サーカス//アーマードスーツ
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──サーカス//アーマードスーツ
高速道路で始まった戦闘。
高速道路の交通管制をしているドローンもハッキングによってダウンしており、高速道路は大混乱だった。
戦闘に巻き込まれるのを避けようとして急停車し、後続車に衝突された車両。
流れ弾を浴びてフロントガラスが割れ、その混乱で防護柵に突っ込んだ車両。
炎上する装甲車に気づかずに突っ込んでしまった車両。
民間人の悲鳴が響く中、車列の行く手を遮り、アーマードスーツを展開させていたトラックが速度を落とし始め、それに押されるように車列が速度を落とす。
そして、トラックは高速道路の車線を完全に塞ぐように横向きにドリフトして停車。
アーマードスーツはトラックから飛び降り、行く手を遮られて停車したミオンたちの車両の前に立つ。
「ファティマ。行くよ。あいつを倒して、フェルドマン博士を守る」
「了解です……!」
ミオンたちは車両から降りて、アーマードスーツと相対した。
アーマードスーツは多目的センサーで周囲をスキャンしながら、ファティマとミオンに向けて火器管制装置の照準を合わせる。
「行きます!」
ファティマは光の刃でアーマードスーツを狙う。
光の刃はアーマードスーツに向けて高速で飛翔するが、相手の方もこの手の攻撃に無策ではなかった。
アーマードスーツが強力なレーザーが照射し、二振りの光の刃の軌道を無理やり逸らした。
「ええっ!?」
「アクティブ防護システムだ! 気を付けて、ファティマ!」
アクティブ防護システム──ロケット弾やミサイル、果ては砲弾まで、敵の攻撃を迎撃する防衛兵器だ。
その出力はファティマの光の刃を迎え撃つに十分だった。
「ど、どうします、ミオン!?」
「あの手のアーマードスーツは近接防衛兵器も積んでいる。迂闊に近づくとハチの巣にされちゃう。慎重にやらないと……」
アーマードスーツが口径60ミリの迫撃砲弾を発射し、空中で炸裂させることによって接近する歩兵を排除する近接防衛兵器を搭載していることをミオンは知っていた。
サイバーサムライと言えど、何の策もなしに突っ込めばハチの巣だ。
『ミオン、ファティマ。今、高速道路でアーマードスーツとやり合っているのはあんたらか?』
「そうだよ! マトリクスで動きはある!?」
『ああ。大井統合安全保障の構造物が未だに攻撃を受けている。TMCのマトリクス中がパニックだ。で、ハッカーの動きだが……使っている氷砕きといい、攻撃手段といい、このハッカーは軍人か元軍人だ』
「やっぱりね……!」
李可昕からの連絡にミオンがそう呟く。
襲撃者がサーカスだとすれば元日本情報軍のオペレーターたちだ。
軍人のやり方で挑んでくるのは間違いなかった。
『で、こいつ単独犯なのにかなり高度な電子戦能力を持っている。電子猟兵かもしれないな。激やばな軍用の電子戦インプラントを脳みそに叩き込みまくった手合い……』
「今、そういうことを考えなくていいよ! それよりこっちを支援して! こっちのアーマードスーツがやばいのは分かるでしょ!?」
『分かってる、分かってる。使えそうなものがないか、今探しているんだよ』
高速道路周辺は大井の無人攻撃ヘリが撃墜されたことで飛行管制が敷かれ、いつものようにドローンを突っ込ませるというシンプルな作戦は難しい。
李可昕はマトリクス中を探し、ミオンとファティマを支援できそうなものを探しているところだ。
しかし、それを敵が待ってくれるはずもなかった。
アーマードスーツは重機関銃を掃射し、ミオンとファティマを狙う。
「ファティマ、隠れて!」
「ミ、ミオンも急いで隠れてください!」
ファティマは光の刃で重機関銃弾を弾き、ミオンも“月断ち”で大口径ライフル弾を弾いていった。
しかし、相手はこれまでの犯罪組織の下っ端などではなく、軍用の装備を有する元軍人だ。
いつまでも攻撃が弾けるとは思えない。
「ファティマ! こっち!」
そこでミオンはファティマの腕を掴み、そして大井統合安全保障の装甲車の影に飛び込んだ。
装甲車からは大井統合安全保障のコントラクターがアサルトライフルでアーマードスーツを銃撃しているが、全く効果はない。
「畜生、畜生! アーマードスーツなんてどこから持ち出しやがった!?」
「対戦車ミサイルはどこだ!? 積んで来てないのか!?」
大井統合安全保障のコントラクターたちは大混乱状態で、彼らはフェルドマン博士を守ると同時に自分たちが生き残るのに必死だった。
そのため傭兵であるミオンたちに気をかける余裕もない。
「対戦車ミサイルです!」
「よしっ! ぶちかませ!」
大井統合安全保障のコントラクターたちは大型の対戦車ミサイルを取り出し、その狙いをアーマードスーツに定めた。
複数のセンサーとAIによる誘導を受ける対戦車ミサイルはランチャーから放たれ、アーマードスーツを狙う。
しかし、先ほども見たようにアーマードスーツにはアクティブ防護システムが搭載されている。
高出力レーザーがミサイルを迎え撃ち、ミサイルは空中で爆散。
「ミサイル、迎撃されました!」
