配達のお仕事//追加の仕事
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──配達のお仕事//追加の仕事
ミオンとファティマの車両に迫る黒い装甲バン。
ルーフから身を乗り出した男が機関銃で銃撃を加えてくるのを蛇行で避けながら、ミオンはさらにアクセルペダルを踏み込む。
「ひひっ! ひいいいいっ! す、すすす、スピード出し過ぎですよ!」
「大丈夫、大丈夫。それよりこういうときに喋ると舌を噛むから口は閉じておいた方がいいよっと!」
カーブをドリフトさせながらミオンは曲がり、それに黒い装甲バンもついてくる。
装甲バンは装甲化されていることで重心が高いにもかかわらず、見事に急カーブを高速で曲がり切った辺り、相手のドライバーの腕はいい。
「ちょっとやばいね。撒くの無理かも」
そんな相手ドライバーの技量を見てミオンが呟く。
「え、ええーっ! で、では、どうするんですか!?」
「考え中」
ファティマが狼狽えるのにミオンは引き続き蛇行して銃撃を回避しつつ、対応策を考えていた。
がんがんと機関銃の大口径ライフル弾が防弾ガラスに当たり、ファティマが頭を抱えて悲鳴を上げる。
「ファティマ。例の光の刃で相手の車両を破壊できない?」
「は、破壊ですか? 不可能ではないと思いますが……」
「なるべく急いで。相手が対戦車ミサイルを持ち出そうとしているから」
「え……?」
ファティマが振り返ると重機関銃で射撃していた男が、次は携行式対戦車ミサイルを構えて、ファティマたちの乗る車両をロックオンしようとしていた。
物騒なランチャーの砲口がファティマたちに向けられている。
「まっ、ままま、まずいですよね!?」
「うん。まずいから対処お願い」
「は、はひっ!」
ファティマは助手席の窓から身を乗り出すと、光の刃を形成。
二振りの刃が無から生み出され、一気に後方から迫る装甲バンに向かう。
刃のうち一振りは防弾ガラスを貫いて運転席の男の首を貫き、もう一振りは対戦車ミサイルを構えていた男の胸を貫いた。
そんな装甲バンはコントロールを失って横転し、暴発したミサイルが爆発。
装甲バンは木っ端みじんとなった。
「なっ、なんとかしました……」
ファティマは息も絶え絶えにそう報告。
「グッジョブ! けど、一応用心して向かおう。追跡が連中だけとは限らないから」
ミオンは衛星やドローンなどでも追跡されている可能性を考えて、用心しながら目的地へと向かう。
しかし、追跡の有無は不明ながら実力行使に出ようというのは、さっきの装甲バンの人間たちだけだったらしくミオンたちが再び襲撃されることはなかった。
少なくとも目的地までの道中では。
「そろそろ目的地に到着だ」
ミオンたちはアルチョムが示した目的地までもう少しだった。
アルチョムが示した場所は雑居ビルに入った喫茶店だった。
雑居ビルの2階と3階には外科クリニックが入っている。
「さあ、商品を渡して駄賃を貰おう」
ミオンはそう言い、彼女たちは喫茶店へと入店する。
1名の人間、そして2台の接客ボットが切り盛りする店内に入ると、ミオンは客たちを生体認証してアルチョムを探す。
「いたいた」
ミオンは数名の客の中からアルチョムを見つけ、彼の元へ向かう。
「ヘイ、アルチョム。配達だよ」
「おお。来たか。結構、時間がかかったな?」
アルチョムはまだ若いロシア系の男性で、頭髪はソフトモヒカンにしている。
地下闘技場の選手なだけあって、その体格はゴリラよりも逞しい。
「君のインプラントを狙っている人がいたせいだよ」
「畜生。そういうことか」
「早くインストールした方がいいね。まだ狙われてるかも」
アルチョムが悪態を吐くのに、ミオンは肩を竦めた。
届けてしまえば、あとのことはアルチョムの責任だ。
彼が殺害されて、脳みそからインプラントを抜き取られようと知ったことではない。
「アルチョオオオオオオオオムッッ!」
そこでアサルトライフルや機関銃で武装した男たち5名が喫茶店の扉を蹴り破って乱入してきた。
アルチョムと同じロシア系で、体格もアルチョムに匹敵するぐらいデカい。
そんな男たちが乱入してくるのに客たちはさっさと逃げ、店員はカウンターに身を伏せて隠れる。
「ダニールッッ! この卑怯者の屑野郎! 俺のインプラントが狙いだな!」
「ははははっ! その通りだ。てめえにそいつは渡さねえ。この俺がいただく」
