エスコートサービス//不老不死の追求
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──エスコートサービス//不老不死の追求
成田国際航空宇宙港を目指す途中でサブマリンが口にした不老不死という単語。
「またまた壮大な夢物語に手を出しているんだね。企業の重役たちは強欲だけれど、今度は死ぬことまで拒否したいってわけか。つくづくその飽くなき強欲さには呆れさせられるよ」
ミオンはサブマリンの言葉を笑い飛ばすようにそう言った。
「そうだな。不老不死なんて夢物語なんだろう。なのに連中と来たら、中国の始皇帝やら徐福やらの伝承についても調べていたみたいだったからな。メティスがオカルト好きな連中だと聞いていたけれど、正直どうかしてるぜ」
「ははっ。それはまた」
サブマリンとミオンがそう言葉を交わすのをファティマは静かに聞いていた。
ファティマは自分が不老不死になったときのことを思い出す。
彼女は生まれついて不老不死であったわけではない。
彼女はとある年の冬に“あらゆる病に効く薬”というものを飲み、それによって意図せずして不老不死になったのだ。
そして、その薬は遥か東方より訪れたと聞いている。
ファティマの故郷の遥か東方──極東アジアから来たと。
もしかして、それは中国のことではないのか……?
「あ、あのう、ミオン。その始皇帝と徐福っていうのは……?」
「ああ。始皇帝ってのは中国を大昔に一度統一した王様のこと。で、その始皇帝は不老不死になりたがっていて、徐福っていう胡散臭い人間に金を渡して不老不死の方法を探させたんだよ」
「まさか始皇帝はそれで不老不死に……?」
「いやいやいや。なってない、なってない。普通に死んだよ」
ファティマがおずおずと尋ねるのにミオンがそう笑い飛ばした。
「徐福に関しては日本に来ていたとかいう説もあるみたいだけど、正直大昔のことだから分からないっぽいよ」
「そうなんですか……」
「まあ、メティスもそんな都市伝説じみた話に縋りつかなければいけないぐらい、研究が上手くいっていないんだろうね」
徐福伝説は日本にもゆかりがあると主張する説もある。
だが、ひとつ確かなのは不老不死の方法を始皇帝は手にすることなく死んだということだけだ。
徐福はしくじったというわけである。
「企業の重役たちは不老不死に取り憑かれているからな。マトリクスゴーストやらクローンへの脳移植やらのグロテスクな話が満載だ」
「ま、まとりくすごーすと……?」
「知らないのか? 自分の脳のデータをデジタルにして情報保全企業のサーバーに保存するというものだ。南アフリカにあるインフィニティって会社が主にその技術を扱っている。散々『あなたの死後に残される人のためにマトリクスゴーストを保存しましょう!』ってマトリクスでも宣伝してるだろ?」
ファティマが首を傾げるのにサブマリンがそう言う。
「ファティマはちょっと世間に疎いからね。けど、マトリクスゴーストだって完全に自分のコピーが作れるわけじゃないでしょう?」
「そうだな。インフィニティにせよ、他の企業にせよ完全な人格と記憶のコピーに成功したって話は聞いてない。だが、徐福を探すよりマシな方法だろ?」
「それは確かに」
サブマリンの指摘にミオンはそう言って小さく笑った。
どうやらマトリクスゴーストというのは完成された技術ではないようだ。
不老不死には程遠いと。
事実マトリクスゴーストは自己の完全なバックアップというよりも、遺言状代わりに使われていることの方が多い。
マトリクスゴーストに完全な人権を認めているのも南アフリカだけだ。
「……実際のところ、本当に不老不死の技術はないんですか?」
ファティマはミオンとサブマリンにそう尋ねる。
「ないと思うよ? 今のところは誰かが不老不死になったって話は聞かないしさ」
「そうだな。不老不死は夢物語だろう。企業がその技術を全力で隠しているんでもなければ」
ミオンとサブマリンはそれぞれそう答える。
「そ、そうですか……」
「もしかして、ファティマは不老不死に憧れがある感じ?」
「ま、まさか! 不老不死なんて絶対にごめんです……!」
ミオンがからかうように言うのにファティマは真剣な声色でそう返す。
「ごめん、ごめん。冗談だよ。不老不死はあたしも憧れないね」
「ミオンもですか……?」
「そ。人生は限りがあるから楽しいんだと思うんだ。有限だからこそ1日1日を大事に生きていける。そういうものじゃない?」
「そうかもしれません……」
ファティマは不老不死になってからは、ただ誰からも傷つけられないように逃げ続ける生き方をしてきた。
1日1日を大事にしていただろうか?
