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エスコートサービス//空を見上げて

……………………


 ──エスコートサービス//空を見上げて



 引き続き成田国際航空宇宙港を目指すミオンとファティマ、サブマリン。


『ミオン。次の連中がお出ましだ。今度は武装ドローン!』


「あーあ。もう!」


 ミオンたちの車両に迫るのは、重機関銃とロケット弾で武装したドローン4機。

 TMCの航空管制に申請のない機体であり、すでにこの街の航空輸送を管理する企業(コーポ)から警告が発されている。


『警告する。当該機は現在、TMCの航空管制に従っていない。ただちにこちらの誘導に従い飛行ルートを変更せよ。さもなければ撃墜する』


 しかし、ドローンは警告を無視して飛行。

 ファティマたちの車両に武装の狙いを定めた。


「ド、ドローンってあれですか、ミオン!?」


「そう、あれ! 撃墜できるかな、ファティマ!?」


「や、やってみます!」


 ファティマが低空を飛行するドローンに向けて二振りの刃を差し向けた。

 二振りの刃はドローンのうち2機を貫き、撃墜。

 バッテリーが爆ぜて火花が散り、墜落していく。


 しかし、依然としてまだ2機のドローンがファティマたちを狙っている。

 そして、まず重機関銃がけたたましい銃声を響かせて車両を上空から攻撃してきた。


「ちょっと運転荒くなるよ! 耐えて!」


「わっ、わあわわわわわわっ!」


 ミオンは警告を発したのちに思いっきりハンドルを切って車をドリフトさせる。

 そして急カーブを高速で曲がり切り、ドローンの攻撃を一時的に回避した。


「李可昕! そっちでドローンをどうにかできない!?」


『やってるよ。けど、使えそうなドローンはないしな。それに、だ』


「それに?」


『大井統合安全保障が撃墜しようとしている。連中のドローンが急行中だ』


 TMCの航空管制を無視して飛行している2機のドローンに向けて大井統合安全保障のドローンが要撃に上がっていた。


「ひゅう! 騎兵隊の参上だ!」


「ま、間に合いますか!?」


「たぶんねー!」


 ミオンはジグザグに車を走行させ、ドローンが放ってくる大口径ライフル弾やロケット弾を回避しながらにやりと笑う。

 アスファルトの道路を重機関銃やロケット弾が抉り、市街地で悲鳴が上がる。


「ほ、本当に大丈夫ですか、これ!?」


 ファティマが慌てる中、大井統合安全保障のドローンが到着した。

 流石に大井もセクター一桁に無人戦闘機を飛ばして、市街地の真っ只中で空対空ミサイルを使うことはなかった。

 ドローンが装備しているのはネットガンで、網を発射してドローンのプロペラに絡みつかせ飛行不能にすると、そのままそのドローンを回収していく。


「オーケー。ドローンは凌いだけれど……」


「し、凌いだけれど?」


「大井統合安全保障が検問を始めている。この区域から急いで出ないと、封鎖された中に取り残されちゃって成田に辿り着けない。だから、ね。飛ばすよっ!」


「うひゃあああああっ!?」


 ミオンはアクセルを全開にしたまま急カーブを再びドリフトするように曲がり、一気に今いるセクターからの脱出を試みる。

 大井統合安全保障のパワード・リフト機がすでに上空に見え、コントラクターが市街地を封鎖し始めていた。

 その封鎖が完了するまでに脱出すべく、ミオンは加速を続ける。


「とっ、とととと、とと、飛ばし過ぎです、ミオン!」


「まだまだ速度出せるよ!」


「だ、出さないでくださいいいいっ!」


 大井統合安全保障のパワード・リフト機がまさに道路にコントラクターを展開させようとしていたとき、ミオンがさらに車両を加速させてパワード・リフト機の真下を潜り抜けていった。


