好奇心100%
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──好奇心100%
3階、4階、5階、6階、7階……。
次々にホテルの階層を制圧していくミオン。
ファティマはその背後を警戒しながらミオンについていく。
ファティマから見てもミオンは──信じられないほど強かった。
機関銃を相手にしても“月断ち”と彼女が呼ぶ日本刀ひとつで立ち向かい、銃弾を回避し、弾きながら突撃して撃破する。
「あ、あのう、この街の人ってみんなミオンみたいに動けるんですか……?」
あまりにも人間離れしたその動きにファティマが疑問に思ってそう尋ねる。
ファティマの地元にはミオンのような動きをする人間はいなかった。
「あはは。そう多くはないかな。あたしはサイバーサムライとして身体をかなり機械化しているからね。機械化率80%を超えてるし、この街でも有数のサイバーサムライだって自信があるよ」
「さいばーさむらい……?」
「人体を高度に機械化し、あたしみたいに日本刀で戦う人間のことだよ。人はそれをサイバーサムライと呼ぶ!」
「は、はあ。で、でもっ、じゅ、銃は使わないんですか……?」
「それはサイバーサムライの流儀に反するから絶対になし」
ファティマにはよく分からない理屈だが、ミオンには大事なことらしく彼女は断固としてそれを否定した。
刀より銃を使った方が強そうなのだがとファティマは思うも、ここまで否定されると何も言えない。
「さてさて、前進再開だ。後方の見張りを頼むよ、ファティマ」
「は、はいっ」
ぽんぽんとファティマの肩を叩いてミオンはそう言い、階段を昇っていく。
ミオンのスキンシップ多めで距離感がいちいち近いのが未だに慣れないが、それでも報酬のためにファティマはミオンについていく。
「8階に敵はなし。9階に向かおう」
8階を飛ばし、9階に向かうミオンとファティマ。
9階に近づいたとき、ミオンが表情を微かに歪める。
「まずい。このホテルに天義会のパワード・リフト機が迫っている。恐らくは劉たちをここから脱出させるためのものだね。逃がすわけにはいかない……!」
「わ、わあっ! ま、待ってください!」
そう言うとミオンは駆け出し、ファティマは慌てて彼女に続く。
ミオンは9階の制圧を飛ばして10階に向かい、固く閉じられていた金属製の扉を蹴り破る。
激しい金属音が響き、扉が数メートル吹っ飛んだ。
「来やがったぞ、サイバーサムライだ!」
「ぶち殺せえっ!」
ミオンに向けて放たれる無数の銃弾。
彼女はそれを回避し、叩き落し、弾き、前進していく。
圧倒的な強者の醸し出す空気を前に、天義会のメンバーは動揺していた。
このままならば10階の制圧も容易かと思われたが──。
「う、後ろから敵です、ミオンさん!」
9階で討ち漏らした敵が、階段を駆け昇って10階に向かってきており、ファティマとミオンは挟み撃ちの危機に晒された。
ミオンとて正面からの攻撃は防げても、背後から銃弾を浴びせられたら終わりだ。
「制圧を急ぐ。ファティマはどこかに隠れてて!」
「そ、そういうわけには……!」
1時間ちょっとという本当に本当に短い付き合いだが、ファティマはミオンに死んでほしくはなかった。
それにファティマは戦えないわけではない。
彼女にだってちゃんと力はある。
「……背後は私が守ります。ミオンさんは前方に集中してください……!」
ファティマはそう宣言し、背後の階段の方を見つめる。
そして、階段から近づく足音を前にしてファティマは覚悟を決めた。
「いたぞ、サイバーサムライ野郎だ!」
「撃て、撃て!」
4名の男たちが階段から現れたと同時に二振りの光の刃が形成されて飛翔した。
男たちの放った銃弾が光の刃で迎撃され、その先にいる男たちが刃に貫かれる。
「がはっ………!」
「な、何が、起きた……!?」
2名の男が訳も分からずに串刺しにされ、そのまま床に崩れ落ちる。
その光景に後ろから続いていた別の男たちも驚愕。
「こ、こいつはどういう……!?」
「新手のサイバネウェアか!?」
動揺する男たちに向けて二振りの刃が踊り、容赦なく襲い掛かる。
ひとりは首を刎ね飛ばされ、もうひとりは袈裟懸けに引き裂かれた。
ナノマシン混じりの鮮血が床に広がっていく。
そして、こと切れた男の手から銃が金属製の階段に落ちて甲高い金属音を立てた。
「…………はあ」
やってしまった……とファティマは思う。
これでミオンにも魔法のことを知られただろう。
彼女は他の大勢がこれまでそうだったように、ファティマにこう言うに違いない。
『忌まわしい魔女だ』
