ペルソナ・ノン・グラータ//スペツナズ
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──ペルソナ・ノン・グラータ//スペツナズ
電気の弾ける音とともに放たれる“月断ち”の刃。
それが男の首を刎ね飛ばし、ナノマシンの混じる血が吹き上げた。
「やりやがったな!」
「ぶち殺せえ!」
残った5名の男女が叫び、一斉にアサルトライフルの引き金を引く。
けたたましい銃声が響く中をミオンは駆け抜ける。
“月断ち”の刃を握り、ミオンは銃弾の嵐の中に飛び込んでいった。
「ミ、ミオン!」
ファティマは慌ててミオンを援護。
彼女の死角から迫る銃弾を光の刃で弾き、ミオンを守る。
いつものミオンらしくないとファティマは思う。
いつもならばもっと慎重に行動するのに、今日は全然違う。
もうファティマのことも目に入っていないみたいに、我武者羅に突撃している。
だけれど、彼女の腕は確かだった。
銃弾はミオンを掠めることすらなく、彼女は敵に肉薄。
「次」
ミオンが振り上げた刃で男のアサルトライフルが手首ごと斬り落とされた。
そして返す刀でミオンは男の首を刎ね飛ばす。
「ち、畜生っ!」
「撃て、撃て!」
男女に加えて武装ボットもタレットを急旋回させてミオンを銃撃。
それに対してミオンは武装ボットの方を一瞥すると、彼女のワイヤレスサイバーデッキのライトが僅かに点灯したのち、武装ボットはいきなり味方であるはずのスラブ系の男女を攻撃し始める。
女のひとりが50口径の大口径ライフル弾をくらってミンチに変わった。
「ハックされてるぞ!?」
「クソ! 制御系を焼き切れ!」
そう、一瞬でミオンは武装ボットをハックしていたのだ。
それに気づいた男女が武装ボットをハックし返して制御系を焼き切る。
「残り2名」
しかし、残った男女にも死神の刃は迫っていた。
ミオンの刃は大柄な男をまず袈裟懸けに斬り倒し、そのまま女の首を突き貫く。
げぼげぼと気泡の混じった血を吐きながら男女は倒れ、ミオンはしゅっと“月断ち”に帯びた血を払う。
「ミ、ミオン。これからどうします……?」
「まだいる。油断しないで、ファティマ」
「えっ……?」
ミオンはそう言い、倉庫の方に進んでいく。
そこで倉庫の方から電気の弾ける音がし、ミオンが“月断ち”の刃を振るった。
「驚いたな。こいつを退けやがるとは……」
すると倉庫の何もなかったはずの暗がりから男の姿がぬっと現れた。
さっきミオンが斬り倒した男より大柄な男である。
2メートル以上の身長にがっしりとついた筋肉。
いや、筋肉ではなく皮下装甲かもしれない。とにかく厳ついシルエットだ。
そんな大男が手に口径14.5ミリの電磁ライフルを握って姿を見せた。
「ど、ど、どこから……!?」
「旧式の第5世代熱光学迷彩だよ。統一ロシアの特殊任務部隊が未だに好んで使っている代物だ」
ファティマはさっきまでそこに人の姿など見えなかったのにもかかわらず男の姿が現れたことに動揺し、ミオンの方は吐き捨てるようにそう言った。
「ほう。俺たち特殊任務部隊とやり合うのは初めてではないような言い方だな、お嬢ちゃん?」
「ええ。あるよ。現役の連中を何人も首だけにしてきた」
そこでミオンが左手を上げる。
ばちんと電気の弾ける音とともに密かにミオンとファティマを狙おうとしていた倉庫のタレットがダウンする。
この特殊任務部隊の男は会話でミオンたちを油断させたところをタレットで撃ち抜くつもりだったようだ。
「ちっ……! 電子戦もそこそこいけるのか……!」
この戦術が通用しないと判断した特殊任務部隊の男は、電磁ライフルの銃口を素早くミオンに照準して引き金を引いた。
男の機械化した身体そのものが銃火器に連動しており、狙いは正確無比であった。
だが──。
「そのドイツ製の玩具の相手も初めてじゃない」
