魔女と傭兵の休日//ハンバーガー店での会話
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──魔女と傭兵の休日//ハンバーガー店での会話
ミオンとファティマはセクター13/6を出た場所にあるハンバーガー・チェーン店に向かった。
なんでもセクター13/6にはあの手のハンバーガー・チェーン店はないそうなのだ。
治安が悪すぎて商売が成立しないとかなんとか。
「本当にセクター13/6なんて場所からさっさと出たいよ」
そんな状況にミオンが愚痴る。
「は、早くセクター13/6から出たいですね」
「うん。お金を稼いで夢の高層マンション暮らしだ!」
ファティマとしても未だにセクター13/6での暮らしには不安を覚えていた。
この街は確かにファティマを迫害はしないが、悪徳と犯罪にまみれ、暴力が日常的すぎるのだ。
ファティマとしてはもっと不便でいいので、治安のいい場所に暮らしたかった。
「そろそろ到着だよ」
セクター13/6からそこまで遠出するつもりもなかったので、ミオンとファティマはセクター10/1という最寄りのセクターにあるハンバーガー・チェーンの店に入った。
店内に入ればいつものように有機薬品の臭いが漂っているのが分かる。
ミオンとファティマはARデバイスで店のメニューにアクセスし、注文を行う。
それからすぐに接客ボットが3枚のパテとチーズ入りのバーガーと一応はフィッシュバーガーとなっている品を運んできた。
セットで頼んだのでポテトとコーラもついている。
「この人工肉、世界中で食べられているんだよ。この街からニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、そして南極の基地や軌道衛星都市でも」
「そ、そうなんですか?」
「作ってる会社がひとつしかないからね。この手の人工食料の特許は全てメティスが独占しているし、その技術やノウハウ、製造施設も彼らが独占している。事実上、世界の食料は彼らが牛耳ってるわけ」
メティス・グループ──。
カナダのトロントを拠点とし、人工食料と医療用ナノマシン分野でトップシェアを誇る六大多国籍企業の一角。
今のこの世界は彼らが作る食糧で存続していると言っていい。
「そうだったんですか……。でも、昔は違いましたよね……?」
「感染症とか気候変動で地球の農作物はダメになっちゃったからね」
ミオンの言うとおりである。
ファティマの故郷でも家畜や野生動物が次々に感染症で死に、その感染症は人にも広まったので地獄となったのだ。
ファティマが故郷を追われることになった一因が食糧難である。
彼女がこの街に辿り着くまでにも彼女は多くの飢えで犠牲になった市民を見た。
悍ましい光景であった。
「でも、メティスって昔から変な噂のある企業なんだ」
「変な噂……?」
「そ。悪魔崇拝をしているとか、そういうオカルト系の噂だよ」
「悪魔崇拝……」
ファティマはその単語に身を竦める。
魔女として悪魔と交わったなどと言われ、迫害されたときの記憶が蘇った。
『忌まわしい魔女だ!』
『呪われた悪魔の子め!』
『その罪を炎で清めろ!』
民衆がヒステリックに叫び、石を投げられ、家に火を付けられ、生きたまま──。
熱い。熱い。苦しい。息ができない。
それなのにどうしても死ねない。
こんなことならばいっそ死にたいのに死ぬことができない。
これは地獄だ。
「ファティマ? 大丈夫?」
そこでミオンがファティマの青ざめて震える手を握った。
「だ、大丈夫です」
「怖い話、苦手だった? ごめんね」
ミオンがファティマが悪魔崇拝という単語からホラー要素を見出して恐怖したのだと勘違いしたようだ。
「い、いえ。違うんです。それよりメティスの噂って……?」
ファティマはメティスの話に戻るようにミオンに促す。
「悪魔崇拝の噂もそうなんだけど普通の人間なら相手にしないようなオカルト話を企業として追っているって噂だよ。アーサー王伝説に出てくる聖杯を手に入れようとしているとか、吸血鬼をモルモットにしているとか」
「……本当なんですか?」