「クソ、クソ、クソ! どうすれば……!」
大井統合安全保障側は手詰まりの様子である。
『本部よりフィッシャーマン・ゼロ・ワン。現在、緊急即応部隊がそちらに急行中。到着予定時刻は1220。10分後だ』
「了解! 全員、緊急即応部隊が到着するまで持たせろ!」
大井の上層部は釣り上げた獲物を、サーカスの所属と推定されるオペレーターを仕留めるべく、緊急即応部隊を差し向けた。
それがやってくるまで残り10分だ。
10分間、この場を持たせれば十分な火力を有する援軍が到着する。
しかし、この場で実行可能なあらゆる攻撃を受け付けないアーマードスーツを相手に10分だ。
それは途方もなく長い時間だった。
それを証明するようにアーマードスーツは再びロケット弾で装甲車を攻撃。
対戦車榴弾が炸裂し、装甲車が爆発炎上する。
大井統合安全保障のコントラクターも吹き飛ばされ、血肉が高速道路のアスファルトに散る。
「ファティマ。このままじゃあたしたちは皆殺しだ。手を打つ必要がある」
ミオンはその様子を見て真剣な表情でファティマに告げる。
「ど、どうします……?」
「あたしの“月断ち”なら肉薄することさえできれば、攻撃は通用すると思う。問題はどうやって肉薄するか。あのアーマードスーツに搭載されている近接防衛兵器を使われると、あたしでもやばい」
「そ、その、近接防衛兵器っていうのを私の魔法でどうにかできれば……」
「うん。勝ち目はあるよ」
この場で唯一有効な攻撃手段はミオンが肉薄して“月断ち”の刃を浴びせること。
そのためにはアーマードスーツが有する近接防衛兵器を無力化する必要がある。
「近接防衛兵器はあのアーマードスーツの肩の部分に搭載されている。口径60ミリ迫撃砲を改造したもので、作動すると砲弾が発射される。砲弾には爆薬と鉄球が詰め込まれていて、AI制御で周辺の歩兵を一掃できる高度で炸裂する」
近接防衛兵器はかつてイスラエルが保有していたメルカバ主力戦車に搭載されていた軽迫撃砲と同じような役割を担っていた。
死角となる位置にいる歩兵や自身に肉薄した歩兵を排除するためのものだ。
「で、では、空中に砲弾が放たれた瞬間に……」
「ファティマの光の刃で叩き切って。AI制御が失われれば砲弾は不発する。そして、近接防衛兵器は連続しては放てないから、そうすれば無力化できる」
これはかなり危険な賭けだった。
ミオンがいくら素早くアーマードスーツに肉薄しても、近接防衛兵器が作動することは避けられない。
なので、作動してから対処することになるのだが、もしファティマがしくじればミオンは近接防衛兵器の直撃を受けて死ぬ。
その事実にファティマは緊張で口が乾き、手が冷たくなるのを感じた。
「大丈夫」
そんなファティマの手にミオンは自分の手を重ねる。
「ファティマならきっとやれるから。あたしは信じてる」
ミオンはそう言ってにやりと笑って見せる。
「け、けど……」
「どの道、このままじゃあ緊急即応部隊が到着する前にあたしたちは殺される。やるだけやってみよう。どうせなら勝ち目のある方に賭けないと!」
そう、今もミオンたちはアーマードスーツから強力な攻撃を受けており、大井統合安全保障の護衛部隊は風前の灯火だ。
どうせなら生き残れる可能性に賭けても損はない。
「……分かりました」
ファティマは深く息を吸ってから吐いて告げる。
「ミオンのことは……私が絶対に守ります……!」
ファティマも覚悟を決めた。
ミオンとともにいるには、自分も強くなければならないと決意したのだ。
その決意を今こそ示す時だ。
「よしっ。じゃあ、3カウントで仕掛けるよ。アーマードスーツが近接防衛兵器を使用したら叫ぶから対処をお願いね」
「はい……!」
ファティマはミオンの言葉に頷き、アーマードスーツに向けて光の刃の狙いを慎重に定める。
アーマードスーツの肩の部位にある近接防衛兵器はファティマの目にもしっかり見えていた。
狙いは定まっている。
あとはタイミングだ。
「3カウント」
ミオンがそう告げる。
3────アーマードスーツは重機関銃でいたぶるように大井統合安全保障のコントラクターたちを銃撃している。
2────フェルドマン博士を乗せた八輪の装甲車はまだ無事だが、このままでは時間の問題だろう。
1────ファティマはミオンの背中を見ながら彼女を守ると決意を新たにする。
ゼロ────。
「行くよ!」
ミオンが遮蔽物にしていた装甲車の影から飛び出して、アーマードスーツに向けて突進を開始。
アスファルトの地面がひび割れるほどの脚力から生み出された速度が、彼女をアーマードスーツに向けて加速させる。
アーマードスーツを操るパイロットもそれに気づき、すぐさま兵装の狙いをミオンに移す。
重機関銃がけたたましい銃声を響かせて射撃を行い、ミオンはそれを回避し、さらには弾いて突撃を継続する。
そして、彼女がアーマードスーツに肉薄しようとした瞬間──。
「近接防衛兵器、作動!」
「了解!」
近接防衛兵器が迫撃砲弾を発射。
それに向けてファティマは光の刃を放った──!
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