極超音速で飛来する銃弾。
以前相手にした電磁ライフルより遥かに小口径とは言えど、威力のある銃弾をミオンは“月断ち”で捌いていく。
しかも今度は連続して放たれる極超音速弾を、ミオンは歯牙にもかけない。
彼女はコンクリートで固められた地面を蹴って加速し、特殊任務部隊の男に向けて突っ込む。
「この動きは……!」
そこで特殊任務部隊の男が何かを思い出したようにはっとした表情を浮かべ、すぐさま電磁ライフルをミオンの方に投げつける。
ミオンがそれを“月断ち”で斬り落とすのと特殊任務部隊の男が超高周波振動ナイフを抜いたのは同時だった。
電磁ライフルを切断したミオンが“月断ち”で突きを繰り出すのを、特殊任務部隊の男は辛うじてナイフで凌いだ。
「その動き、やはりお前は……!」
特殊任務部隊の男の表情に余裕はなく、ミオンの方も鬼気迫る殺意で相手を圧倒している。
激しい斬撃が繰り出され、男は押されてゆく。
そこで男がナイフで一度“月断ち”を思いっきり弾くと、男はミオンの胸に向けて蹴りを叩き込み、ミオンが衝撃で後ろに押される。
「はあはあっ……! 畜生、どうしてこんな場所にお前みたいなのがいる……!」
「それはあたしの質問だ。どうしてお前みたいな樺太のゴミがこの街にいる」
樺太。
ファティマは確かにミオンがそう言うのを聞いた。
さっきから醸している尋常ではないミオンの殺気の原因は、樺太という場所にあるのだろうかとファティマは内心で疑問に思う。
「え、援護します、ミオン」
ミオンを援護するために二振りの刃を特殊任務部隊の男に向ける。
それを見た男は忌々しげに舌打ちして、ナイフを構えて深く腰を落とす。
「次で仕留める」
そして地面を蹴ると逆手に握ったナイフを拳とともにミオンの方に向けて突き出す。
常人には一瞬のことで何が起きたか分からないだろう、弾丸すら鈍足に感じるほどの速度で繰り出された斬撃。
しかし、それをミオンは完全に見切っていた。
「があっ!」
金属音が響き、男の握っていたナイフが手首ごと飛ぶ。
男の装甲化されていた肉体でもミオンの超高周波振動刀を防ぐことはできなかった。
しかし、男は右手の手首を失っても左手で打撃を繰り出す。
まともに命中すれば起死回生が狙えたかもしれない一撃だが、もうミオンは対処しきってしまっていた。
降り下ろした刃で左手を刎ね飛ばし、そのまま右足の太腿を切断。
男は姿勢を崩し、地面に転がった。
「クソ……! その電子戦能力と高度に機械化された肉体……お前は情報軍の──」
何かを言おうとした男の口を“月断ち”の刃が貫いた。
口に刃を突っ込まれた男だが、痛みを感じている様子はない。
「黙れ」
ミオンはそう言い、ぐるりと抉るように刃を動かしてから抜く。
男の口からはナノマシン混じりの血がだらだらと流れ、舌を失った男は喋れず、この場から逃げようと這う。
しかし、ミオンはその左足に“月断ち”の刃を突き刺して地面に男を釘付けにした。
「どうせ最初から喋る気はないんだろう。こっちにも手がある」
ポケットからフラッシュメモリのようなものを取り出し、ミオンはそれを男のBCIに強引に接続した。
それは無線端末であり、男の脳と脳埋め込み式デバイスを無理やりマトリクスに接続するものであった。
「李可昕? 今いい?」
『どうした? 天義会の連中の情報ならまだだぞ』
「こっちで進展があった。こいつの脳みその中身を抜き取って」
ミオンは李可昕にそう言い、マトリクスに接続された男の脳のアドレスを送信。
『……統一ロシア製の軍用氷でがっちり守られている。こいつは砕くのに暫くかかるぞ』
「時間はある。ゆっくりやっていいよ」
『了解。脳みその中身を引っこ抜いたら、あとはどうする?』
「焼いておいて」
『酷いやつ』
李可昕は呆れたようにそう呟くと、特殊任務部隊の男の脳の情報を解析するために軍用の氷を砕き始めた。
「あ、あの、ミオン……?」