「分からない。メティスは特に謎が多い企業だからね。ハートショックデバイスの噂なんかもあるし」
「はーとしょっくでばいす?」
「メティスの医療用ナノマシンにはバックドアがあって、メティスがそれを使って自分たちに不都合な人間を心臓麻痺を起こさせて殺してるって都市伝説だよ。陰謀論者には信じている人、いるみたいだけどね」
ミオン自身は全く信じていないのか、軽い調子で彼女はそう言う。
ファティマはそんなミオンの言葉から少しばかり考えていた。
メティスというのが本当にオカルトを追っている企業だとすれば、魔女である自分にも手が及ぶのではないか、と。
だが、今のところファティマとメティスの間にある接点は今食べているような人工食料ぐらいだ。
メティスはファティマのことを全く知らないだろう。
そう思うと少し安心できた。
ファティマはまた魔女だという理由で人間に追われたりしたくはないのだ。
「都市伝説や陰謀論にもいろいろとあって調べると面白いんだけどね」
「たとえばどういう──」
ミオンがそう言うのに、ファティマがその面白い都市伝説などについて尋ねようとしたときだ。
「全員動くな!」
ハンバーガー・チェーン店のエントランスドアが蹴り破られて武装した男たち3名が突如として乱入してきた。
全員が覆面を被り、手には口径9ミリの古い拳銃を握っている。
どこか焦った様子の彼らは拳銃の銃口を客や店員、それに接客ボットに向けて動くなと怒鳴る。
「いらっしゃいませ、お客様。今日のメニューは──」
「動くなって言っただろう!」
接客ボットがプログラム通りに接客を行おうとするのに男のひとりが発砲。
接客ボットは撃ち抜かれ、そのまま火花を散らして動かなくなった。
「うえええっ!?」
「あーあ。強盗だ」
狼狽えるファティマと諦観した様子のミオン。
正反対の反応を彼女たちが示す中で、拳銃を持った男たちのうちふたりが客に銃口を向けつつ、ひとりがカウンターの向こうに入って行った。
「この店の端末のパスワードを教えろ! 早くしろ!」
「わ、私はパスワードは知りません! 店長しか知らないんです!」
この店の端末に入金された金を奪おうとしているらしく、男は店員の頭に銃を突き付けて叫んでいる。
しかし、店員はパスワードを知らず、時間が経過していく。
そして、外からパワード・リフト機のエンジン音が聞こえてきた。
ファティマが視線をそのエンジン音のする方に向けると黒い塗装に白文字で『大井統合安全保障』とロゴが書かれたパワード・リフト機がホバリングし、ファストロープ降下で武装したコントラクターと武装ボットが降下してきていた。
『こちらは大井統合安全保障だ! 店内にいる強盗犯に告げる! ただちに武装解除し、投降せよ! さもなければ射殺する!』
それから拡声器で大井統合安全保障側の指揮官が警告を叫ぶ。
店の外からコントラクターたちが車両や武装ボットなどを遮蔽物にして銃口を店内に向けた。
「ああ。この店は大井統合安全保障と契約してたのか。だけど、まずいね」
「ま、まずいんですか?」
「うん。大井統合安全保障は店を守るために契約しているんであって、お客を無事に救出するのは連中の仕事じゃないから。手当たり次第に機関銃の銃弾を叩き込んできかねないよ」
「う、うええっ……」
ミオンが肩を竦めて言うのにファティマは戸惑う。
「畜生、畜生! さっさと金を寄越せ、このクソ野郎!」
犯人たちは大井統合安全保障が駆け付けたのに明らかに焦っていた。
「だ、だから、パスワードは知らないんです!」
「クソッタレ! じゃあ、死ね!」
それから乾いた銃声が響き、店員の頭が撃ち抜かれた。
店員の身体が床に崩れ落ち、血だまりに沈む。
『最終警告だ! ただちに武装解除して投降せよ!』
外では大井統合安全保障のコントラクターたちが突入しようとしている。
じわじわと防弾盾を構える武装ボットに続いて、コントラクターたちが店に近づく。
「それ以上近づいたら客を殺すぞ! 近づくんじゃねえ!」
「きゃあああっ!」
犯人のひとりがそう叫ぶと、まだ若い女性の手を掴んで席から立たせ、その頭部に銃口を向けた。
