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サーカス//ハイウェイ

……………………


 ──サーカス//ハイウェイ



 ジェーン・ドウからの仕事(ビズ)を受けた翌日。


 ファティマとミオンは問題のフェルドマン博士の護送に当たるために、TMCをトーキョーヘイブンに向けて進んでいた。


「あれがトーキョーヘイブンだよ」


「わ、わああ……」


 聳え立つ巨大な3本のビル。

 そのビルの表面には木々が生い茂り、その下には変わった形状のドームがあり、その屋上にはビルに向かって太陽光を反射するパネルがいくつも設けられていて、それらが集光式太陽光発電施設として機能している。


 これがトーキョーヘイブンだ。


「あれは大井が有するアーコロジーの中でも特大クラスの代物だ。あの中では何千人も暮らしている」


「あ、あーころじー……?」


「ひとつの建物の中にひとつの自給自足可能な生活圏を格納したもののこと。あそこから一歩も出ずに建物の中だけでずっと、ずーっと暮らしていけるようになっていると思っていいよ」


「そ、それは凄すぎないです?」


「あたしはあんまり好きじゃないけどね。基本的に研究者や技術者を囲い込むための檻みたいなものだから」


 驚くファティマにミオンがそう言って苦笑する。

 彼女たちはそのままトーキョーヘイブンの地下駐車場に入り、合流地点に向かった。

 合流地点には大井統合安全保障の重武装のコントラクターが1個小隊規模で存在し、30名近い彼らが軍用の装甲車の周りに展開していた。


「ヘイ、お兄さんたち。仕事(ビズ)の助っ人だぜ」


「そこで止まれ。ID認証する」


 警戒態勢の彼らはミオンたちに銃口を向けて、ID認証を実施。

 ジェーン・ドウから渡されていたIDをミオンとファティマは表示し、それを確認したところでコントラクターたちは銃口を下ろした。


「確認した。しかし、今回の仕事(ビズ)でお前たちの出番はないだろうな」


「本当に?」


「ああ。大井統合安全保障の選りすぐりの精鋭が警備に当たっている。この状況で目標(パッケージ)を殺害するのは不可能だ。仮に襲撃者が現れたとしても、俺たちが返り討ちにしてやるさ」


「へえ。頼もしいね」


 大井統合安全保障のコントラクターがそう言うのに、ミオンはただ片眉を上げただけであった。


「まあ、何かあれば報酬分の働きはしてくれ」


「あいよ。承りました」


 大井統合安全保障のコントラクターの軽い口調の指示にミオンは頷き、車内でファティマの方を向く。


「まずいね。彼ら油断しているよ。大井統合安全保障の精鋭だか何だか知らないけれどさ。襲撃者の正体も掴めてないのに過小評価しちゃってる辺り、ダメかな……」


「え、ええー……? で、でも、頼りにはしていいんですよね?」


「分からない。ただジェーン・ドウはあからさまにフェルドマン博士を餌にするつもりだった。となれば、餌に魚が引っかかるぐらいの余裕は持たせているはず。護衛(エスコート)を固めすぎて京極大佐たちが釣れなければ困るし。最悪の場合、あの護衛部隊は全滅かもね」


「うえええっ……」


 あっさりと酷く残酷なことを口にするミオンにファティマは戸惑う。

 ファティマから見ると護衛部隊はかなり高度な装備を有する軍隊に見えたが、ミオンからすると彼らは油断しすぎで、警備に隙があるように見えた。


「ともあれ、あたしたちはあたしたちの仕事(ビズ)をするだけ。お互い死なないようにして、襲撃者を、京極大佐たちサーカスを始末する……」


 ミオンはそう静かに、決意を込めるようにしてそう言った。

 ファティマは彼女がまだ京極大佐に何かしら遺恨があるのではないかと思い、それが少し不安だった。


「だ、大事なのはお互いに死なないこと。そっ、そ、そうですよね?」


「うん。そうだね。ファティマも気を付けて仕事(ビズ)に当たってね」


 ファティマが念を入れてそう言うとミオンも頷いて返した。

 その様子にファティマも一応安堵する。


 それから暫くして地下駐車場に大井統合安全保障のコントラクターに守られた女性が姿を見せた。

 彼女がフェルドマン博士だ。


「そっちにいるのは……?」


 フェルドマン博士は明らかに大井統合安全保障のコントラクターではないミオンたちに気づいて、そう質問する。


「傭兵です、博士。彼女たちも護衛(エスコート)に当たります」


「そう……。随分と大事になっているのね」


 コントラクターの返事にフェルドマン博士は渋い表情でそう返した。


 そんな彼女の様子を見て、彼女は自分がジェーン・ドウによって京極たちを釣り出すための餌にされていることを知っているのだろうかと、ファティマは少しばかり心配になったのだった。


 それからフェルドマン博士は大井統合安全保障の用意した八輪の装甲車に乗り込み、その装甲車を守るように展開した車列(コンボイ)が地下駐車場を出る。

 車列(コンボイ)はフェルドマン博士の乗った車両の前方に3両の装甲車、後方に2両の装甲車という編成だ。


「よし。行こうか」


 車列(コンボイ)の発進を確認してから、ミオンたちも後に続く。

 地下駐車場を出た車列(コンボイ)は真っすぐ大井医療技研の研究所を目指す。

 車列(コンボイ)を守るのは装甲車だけではなく、上空援護の無人攻撃ヘリも付いている。


 この状況で襲撃など成功するとは思えないのだが……。

 襲撃は本当に起きるのだろうか?