「オーケー! セクターを出た。これであとは成田に向かえばいいだけ……のはず」


「ほ、本当にですか? というか、成田まであとどれくらいなんです……?」


「あと20分もあれば着くよ!」


「そ、それなら確かに大丈夫そうです……」


 残り20分ならばすぐだ。

 その間に襲撃されることは流石にもうない……とファティマも思った。

 だが、サブマリンに掛けられた6万新円という金額は、金のない賞金稼ぎにとってはよほど魅力的だったようだ。


「おっとっとー? 前方で待ち伏せされているねー!」


「ええっ!?」


 ファティマがミオンにそう言われて前の方を見ると、装甲化されたSUVが2台道路を塞ぐように滑り込んできて、そこから降りてきた男たちが銃口をミオンたちに向ける。


「くたばりやがれっ!」


 そして一斉に銃弾がミオンたちを襲う。


「ひええっ!」


「まずいねえ」


 防弾ガラスにひびが生じ、ファティマが悲鳴を上げ、ミオンが眉間にしわを寄せながら考え込む。


「ファティマ。突っ切るから衝撃に備えて」


「つ、突っ切るって!?」


「そのままの意味。口開けてると舌噛んじゃうよ!」


 ミオンはアクセルを再び全開にして道路を塞いでいる2台のSUVに向けて勢いよく突っ込んだ。

 激しい衝撃と金属音が響いたのちに、ファティマは一瞬気を失いかけたが、はっとして周囲を見渡すと後方に引き殺された男たちと壊れたSUVが見えた。


「む、無茶苦茶ですよ、ミオン……」


「だって、これ以上いちいち相手にしてられないしさ。そして、もう少しで成田に滑り込めるから、もうちょっと頑張ろう!」


「ふぁあい……」


 もうファティマは疲れ果てていたが、ようやく成田が見えてきた。


 成田国際航空宇宙港──。

 TMCの玄関口であるその場所に離着陸する巨大な宇宙往還機が、ちょうどファティマの視界に入った。

 そのシャトルは航行灯を光らせながらゆっくりと滑走路に降りていき、そのまま地上を滑走して速度を落としていく。


「わあああ……。あれ、凄い大きな飛行機でしたよね?」


「そうだね。あれは軌道衛星都市と行き来してるシャトルだから宇宙に出てるんだよ。あたしも一度くらいは軌道衛星都市に行ってみたいものだねえ。1万新円あれば往復できるらしいけど」


「宇宙に……」


 ファティマにとって夜空はただ見上げるためのものだった。

 それがいつの間にか人類にとって身近に手の届く場所になっていたことに驚く。


「い、いつか一緒に行きましょう、軌道衛星都市」


「そうだね! いつか一緒にバカンスしに行こうぜ~! 軌道衛星都市なら天然の肉だってあるらしいし!」


 ファティマがおずおずと提案するのに、ミオンが満面の笑顔で頷いた。

 ミオンが笑顔だとファティマもどこか嬉しくなる。

 不思議な感じだ。

 以前は人の笑顔などどうでもよかったのにとファティマは思う。

 そもそも自分に笑顔を向けてくれる人が希少だったが。


「おいおい。おふたりさん、その前の俺の護衛(エスコート)をしっかりと頼むぜ。俺の首に賞金がかけられちまったんだろ。成田内で仕掛けてくるとは思わないが、用心はしてくれよ。旅客機に乗り込むまでが仕事(ビズ)だからな?」


