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ペルソナ・ノン・グラータ//ミッションコンプリート

……………………


 ──ペルソナ・ノン・グラータ//ミッションコンプリート



 仕事(ビズ)目標(ターゲット)である(タン)雲啓(ユンチー)までは残り数メートル。

 ファティマを抱きかかえたミオンは廊下を駆け抜け、そして立ち止まる。


「この先だよ。ファティマ、準備はいい?」


「ふぁ、ふぁい!」


 ミオンが抱きかかえていたファティマを降ろし、戦闘準備を整える。

 リモートタレットに装着された重機関銃の重々しい銃声と電磁ライフルの銃声が、すぐそこの曲がり角の先から聞こえてきていた。

 そこで唐とそれを護衛する中国国家安全部の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが交戦しているのだ。


「ファティマ。これが連中の映像だよ。確認しておいて」


 ここでミオンからファティマに監視カメラの映像が送信されてくる。

 李可昕がハックしている天義会の警備システム。

 その警備システムにリンクしたカメラが、唐と4名の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの姿を捉えていた。


 唐は初老の男であり、かつて軍人か何かだったのかその年齢の割には鍛えられた肉体をしている。

 しかし、その表情に余裕はなく、焦りの色だけが見えた。

 そして、4名の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが彼を守っており、電磁ライフルで無数のリモートタレットや警備ボットを破壊しながら前進していた。


「ああ。2名は背後を警戒しているね。奇襲は無理そう」


「ど、どうします?」


「正面突破だ。ファティマ、いつも通りあたしが突っ込むから援護してね」


「はっ、はい!」


 ミオンは軽い調子でそう言い、“月断ち”の柄に手をかけると超電磁抜刀の構えのまま、曲がり角を勢いよく曲がった。

 ファティマもすぐにそれに続き、曲がり角から飛び出す。


「あれは!?」


「クソ、報告のあったサイバーサムライだ! 殺れ!」


 背後を警戒していた2名の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーがファティマとミオンに素早く電磁ライフルの銃口を照準。

 電気の弾ける音とともに大口径ライフル弾が放たれた。


「はいっと!」


 ミオンはそれを軽く“月断ち”で弾き、ファティマも後方から二振りの光の刃を使ってミオンを守る。


「ミ、ミオン! 気を付けて!」


「任せといてよ!」


 ファティマはミオンを守りながらそう叫び、ミオンは一気に敵に肉薄する。

 それからひとり目の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが彼女の間合いに入った。


 ミオンは刃を振るう。

 旧式のボディを使用している生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの皮下装甲は、超高周波振動刀によって易々と引き裂かれ、その下にある軍用グレードの人工筋肉も易々と引き裂かれてゆく。


「やっぱ、そのボディも電磁ライフルも旧式だね。人工筋肉は明らかに第3世代程度でしかないし、電磁ライフルもスーパーキャパシタが旧式で低容量のそれだ。下っ端にはいい装備回してもらえないのかい? 実に哀れなことだよっと!」


 明らかに今戦っている生体機械化兵マシナリー・ソルジャーは、クロエ・ホアンのような速度と膂力を有していなかった。


「畜生、畜生! このサイバーサムライ野郎──」


 戦いの主導権はミオンとファティマが握っており、次の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーがミオンの間合いに持ち込まれる。


 “月断ち”の刃が地下を照らすLEDライトの明かりを反射して剣呑に輝き、それからすぐに鮮血が舞う。


「ぐうっ……!」


 生体機械化兵マシナリー・ソルジャーは腕を盾にして刃を受け止めたが、それだけではミオンを止めることはできない。

 ミオンはすぐに次の斬撃を繰り出し、速度と技量の差を見せつけた。

 刃が再びLEDライトの光を反射して踊る。


 それから鮮血が剥き出しのコンクリートの壁にスプレーしたように飛び散り、首のなくなった生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの身体がぐらりとよろめいて地面に倒れる。