『ミオン、ファティマ。仕事(ビズ)は始まったか?』


「イエス、李可昕。始まったよ。現在、大井医療技研の研究所に向かっている」


『そうか。マトリクスで動きがあったから知らせておく。大井統合安全保障の構造物にハッキングがあった。どうもTMC内の生体認証スキャナー関係のシステムがやられたみたいだ。生体認証スキャナーがあちこちでダウンしている』


「まさかもう仕掛けてきたの……?」


『そう見るべきだろうな。用心しろよ。大井統合安全保障の軍用(アイス)を砕いたハッカーだ。何を仕掛けてきてもおかしくない』


「了解。気を引き締めてかかりましょう」


 出発から5分としないうちに、大井統合安全保障の構造物がハックされた。

 狙いすましたかのようなタイミングにミオンの表情も険しくなる。


「ファティマ。いつ敵が仕掛けてきてもおかしくなくなったよ。いつでも戦えるようにしておいて」


「は、はい」


 ミオンから漂う緊張感をファティマも感じて周囲に警戒する。

 それから車列(コンボイ)は高速道路に入り、速度を上げる。


 そのときだ。

 地上から無人攻撃ヘリに向けて何かが飛来した。


地対空ミサイル(SAM)だ!」


 ミオンが叫ぶ。

 地上から飛来したのは無人攻撃ヘリを狙った地対空ミサイル(SAM)だった。

 ミサイルが迫るのに気づいた無人攻撃ヘリはチャフとフレアをまき散らして回避行動を取るが、ミサイルはさらに数発飛来する。


 無人攻撃ヘリは回避しきれず、1発のミサイルの爆発を浴びた。

 オレンジ色の爆発とともに衝撃波と鉄片が無人攻撃ヘリを襲う。

 それによってローターが引きちぎれ、無人攻撃ヘリは錐揉みしながら高速道路に落ちていく。


『フィッシャーマン・ゼロ・ワンより本部(HQ)! 上空援護の無人攻撃ヘリが撃墜された! 指示を求める!』


本部(HQ)よりフィッシャーマン・ゼロ・ワン。作戦を続行せよ』


『クソ、マジかよ。了解!』


 この攻撃は真相を知る大井の人間からすれば餌に魚が近づいた証拠だ。

 本部(HQ)から作戦中止の命令は出ず、続行が指示される。


 車列(コンボイ)は撃墜された無人攻撃ヘリの残骸を回避し、高速道路をハイスピードで駆け抜けていく。


「生体認証スキャナーを麻痺させ、上空援護機を落としたとなると、次はいよいよ地上で仕掛けてきそうだ」


「まっ、まずいですね……」


「うん。だけど、こうなるのは予想はしていたから」


 ファティマが狼狽えるがミオンは冷静だった。

 彼女はいつ地上で敵が仕掛けてきてもいいように、油断なく周囲を見張る。


 そこで不意に車列(コンボイ)の前方に大きなトラックが割り込んできた。

 荷台にコンテナを積んだトラックで、車列(コンボイ)の邪魔になっている。

 クラクションが響き、装甲車の12.7ミリ重機関銃がマウントされた無人銃架(RWS)がトラックを照準。


「あの車……まさか……」


 それを見てミオンがそう呟いたとき、コンテナの扉が金属音とともに開いた。

 そこから現れたのは──。


「やばっ! アーマードスーツ!?」


 コンテナから姿を見せたのは2.5メートルほどの巨躯を有する鋼鉄の巨人。

 アーマードスーツだ。


 アーマードスーツとは強化外骨格(エグゾ)が単に身体能力をアシストして動きを強化するだけなのに対して、そこからさらに装甲化が施され、多数の重武装を搭載したものだ。


 今、トラックのコンテナからミオンたちの前に現れたのはアメリカ製のアーマードスーツであり、口径12.7ミリ重機関銃と口径70ミリロケット弾、口径40ミリグレネードランチャーなどで武装している。


 そのアーマードスーツが突如として現れたのに、車列(コンボイ)に動揺が走るのがファティマにも伝わってきた。

 すぐさま装甲車の無人銃架(RWS)がアーマードスーツを射撃するが、オリーブドラブに塗装されたアーマードスーツの装甲は攻撃を弾いていた。


 そしてアーマードスーツの肩にマウントされていたロケットポッドが火を噴く。

 最前列を進んでいた装甲車に叩き込まれたロケット弾の弾頭は対戦車榴弾(HEAT)弾であり、装甲車のその装甲を易々と貫いて吹き飛ばした。


要人(VIP)の乗った車両を守れ! アーマードスーツの射線から守るんだ!』


『了解!』


 それでも車列(コンボイ)を指揮する大井統合安全保障のコントラクターはフェルドマン博士を守ろうと自分たちの装甲車を盾にしてアーマードスーツの攻撃からフェルドマン博士の乗った車両を守ろうとする。


「ファティマ! 前に出るよ! アーマードスーツを狙って! あの兵器ね!」


「りょ、了解です、ミオン!」


 ここでミオンも車両の速度を上げ、車列(コンボイ)の前方に出るとアーマードスーツと車列(コンボイ)の間に割り込んだ。

 アーマードスーツは機械的な動きで、狙いをミオンとファティマの乗った車両に定めて、グレネード弾を叩き込んでくる。


「させません……!」


 ファティマは光の刃を形成し、それによってアーマードスーツの攻撃を弾く。

 魔法の力がグレネード弾を空中で迎え撃ち、次々に撃ち落としていく。

 その様子はアーマードスーツのカメラセンサーによって捉えられていた。


……………………

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