「分かってる、分かってる。任せといて」


 サブマリンが憔悴しきった様子で頼み込み、ミオンはそう言って頷くと成田国際航空宇宙港のエントランスに向けて車を走らせた。

 車はエントランス前で停車するとミオンが狙撃手などを警戒したのちに、サブマリンを車両から降ろす。


「李可昕。こっちは成田に到着した。空港のセキュリティを覗き見できる?」


『ああ。やってるところだ。今のところ不審者検出システムに反応はないし、生体認証スキャナーも犯罪者の類は捉えてない』


「オーケー。さっさとサブマリンを旅客機に詰め込もう」


 ミオンは空港のセキュリティを覗き見している李可昕から情報を得つつ、空港内を搭乗口に向かって進む。

 空はもう真っ暗になっており、飛行機の航行灯と空港から漏れる光が辺りを照らし出している。


「チェックインを済ませてくる」


 サブマリンはそう言い、接客ボットを相手にチェックインを済ませる。

 それからファティマとミオンのふたりに守られて、手荷物検査が行われる保安検査場に向かった。


 ファティマたちが同行できるのはここまでだ。

 ここから先は空港のセキュリティに引っかかるため、同行できない。


「サブマリンッッ!」


 そこで男が叫ぶ声が響いた。

 同時に乾いた銃声が響き、ファティマの脇腹に刺すような熱さが走る。

 それが銃撃だと気付くのにはワンテンポ遅れた。

 ファティマは呆然と口径9ミリの拳銃を構える男の方に視線を向けるだけ。

 男は赤いジャケットにラフなスーツなのが見えたが、ファティマは動けない。


 しかし、ミオンの方は素早く反応していた。

 すぐに男とファティマ、サブマリンの間の射線に立ち“月断ち”を抜く。


「死にやがれ!」


「させないよ!」


 それからもう3発の銃声。

 それら全てをミオンは“月断ち”で弾いた。


「そこの男、動くな!」


 空港の警備が駆け付け、男に向けてテーザー銃を発砲。

 強力な電流で男はノックアウトされ、地面に倒れた。


「ファティマ、サブマリン! 大丈夫!?」


「お、俺は大丈夫だ。怪我はない。あんたは?」


 ミオンが声を掛けるのにサブマリンがそう言い、ファティマの方を見る。


「わ、わ、私も全然大丈夫ですよ、この通り……」


 ファティマの右脇腹を貫いた口径9ミリの拳銃弾はすでに貫通しており、それに傷はもう癒えていた。

 そして、ファティマの着ているさらりまんスタイルの黒いジャケットは血の色を誤魔化してくれている。


「じゃあ、保安検査場に向かおう。これ以上襲われる前に!」


 ミオンがそう言ってサブマリンを急かし、彼を保安検査場まで連れて行った。

 流石にこれ以上、空港内で襲われることはなく、サブマリンは無事に保安検査場へ。


「よし。ここまでくれば大丈夫だろう。助かった、おふたりさん。報酬だ」


 サブマリンは安堵の息を吐き、ミオンの端末に28万新円を送信。


「どうも毎度あり! じゃあ、香港で元気にやりなよ」


「ああ。向こうでどうにか生きていくよ」


 そして、サブマリンは保安検査場の向こうに消え、搭乗口へと向かって行った。

 ファティマとミオンはそれを見届けたのち、香港に向けて飛び立つANASのジェット旅客機が飛び立つのを見上げた。


 大空に吸い込まれるように巨大なジェット旅客機が消えていく。


「……大変な仕事(ビズ)でしたね……」


 ファティマはそれを見届けたのちに深々とそうため息を吐く。


「そうだね。けど、報酬はよかった。これで人工筋肉の入れ替えはどうにかなりそう! 結構お金がかかるから助かったよー!」


「そ、そうでしたね。また病院に?」


「うん。近いうちにね。今日は本当に滅茶苦茶やったしさ。ファティマは身体の方は大丈夫かい~?」


「ミ、ミオン!」


 ミオンはそう言ってファティマをハグして身体をまさぐる。

 すると、ミオンの手にべったりとファティマが流した血が付いた。


「え……? これは……!」


 ミオンは血相を変えてファティマのジャケットをめくり、血のついていた場所の下に当たる身体の部位を見る。

 しかし、そこには銃創もなく、ただ血がついていただけだった。


「ファティマ。どこも痛くない? 寒気はしない? 呼吸は苦しくない?」


「だ、だだっ、大丈夫ですよ。こ、これは、その、たぶん返り血です!」


 帰ったら洗濯しましょうと言って小さく笑うファティマ。


「そうか。それならよかった」


 ミオンはそう言ってファティマをぎゅっと抱きしめる。

 その手には先ほどと違って僅かな震えがあった。


「あたしが軍人だったときの話」


 そしてミオンはファティマの耳元で懺悔するような声色で告げる。


「大勢の仲間が死んだ。大勢があたしの元からいなくなった。何も言わずに勝手にみんないなくなってしまった。ファティマは……そうならないでくれる……?」


 ミオンが縋るような声でそうファティマに問う。


「……分かりません……」


 ファティマは断言はできなかった。

 ファティマはいずれミオンの元を去る。

 ミオンがファティマの元を去る、その前に。


……………………

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