「ああ。ごめん、ごめん、ファティマ。今日は余裕なかったね。あたしたちコンビなのにあたしだけ突っ走っちゃって……本当にごめん」
ファティマがおずおずと声を掛けるのに、ミオンは視線を伏せてそう謝罪した。
しかし、ファティマが欲しかったのは謝罪の言葉ではない。
どうして突然ミオンがここまで苛烈になったかの理由だ。
今日のミオンはファティマから見ても怖いくらいだった。
何が彼女をここまで駆り立てたのか。
それを知りたかった。
「……ミオン。樺太という場所で何かあったんですか……?」
ファティマは慎重に言葉を選んでそう尋ねる。
ミオンは最初は視線を落としたまま黙り込んでいたが、やがて口を開いた。
「……あたしは従軍していた時期がある」
ミオンはそう呟くように言う。
「樺太はそんな従軍時代に訪れた場所。あたしはそこで多くを失った。今はそれだけしか言えない。ごめん」
「い、いえ。私こそ無思慮に聞いてしまって……すみません……」
お互いに謝り合うふたり。
ファティマはミオンが何かの悩みや苦しみを抱えていたとすれば自分に何ができるだろうと考える。
……何もできそうにない。
ファティマはずっと孤独に生きてきて、人の心をよく理解できていない。
恐らくそんなファティマではミオンの心の傷を癒すどころか、逆に傷つけてしまうだろう。
彼女は自分でそう思った。
しかし、同時にそれでも何かしてあげたいとファティマは思っていた。
これまで他人を思う気持ちなんてなかったのに。
それはただ単にミオンに助けてもらったからだろうか。
それとも別の理由だろうか……?
ファティマは頭の中でもやもやするものを感じていた。
『ミオン。脳みその中身を可能な限り引っこ抜いた。ばりばりに暗号化されているデータもあるが、一部はすぐに解読できそうだ。あとは焼くぞ』
「そうして」
次の瞬間、特殊任務部隊の男の脳が焼き切られた。
電気の弾ける音が響き、それから焦げ臭い空気が漂う。
特殊任務部隊の男はそれによって死んでいた。
「さて……こいつの脳みそに天義会の情報が入っていればいいけれど」
ミオンはそう言って特殊任務部隊の男の足を貫いていた“月断ち”を抜き、それから血を払って鞘に収める。
「あたしたちが現実でできるのはここら辺ぐらいだね。あとは李可昕に任せよう。セクター13/6に戻って彼女に合流だ」
「は、はい」
ファティマはミオンが少し落ち着いてきたのを感じて、彼女も安堵した。
さっきまでのミオンはそれこそ敵を殺し続けるために、どこまでも行ってしまいそうだった。
ただやはりまだミオンには余裕はなさそうで、ファティマは何ができるか考える。
自分が不安だったときはミオンは手を握ってくれた。
ファティマもミオンの手を握ってあげれば、彼女が落ち着くのではないかと考えて、そっとミオンの方に手を伸ばす。
だが、やはり恥ずかしい。
手汗を嫌がられたらどうしようとか、振りほどかれたらどうしようとか、ネガティブなことばかりが浮かんで、伸ばした手はいつまでもミオンに届かない。
ようやく握ったのは彼女のジャケットの裾だった。
「ん? どうかしたの、ファティマ?」
裾を引かれたミオンは怪訝そうに振り返ってファティマにそう尋ねる。
「い、いえ。ミ、ミオン。わ、わっわ、私もあなたの力になりますから……。私たちは、そ、そのう、コ、コンビですからね!」
ファティマがミオンに向けて淡淡とした様子でそう言うと、ミオンは少し戸惑った表情をしたのちに笑顔を浮かべた。
「ありがとう、ファティマ。君はあたしの最高の相棒だよ!」
ミオンはそう言い、ファティマの手を包むように握ったのだった。
しかし、ミオンの手は緊張のためか、別の理由か、いつものように温かくはなく冷たかった。
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