「残り2名!」


 ミオンはそう言う中でファティマも動いていた。

 彼女は背後を振り返ってミオンを狙おうとしている2名の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーに二振りの刃を飛ばした。

 それらはまず電磁ライフルの銃口が瞬いて大口径ライフル弾が放たれるのを弾いて飛ばし、それからふたりの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーに迫った。


「クソ、何だあの光っている刃は!?」


「まさか光学エネルギーウェポンか!?」


 彼らが動揺している間に、刃は飛翔して2名の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの首を飛ばした。

 頸動脈から機械化された身体を流れるナノマシン混じりの鮮血が天井まで吹き上げ、身体はそのまま地面に崩れ落ちる。

 重量のある電磁ライフルが落ちる金属音がし、それから場が静まりかえった。


 こうして残るは唐だけになった。


「唐雲啓。さあ、覚悟を決めるんだね」


「貴様ら……!」


 それからミオンとファティマが唐の前に立ち、それぞれが刃を唐に向けた。


「私が誰か分かっているのか! 北京の支援を受けているのだぞ! 私を殺せば北京が報復に出る! 中国を敵に回すことになるのだ! その覚悟はあるんだろうなっ!」


「へえ。ただの犯罪者のために北京が報復してくれるんだ。それは面白いことだ」


 ミオンはそう言い、ぐいと“月断ち”の刃を唐に向けて突きつける。

 その血を帯びた刃を見て、唐が小さく悲鳴を上げる。


「ど、どうします? 報復は怖いですよ……」


「ないない。はったりだよ。さっきの連中の旧式装備を見たでしょ? 中国国家安全部が関与していたとしても、そこまで本気じゃないのは明白だ。練度も低ければ、装備の質も悪い連中がたったの4名なんだから」


「そ、そうなんですか?」


「まあ、国家安全部が何をしようとしていたかの情報があれば、ジェーン・ドウは喜ぶかもね。というわけで──動くな」


 ミオンは唐を押さえつけると、後頭部にあるBCIポートに無線端末を挿入。

 強制的に唐の脳がマトリクスに接続される。


「李可昕? こいつの脳みそを漁って。問題の唐だけど、国家安全部の情報があるならば奪っておきたい」


『またかよ……。とは言え、こいつは楽勝だな。中国製の旧式(アイス)を使ってるだけだ。私の持っている氷砕き(アイスブレイカー)で簡単に砕ける』


「じゃあ、手早くお願い」


『あいあい』


 それから李可昕は易々と氷砕き(アイスブレイカー)──(アイス)を突破するためのソフトウェア──(アイス)を砕き、唐の脳の情報を抽出。


『ふうん? こいつと北京の繋がりは大したものじゃないみたいだぜ。せいぜい末端の工作員を偽装(カバー)する程度の役割だな。そこで死んでる工作員(エージェント)どもも末端中の末端だ』


