掃き溜めに鶴
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──掃き溜めに鶴
突然、地下室に舞った鮮血。
「えっ……?」
男たちが困惑の声を発する。
それは青白い光の刃としか呼称しようのないものが、ファティマに迫った男の首を刎ね飛ばしたことで生じたものだった。
それは西洋の両手剣クレイモアに似ており、刀身100センチほどのものだ。
それが突如として現れて、男の首を刎ね飛ばした。
その刃は鮮血の軌跡を描きながらくるりと回る。
隣にいた仲間の首が突然刎ね飛ばされたことに、他の男たちが呆然とする。
首を失った男の身体はナノマシン混じりの血液を噴水のように頸動脈から吹き上げながらよろめき、そのままコンクリートの床に倒れた。
「て、てめえ!」
残った5名の男たちの反応は思ったより早かった。
彼らは素早く拳銃を抜き、ファティマに向けて発砲。
乾いた銃声が響くが、それと同時にファティマは光の刃で銃弾を弾く。
「……そっちが悪いんですからね……」
ファティマは冷たい瞳で男たちを見つめ、小さく呟くように言う。
そして、光の刃をさらにもう一振り増やす。
今度はどのように刃が現れるのかが男たちにも分かった。
青白い光の粒子が集まり、それが瞬く間に刃を形成したのだ。
そうやって生じた二振りの刃で男たちに襲い掛かった。
「ぎゃあああああっ!」
二振りの刃は剣舞のように舞い、男たちを切り刻む。
首が飛び、拳銃を握っていた手首が切断され、胸部が貫かれる。
男たちは瞬く間に斬り殺されてゆき、残るは2名。
「な、なんなんだよ、こいつ……!?」
「怯むな! 撃ち殺せ!」
男たちはそれでもファティマに銃弾を浴びせ、その一発がファティマを捉えた。
銃弾はファティマの額に命中し、鮮血と脳漿がまき散らされる。
ファティマの身体はぐらりとよろめき、そのまま倒れた。
それと同時に光の刃も消失する。
「は、はは、ははははっ! やったぜ! ざまあみろ、化け物!」
男たちは勝利を確信してファティマの下に恐る恐る歩み寄る。
彼らは確実に死んでいることを確かめるために彼女のそばに近寄ったのだ。
ファティマは間違いなく頭部を撃ち抜かれており、生きている様子はない。
地面にゆっくりと彼女の血が広がって行っており、男たちは安堵の息を吐き──。
「がはっ……!」
そこで二振りの光の刃が突然現れて男たちの胸を貫いた。
「な、なんで……」
男たちが気泡の混じった血を流しながら目を大きく見開く。
その視線の先では間違いなく頭部を撃ち抜かれたはずのファティマが、床からゆっくりと起き上がっていた。
「……死にはしませんが、一応痛いんですよ……?」
ファティマはそう言って、すでに傷が塞がった頭部を押さえた。
明らかに致命傷だったはずの傷を、彼女は痛いの一言で済ませた。
「こ、この……化け物め……っ!」
男は最後にそう言い残して果てた。
地下室には6体の男の死体が残され、ファティマは深々とため息。
「全く……。ここでは平和に暮らせると思ったのですが……」
ついてないというように首を横に振るファティマ。
彼女は開いたままの地下室の扉の方に視線を向けると、小さくガッツポーズした。
「……チャンスです。逃げましょう」
それからそそくさと彼女は地下室から逃走を図った。
その前にというように彼女は背後を振り返る。
そこでは女性たちがいまだに恐怖で動けずにいた。
彼女たちを無理やり連れていくことをファティマは一度は考えたが、ファティマは自分のことで精一杯であるため扉を開けておくだけにした。
縛られてなどはいないので、逃げようと思えば逃げられるだろう。
それからファティマは金属製の階段を上り、脱出しようとした。
しかし、そこで上階から激しい銃声が響く。
ファティマはびくりと身を竦めたのちに耳を澄ませる。
「──畜生、畜生! カチコミだ!」
「──相手はたったのひとりじゃねえか! さっさと殺しちまえ!」
「──ひとりだけど、こいつ化け物だぞっ!?」
男たちの怒号と聞き取りにくい中国語の罵声が聞こえる。
しかし、一向に地下に向かってくる足音がしないところからして、ファティマが脱走したことに気づいたわけではなさそうだ。
「ど、ど、どういうことなんでしょうか……?」
ファティマは困惑しながらも上階を慎重に目指す。
機関銃のものだろう、けたたましい銃声や激しい爆発音も聞こえるが、一体全体何が起きているのかファティマにはさっぱり分からない。
しかし、彼女はここから逃げなければならない。
それにチャイニーズ・マフィアがこうして混乱している今こそが脱走の機会であることに間違いはないのだ。
そう決意して彼女が非常階段から地上階に出たとき、そこには──。
「死体の山……」
そこにはチャイニーズ・マフィアの死体が積み重ねられていた。
黒いスーツ姿の男たちの斬殺死体が山のようにある。
首のない死体、胴体を真っ二つにされた死体、手足がない死体。
かつてホテルのエントランスであった場所は、そんな死体から流れた真っ赤な血が床一面で満たされていた。
しかし、ここにいる人間が全て死体というわけではなかった。
生きた人間がまだ存在している。
「──そこにいるのは、誰だい?」
不意にハスキーな女性の声がファティマに向けて放たれた。
ファティマが声の方を見れば、そこにはひとりの若い女性の姿が。
人工的に染めただろうアッシュブロンドの髪をウルフヘアにしたそのファティマより長身のの女性だ。
その身体にはラフなパンツスーツと蛍光カラーが入ったジャケットを羽織っていた。
ジャケットは撥水性のものなのか、血が染みることなく水滴になって滴っている。
ぽとぽとと血が滴っては床に広がる血だまりに波紋を生じさせていた。
腰には日本刀らしき刀剣の鞘を下げ、手には未だに血を帯びた日本刀だ。
「あ……」
しかし、そんな実に物騒な雰囲気の彼女のその顔立ちは、ファティマがこれまで見てきたどんな人間の顔より端正で美しかった。
ファティマと同じ20代ほどの外見年齢。
すっと美しく通った鼻筋。形のいいふっくらとした唇。少しだけ目尻が優しげに垂れていて、透き通るように綺麗なブラウンの瞳を有する目。
ファティマは思わずその女性のブラウンの瞳を見つめてしまった。
「ふうむ? どうやら天義会の連中じゃなさそうだね。撃ってこないし」
そういうとその女性は血だまりを黒いブーツでずかずかと進み、女性に見とれていたファティマの方に歩み寄ってきた。
「……わあっ! 暗かったから分からなかったけど、すっごい綺麗な子だあっ! その銀髪ってどう染めたんだい!? 凄い綺麗!」
「あっ、えっ。そっ、その、あなたは……?」
ファティマの顔に警戒心もなくずいと自分の顔を寄せてくる女性に、ファティマはパーソナルスペースを著しく侵害されてたじろぐ。
それにテンションが高い。ばりばりの陽キャである。
これはファティマが苦手なタイプの人間だ。
それゆえにファティマは挙動不審で視線を彷徨わせたが、女性から目をそらすことはできなかった。
「あたし? あたしは秋葉ミオン。見ての通り──非合法傭兵だぜ!」
そんな美女は大胆にそう名乗る。
そして、これが──ファティマとミオンの出会いであった。
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