自分にそうファティマは問う。
惰性で生きてきたような、そんな気がする。
「企業の重役連中はそうは考えないだろうけどな。連中には人間の一生じゃやりきれないぐらいの欲望を抱えているからな」
「ははっ。それはそうだ」
サブマリンが愚痴るようにそう言い、ミオンが笑う。
不老不死はずっと人類の夢だった。
だけれど、未だにそれを実現する術はないとされている。
ここにひとり不老不死の人間であるファティマがいることを今はまだ誰も知らない。
「さてと。お喋りしてないで成田を目指そう」
ミオンはそう言って車を再び成田に向けて走らせる。
『ミオン、ファティマ。まずいことになり始めているぞ』
「ええっ? どうしたの?」
『サブマリンに賞金がかけられた。メティスが直接かけたわけじゃないけど、ヤクザやらチャイニーズ・マフィアやらコリアンギャングやらが一斉にサブマリンに生死を問わず賞金をかけやがった。これは流石にまずいぞ……!』
「うへえ! 激やばじゃん!」
ここにきてTMCの犯罪組織がサブマリンの首に賞金を懸けたのだ。
賞金額は6万新円。
その賞金を巡って犯罪組織の末端や賞金稼ぎたちが動き出している。
「ど、どうします?」
「成田まで急いだ方がいいかも。しかし、直線だとな……」
ファティマが狼狽えて尋ねるのにミオンが頭を悩ませる。
賞金稼ぎたちも勘のいい連中は、サブマリンがTMCからの逃走を図るならば成田を利用すると読むだろう。
セクター13/6から成田までの直線ルートは待ち伏せされている可能性がある。
ミオンはそう考えていた。
だが、急がなければサブマリンが殺害されるリスクは高まるばかりだ。
「仕方ない。襲撃を覚悟して最短距離を進もう。それでいい、サブマリン?」
「あんたに任せるよ。とにかくこの街から逃がしてくれ」
ミオンはそう確認し、サブマリンは力なくそう返した。
彼はもうこの騒動に疲れ果てているという感じだ。
無理もない。ちょっとした小遣い稼ぎにやった仕事でメティスに追われ、犯罪組織に追われているのだから。
ファティマもサブマリンには同情していた。
彼女も彼のように追われたことがあるから。
「じゃあ、行くよ!」
ミオンは車を加速させる。
ファティマたちを乗せた車は進み続け、成田国際航空宇宙港を目指す。
しかし、やはりその道中で追っ手がかかった。
『ミオン、ファティマ。上空に怪しいドローンだ。武装はしていないが、さっきからあんたらを追いかけている』
「来た来た……! 早速お出ましだ……!」
クアッドローターの小型ドローンはファティマたちの車両を追っており、それを李可昕が別のドローンを複数リレーして確認した。
ドローンが追ってきているということは、攻撃の前触れだ。
「ミ、ミオン。後方から装甲車みたいな車が来てます!」
「うひゃあ。敵も相当本気だね」
六輪の軍用装甲車が後方からファティマたちの乗る車を猛烈なスピードで追いかけてきていた。
装甲車には表面上は武装がなかったが、中の人間はフル武装しているだろうことは間違いない。
そんな装甲車はファティマたちに迫り、後方から衝突するような距離まで迫った。
それからガンと大きな音が響き、ファティマたちの乗る車両が衝撃を受ける。
「ファティマ! これから引きはがすから攻撃お願い!」
「りょ、りょ、了解です!」
ミオンがアクセルペダルを踏み込んで叫ぶのにファティマが舌を噛みそうになりながらも了解の言葉を返す。
彼女は光の刃を形成し、それを装甲車に向ける。
そこで装甲車の方から動きがあった。
「死ね!」
「賞金はいただきだぜえ!」
アサルトライフルや機関銃で武装した男たちが銃口をミオンの車に向け、一斉に射撃を開始。
銃弾が次々に防弾ガラスや装甲にぶつかり、嫌な金属音が響く。
「ファティマ、急いで!」
「は、はいっ!」
ファティマはミオンに急かされ、光の刃を装甲車に向けて叩き込んだ。
刃は運転席を貫き、運転手を殺害したがAI制御の自動運転に切り替わり、そのままファティマたちを追い続ける。
しかし、敵も引き離されると悟ったのか、火力を上げてきた。
「くたばりやがれえ!」
「げげっ! 対戦車ミサイル!?」
襲撃者が軍用装甲車のルーフから身を乗り出して構えたのは、対戦車ミサイルだ。
物騒なランチャーの砲口がファティマたちの車両を狙い、そして──。
「来たー!」
ミサイルは発射された。
発射されたミサイルは一度上空に撃ちあがると、急降下するようにしてミオンたちの乗る車に迫る。
ミサイルはミオンの車両が放つ熱を追尾して急速に距離を縮めていた。
「やらせません……!」
しかし、迫るミサイルに向けてファティマが光の刃を放った。
光の刃はミサイルを正面から真っ二つにし、その弾頭が空中で暴発した。
「何だ!?」
「アクティブ防護システムか!?」
「分からねえ! もう1発ぶち込めばいいだろ!」
ミサイルを撃ち落とされた男たちは混乱する。
まさか彼らも魔法によってミサイルを落とされたとは考えられないだろう。
「グッジョブ、ファティマ! あとは装甲車を片付けて!」
「は、はひっ!」
ファティマは今度は装甲車のタイヤを狙って光の刃を放つ。
光の刃はタイヤを貫き、切断し、それによってバランスを崩した装甲車は自重で傾き、横転しながら道路を転がっていった。
さらにはミサイルの弾薬がその衝撃で暴発し、車両が吹き飛ぶ。
『ミオン、ファティマ~。まだ警戒解くなよ~。新手が迫っているからな~』
「もう次ぃ~!? 勘弁してよーっ!」
『私に言われてもな。ただこっちで生体認証スキャナーを一時的に麻痺させるから、敵さんも追いかけにくくはなると思うぞ』
「おお。それは何より! ありがと、李可昕ー!」
李可昕はミオンたちがいる一帯の生体認証スキャナーをハックしていた。
そして、それを短時間ながらダウンさせることにより、サブマリンの生体認証情報から彼を追っていた賞金稼ぎたちを惑わせた。
「今のうちに成田に滑り込もう!」
「い、急ぎましょう。もう襲撃は勘弁です……」
ミオンの言葉にファティマがげっそりとした表情でそう言う。
しかしながら成田までの道のりはまだ確保されたわけではない。
次の追っ手はミオンとファティマたちに迫りつつあった。
成田国際航空宇宙港までの距離──残り40キロ。
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