「そっか。それは残念」


『けど、末端の工作員(エージェント)の名簿がある。これをマトリクスに流せば、国家安全部の連中はあたふたするだろうな。やっていいか?』


「お好きにどうぞ」


 李可昕の言葉にミオンはそう返し、無線端末を引き抜くと唐の首に刃を添わせる。


「じゃあ、さようなら、唐雲啓」


「ま、待て──」


 ざんっと肉の裂ける音が響き、唐の首が飛んだ。

 鮮血が舞い散り、唐の身体は僅かに痙攣すると動かなくなった。


「オーケー。仕事(ビズ)は完了。あとは帰るだけ」


「か、帰りはどうします?」


「このまま上を目指そう。いちいちジオフロント跡地を抜けるのも面倒だし」


「わ、分かりました」


 また暫く階段を昇るのかと思うとファティマは少しげっそり。

 そこでミオンがファティマの顔を見つめる。


「またお姫様抱っこしてあげよっか?」


「いっ、いえ! いいです! ぜぜぜぜぜ、全然大丈夫です!」


 ミオンが冗談めかして言うのにファティマはあわあわと首を横に振って返す。


「……ひょっとしてお姫様抱っこは嫌だった?」


「えっ、えーっと。い、嫌というわけではないですが……その……ミ、ミオンの迷惑になりますし……」


「ふうん。あたしは気にしないんだけどな。ファティマ、すっごく軽いし」


 ファティマは羽みたいに軽いとミオンはそう言う。


「まあ、何かあったときにファティマを抱えてて即応できないのは確かに困るからね。家に帰るまでが仕事(ビズ)ですから」


「そ、そうですね」


 ミオンたちはそう言葉を交わし、帰路に就く。

 ジオフロントの残骸を上へ上へと進む。


 途中、李可昕がハックしたリモートタレットや警備ボットに射殺された天義会(テンイーフェイ)のメンバーの死体が転がっていたが、生きた人間はいないようだった。

 生きた人間は警備システムがハックされたこの建物から逃げたのかもしれない。


 ファティマは息を切らせながら階段を昇ること十数分。

 やっと地上が見えてきた。


「ここは……」


「昔、この街の地下に作られようとしていた地下鉄の駅だね。地下鉄そのものは走ってるけど、この駅は完成しなかったみたい」


 ファティマたちが出たのは『東海宮駅』という看板のある場所だが、列車や線路は存在せず、風雨をしのぐために地下で暮らしているホームレスのテントや不法投棄されたゴミなどがあるだけの場所だった。

 ゴミだらけのそこを抜けると、ようやく地上だ。


 かなりの時間が経過したのだろう。地上はすでに深夜で、ネオンとホログラムはまた煌びやかに、そして猥雑に輝いている。


「ジェーン・ドウに仕事(ビズ)が終わったって報告しないと」


 ミオンはそう言い、ARデバイスからジェーン・ドウに連絡。


仕事(ビズ)は終わりましたか、ミオン?』


「イエス。終わったよ。唐の排除は完了した」


『ご苦労様です。報酬を渡しますのでセクター6/2のこの場所に来てください。一杯奢りますよ』


「やった! すぐに向かうね!」


 ジェーン・ドウはそう言い、ミオンはガッツポーズするとファティマの方を向く。


「ジェーン・ドウがお酒奢ってくれるってさ。行こう!」


「は、はい」


 それからミオンは無人タクシーを捕まえて、それでセクター6/2を目指した。


「ミオン。あなたの車はセクター13/7に置きっぱなしですけど……」


「ああ。大丈夫。自動運転で家に戻ってるから」


「そ、そうなんですか」


「飲んだら乗るなだからね」


 どうやら殺人や拷問はオーケーのミオンでも飲酒運転はダメらしい。

 よく分からない倫理基準である。


 それから無人タクシーはセクター6/2に向けて進んだ。

 ファティマが初めて訪れたセクター6/2は、お上品にしたセクター13/6という感じであった。

 ネオンやホログラムが輝き、ざわざわと雑踏がざわめき、街は怪しい雰囲気を放っているのだが、あちこちに武装した民間軍事会社(PMSC)のコントラクターがいて治安は守られている。


 そんなセクター6/2のとある高級バーの前で無人タクシーは止まった。


『ご乗車ありがとうございました。お忘れ物のないようにお降りください』


「ありがとね!」


 タクシーの機械音声に対して支払いを済ませたミオンがそう言い、ミオンとファティマのふたりはタクシーを降りた。


「シルバーハウス……」


 高級バーは一面スモークガラスで覆われた建物で、外からは中の様子は見えない。

 そしてエントランスにはこれまでファティマが見たような軽合金製の安っぽい警備ボットではなく、軍用グレードの厳めしい警備ボットが配備されていた。


「ここは有名な高級バーなんだよ。なんたって天然のお酒が出るからね。ファティマはお酒は強い方?」


「そうでもないです……」


「じゃあ、楽しめるだけ飲んでおこう。何事もほどほどが一番だから!」


 ミオンはファティマにそう言い、シルバーハウスのエントランスをに入った。


……………………

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「ああ。大丈夫。自動運転で家に戻ってるから」 良い子だ。
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