分からないが、攻撃は断念したようだ。


 そこで大井統合安全保障の緊急即応部隊(QRF)を乗せたパワード・リフト機が高速道路上に着陸した。

 それからすぐに強化外骨格(エグゾ)を装備した大井統合安全保障のコントラクターたちが周辺の安全を確保する。


「フェルドマン博士は!?」


「無事だ! しかし、護送部隊はほぼ壊滅している!」


 緊急即応部隊(QRF)はフェルドマン博士の無事と護送部隊の損害を確認した。

 装甲車はフェルドマン博士を乗せた車両以外は壊滅しており、そこにいた大井統合安全保障のコントラクターも3、4名が生き延びただけだ。

 1個小隊30名がいた中で生き延びたのはそれだけ。


「フェルドマン博士をパワード・リフト機に移送するぞ。狙撃に警戒しろ」


「了解」


 大井統合安全保障のコントラクターたちは装甲車からフェルドマン博士を降ろし、それから彼女を護衛してパワード・リフト機に向かっていく。

 高速道路が通行不能になった以上、こうする以外に方法はない。


「傭兵! お前たちも一緒に来い! ジェーン・ドウからの指示だ!」


「了解。お仕事しましょう」


 と、ここでコントラクターたちがミオンたちに声を掛け、ミオンとファティマもパワード・リフト機に乗り込む。

 パワード・リフト機は全員が乗ったことを確認すると離陸し、大井医療技研の研究所を目指して飛行した。


「フェルドマン博士。大丈夫かい?」


 ミオンはパワード・リフト機の機内で死人のように青ざめているフェルドマン博士に声を掛ける。

 彼女は辛うじて頷き、そして大きくため息を吐いた。


「まさか私ひとりを殺すのに相手がここまでするとは思わなかった……。確かに保安部から警告は受けていたけれど……」


「一体全体何を研究していたら、ここまで狙われるんでしょうね?」


「残念だけど研究内容についてはあまり喋れない。だけど、医学的に先進的な研究とだけは言える。とても先進的で野心的な研究だ」


 さりげなくミオンが研究内容を聞き出そうとするが、フェルドマン博士は首を横に振ってそう答えるにとどめた。


「狙ってくる相手に心当たりは?」


「ありすぎて何とも言えない。私が知っていることは全部保安部に話しているし」


「そっかー」


 ジェーン・ドウもサーカスの正体を知らない。

 京極大佐たちがどこの企業(コーポ)に所属しているのかを知らないのだ。

 その手掛かりになる情報があればとミオンは考えたのだが、どうやら空振りだ。


「お喋りはそこら辺にしておけ、傭兵。そろそろ到着だ」


 パワード・リフト機は無人戦闘機の護衛を受けて、大井医療技研の有する研究所のヘリポートへと着陸していった。

 研究所は周辺から隔絶した場所にあり、周囲には地雷原が広がり、リモートタレットが設置された監視哨が聳え、まるで軍事基地のようだった。


 パワード・リフト機はそんな研究所のヘリポートに着陸。

 ヘリポートはパワード・リフト機の着陸を確認するとエレベーターのようにパワード・リフト機を乗せたまま下降する。


 そして研究所の内部に入ったところで、大井統合安全保障のコントラクターたちがまずは降り、それからフェルドマン博士がパワード・リフト機を降りた。


「フェルドマン博士。ようこそ」


 すぐに研究所に所属する研究者たちがやってきて、フェルドマン博士を出迎える。

 フェルドマン博士もそこでようやく安堵した表情を浮かべた。


「──サンプルの培養の方は?」


「まだ上手く行っていません。通常の組織培養では難しいようでして、そこで──」


 それから彼らがファティマたちには理解できない専門的な会話をしながら、研究所の奥に進んでいたときだ。


 突然──フェルドマン博士の首が飛んだ。

 何の前兆もなく、フェルドマン博士の首が宙を舞う。

 そして、ナノマシン混じりの鮮血が吹き上げた。


「なっ……!?」


「えっ……!?」


 その場が騒然となる中、首を失ったフェルドマン博士の身体がよろめいて倒れ、自分の血でできた血の海に沈む。

 ファティマは狼狽え、ミオンは周囲を素早く見張るが、どこにも武器を構えた人間は見当たらない。


 そこで追い打ちをかけるように爆発音が響く。

 研究所内に火災警報が鳴り響き、赤色灯がヒステリックに瞬く。


「そんな……一体どうやって……」


 ファティマはフェルドマン博士の死体を見てそう呟く。


「研究所を封鎖しろ! 誰も外に出すな! 警備主任を呼べ!」


 大井統合安全保障のコントラクターが命令を叫んでいる。

 彼らはフェルドマン博士の死体に駆け寄り、彼女が死亡していることを確認して、首を横に振った。


「クソ。待ち伏せされていたんだ……」


 ミオンもそう悪態を吐く。

 その後、研究所は封鎖されたが暗殺者を拘束することはできなかった。


……………………

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