女性客は悲鳴を上げ、抵抗しようとするが男の手は振りほどけない。
「う~ん。このままだと本当に虐殺になりそう。ファティマ、こっそり魔法で解決できないかな? 無理ならいいんだけど……」
「え、えっと。やってみます……」
ファティマは犯人たちに気づかれないように光の刃を形成する。
犯人たちの視線は外の大井統合安全保障に向けられており、ファティマたちの方を向いていない。
今がチャンスだ。
「えい」
ファティマはこっそりと光の刃を飛ばし、男たちを狙う。
光の刃は音もなく飛翔し、そして男たちの首を刎ねるべく回転する。
「え……」
突然自分の首が飛んだ男たちは呆然とした表情のまま鮮血を吹き上げた。
しかし、ファティマは3名の男たちのうち2名を仕留めたが、1名を仕留めそこなった。
刃は男の後頭部を掠めるに終わり、そのカウンターの向こうにいた男は仲間たちの首が突然飛んだのを目撃した。
「ク、クソ! やりやがったなっ! それなら全員ぶち殺して──」
そこで店のガラス窓を突き抜けて放たれた大口径ライフル弾が男の頭部を粉砕。
男の身体はその衝撃で後ろに吹き飛ばされ、ゴンと音を立てて壁にぶつかるとずるずると床に崩れ落ちていく。
それからすぐに大井統合安全保障のコントラクターたちが店内に突入してきた。
「クリア!」
「クリア!」
そして、店内で男たちが死亡したのを確認したコントラクターたちが制圧を宣言。
彼らは男たちの死体を見下ろし、それから少し首を捻る。
「どうしてこいつらの首は突然飛んだんだ?」
「さあな。インプラントのバグじゃないか?」
しかし、彼らは特にファティマたちを追及したりなどはせず、さっさと死んだ店員と男たちを死体袋に放り込もうと店内から運び出した。
「……特に問いただされませんでしたね?」
「この街じゃあ変なことはしょっちゅう起きるし、いちいち気にしてたら仕事にならないんだよ。それに魔法よりサードパーティー製のインプラントのバグで首が飛んだってしておいた方が、報告書も書きやすいし」
「は、はあ……。そうなんですか……」
この街は全てを受け入れる。
ファティマもここでは迫害される魔女ではなく、ただのいち市民でいられる。
それが改めて分かった事件であった。
それからファティマは人質にされていた女性客を見る。
大井統合安全保障のコントラクターたちは彼女に特に手を貸さなかったが、彼女は無事そうだった。
ファティマはそのことに僅かに安堵する。
「さて、食事は終わったし、帰ろうか?」
「は、はい」
ミオンは席を立ち、ファティマもそれに続いて店を出る。
大井統合安全保障のパワード・リフト機はすでに飛び立っており、退屈した野次馬が事件現場を見ようと集まり、一部はARデバイスで血の跡が残る店内を撮影してマトリクスに配信していた。
「そ、そのう、ミオン。こういう事件ってよくあるんですか?」
「あるよ。珍しくもない。セクター13/6の治安も終わってるけど、TMCという街全体の治安が最悪なのかもね」
「やっぱり、そうなんですか……」
この街は濁り切った川に近いのだろう。
とことん濁っているからどれだけ汚物を流し込んでも目立つことはないし、それを栄養にしている魚も生きていける。
水清ければ魚住まず、の対極みたいな街である。
「さて、今日はあたしの都合で連れ回しちゃったから、今度遠出するときはファティマの行きたいところに行こうね!」
「あ、は、はい」
ミオンにそう言われてファティマはおずおずと頷く。
そして、ファティマは考える。
自分が行きたい場所はどこだろうと。
ずっと故郷みたいに静かでひとりで暮らせる場所を求めていた。
だが、今はミオンの隣にいたいと、そう静かに願っている。
それがミオンが生を終えるまでの短い時間だったとしても……。
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新章準備のため1週間ほどおやすみいただきます。
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