そう言い、彼女を拒絶し、迫害するに違いない。
ずっとこの力のせいでファティマは迫害され続けてきたのだから。
「ファティマ、今のは……」
ミオンはすでに正面の敵を片付けており、ファティマの方を驚愕の表情で見ていた。
その畏怖の混じった視線を前にファティマは身を竦め、言葉が出なくなる。
「凄い、凄い! どういうサイバネウェアなんだい!? 身体は機械化してなかったみたいだけどどうやってるんだい!? 企業が開発中って噂の光学エネルギーウェポンってやつかな!? いわゆるエネルギーブレードの類で開発にはまだまだ時間がかかるって噂だったんだけど!」
しかし、ミオンが次に浮かべた表情は好奇心100%のそれであり、決して嫌悪や拒絶のそれではなかった。
「えっ、あっ。そ、その、これは……話すと長くなるので……」
「そうだった。今は劉を追わないと、だね」
ファティマはそう言ってミオンの追及を躱し、ミオンもすぐにスイッチを切り替えて頷いた。
今は劉がこのホテルから逃げるのを阻止しなければならない。
「10階にやつはいない。もう屋上に向かったみたいだね。追おう」
「はい」
ミオンが言うのにファティマは彼女に続く。
まだミオンが状況を理解できていないだけとは言えど、彼女がファティマの魔法を見て嫌悪や拒絶の感情を見せなかったことに、ファティマは少し安堵していた。
彼女たちは階段を駆け昇って屋上のヘリポートに向かう。
そこには武装した男たちが8名と劉の姿があった。
「クソ! どこの誰の差し金だ!? 私が天義会の幹部だと知ってのことか!」
「知ったことじゃないよ。あたしはただの非合法傭兵だし」
「なら、ここで死ね!」
劉も自動拳銃を抜き、ミオンに銃口を向けようとする。
しかし、そこでミオンは再びコンクリートに亀裂が生じるほどのステップで加速し、一気に劉たちに迫る。
「近寄らせるな!」
「撃て、撃てえ!」
男たちの構えるアサルトライフルがけたたましい銃声を響かせ、ミオンを狙おうとするがミオンの速度を前にしては彼女を捉えきれていない。
しかし、濃密な弾幕を前にミオンも少し苦戦しているのか、なかなか劉を斬ることはできない。
「援護……した方がいいですよね……?」
そこでファティマは困惑気味にそう呟き、二振りの光の刃を再度形成すると、それを男たちに向けて放った。
「なっ……! 何だ、これは──」
男のひとりが高速で迫る光の刃に向けて発砲するが、刃を止めることはできない。
刃はそのまま飛翔し、男の首を貫き、刎ね飛ばす。
その男の身体はぐらりと揺れ、そのまま崩れ落ちた。
さらに追い打ちをかけるようにもう一振りの刃が男の胸を貫き、そのまま殺害。
「ナイス援護だ、ファティマ!」
「……よ、喜んでいただけたなら何より……!」
それによって生じた弾幕の隙間を縫って、ミオンが敵に肉薄。
そのまま敵を切り崩し始めた。
1名、また1名と敵が倒れ、劉たちの表情に焦りが生まれる。
しかし、そこでパワード・リフト機が姿を見せた。
2発のジェットエンジンで飛行するパワード・リフト機は上空で緩やかに速度を落とし、一気にヘリポートに向けて降下してきた。
「や、やっと来たか……!」
劉はそれを見るとミオンとファティマに背を向けて、着地しようとするパワード・リフト機に向けて駆ける。
「……逃がさないですよ」
ファティマはそう言うと形成していた光の刃をパワード・リフト機のジェットエンジンに向けて放った。
光の刃はパワード・リフト機の右翼のエンジンを貫き、エンジンから炎が生じる。
それによってパワード・リフト機はバランスを崩し、ホテルのヘリポートから脱落。
そのまま地面に向けて墜落していった。
「あ、ああっ!? なんてことだ……!」
ホテルの屋上から地面に向けて墜落し、爆発炎上したパワード・リフト機を見て、劉の表情が青ざめる。
「劉啓明」
そこで彼の背後からミオンの声がした。
「あとはお前だけだよ」
すでに劉の護衛は全て斬り殺されており、残るは劉ひとりだけ。
「か、金ならいくらでも払う! 見逃してくれ! 頼む!」
劉はどたんと地面に尻をつきながらも、ミオンに向けて命乞いする。
今の彼は天義会というチャイニーズ・マフィアの幹部というよりも、ただの醜い太った男に過ぎなかった。
「残念だけど傭兵としての信頼に関わるから」
ミオンのその言葉に陽気さは全くなく、冷酷な殺し屋の声が宣告した。
そして“月断ち”が劉の首を刎ねた。
“月断ち”の軌跡に沿って真っ赤なナノマシン混じりの血が舞う──。
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