どうやら乱入してきた男のひとりはアルチョムのライバル選手であるらしく、彼はアサルトライフルの銃口をアルチョムに向けた。
「……傭兵。配達以外の仕事を頼まれる気はないか?」
そこでアルチョムがダニールと呼ばれた男を睨みながら言う。
「報酬によるね」
「6万新円で脳みそにインプラントをぶち込むまでの護衛だ」
「乗った」
アルチョムの提案にミオンは同意し、超電磁抜刀の構えを見せる。
「ファティマ。追加の仕事だよ。いけるよね?」
「はっ、はい! やります!」
ミオンにそう言われファティマも二振りの光の刃を形成。
その刃をダニールたちに向けた。
「抵抗しようってのか、アルチョム。大人しくしてれば楽に死なせてやるのによう!」
そう言ってダニールたちが一斉に発砲。
銃弾の嵐が吹き荒れ、ミオンは超電磁抜刀し、銃弾を叩き切る。
ファティマも光の刃でアルチョムとミオンを守りながら立ち回った。
「特に恨みや因縁はないんだけど、これも仕事なんでね!」
ミオンはそう言って申し訳なさそうに笑い、床に亀裂が入るほど地面を蹴って加速するとダニールたちに斬り込む。
肉薄されたダニールと彼の雇った傭兵が狼狽えるのがファティマにも伝わってきた。
「畜生! サイバーサムライがっ!」
「近寄らせるなっ! 撃て、撃て!」
展開される弾幕。けたたましく響く銃声。瞬くマズルフラッシュ。
ミオンはそんな死地を切り抜け、まずダニールが雇った傭兵のひとりを斬り倒した。
「まずひとり!」
傭兵はばっさりと袈裟懸けに斬られ、ナノマシン混じりの血をまき散らして倒れる。
ミオンはサディスティックに笑い、次の獲物に飛び掛かった。
しかし、それを横から別の傭兵が横からショットガンで狙う。
「さ、させません……!」
その傭兵に向けてファティマが光の刃を放ち、ショットガンを握る腕を切断。
ショットガンは地面に落ち、傭兵は悲鳴を上げる。
「ナイスアシスト、ファティマ!」
ミオンは傭兵をさらにひとり斬り殺し、隣で腕を斬り落とされた傭兵も斬り倒す。
これで残るはダニールともうひとりの傭兵だけだ。
「さあ、残りふたり!」
ミオンは次の獲物に刃を向け、“月断ち”が舞う。
刃は傭兵の首を刎ね飛ばし、喫茶店の天井まで頸動脈から吹き上げた血が吹き上がった。
「ク、クソッタレッ! たかが傭兵ふたりに──」
「死にやがれ、卑怯者!」
ここでアルチョムが前に出て狼狽えるダニールに向けて拳を放った。
機械化された身体から繰り出される打撃が、ダニールの顔面を粉砕。
顔が崩れ、血を垂れ流すダニールが地面によろめいて倒れる。
「ふざけた真似してくれやがって! くたばりやがれ!」
倒れたダニールに馬乗りになり、顔に何度もパンチを叩き込むアルチョム。
金属音が響き、ダニールの顔面は瞬く間に原型を留めなくなっていった。
「わおっ……」
その様子を見て思わずミオンも眉をひそめる。
何度も殴られたダニールの顔はもはやグロテスクなアートになってしまっている。
「ひっ、ひええええっ…………」
それにはファティマもドン引きだ。
彼女は無残な姿となったダニールから視線を逸らす。
「ふんっ! 清々したぜ、クソ野郎!」
ダニールの死体にぺっと唾を吐き、アルチョムは立ち上がる。
「さて、傭兵。助かった。あとはインストールし終えるまで見張っててくれ」
「あいよ~」
それからアルチョムはインプラントを手に2階にあるクリニックに向かった。
アルチョムが手術室に入り、軍用強化脳というインプラントのインストールを終えるまでファティマたちは護衛を続けることになる。
「た、大変な仕事になりましたね……」
「まあ、よくあることだよ。簡単な宅配の仕事だと思ったら途中からどういうわけかドンパチの仕事になるっていうのも」
「そ、そうなんですか……」
このTMCという街で生活のために仕事をやっていくのは大変そうだとファティマは改めて思ったのだった。
「でも、今回も切り抜けられた。ファティマのおかげだよ」
「ほ、ほとんどミオンが倒したじゃないですか……」
「いやいや。ファティマのアシストがなかったら、あたし死んでたし」
「そ、そうでしょうか……」
「そうなの。だから、報酬は半々でいい?」
「も、もちろんです」
アルチョムからの護衛の仕事の報酬は6万新円。
そのうち3万新円がファティマのものになる。
3万新円分、ファティマは自立に近づくのだ。
「ねえ、ファティマ。これで一緒に仕事をやるのは3件目だけど、どう?」
「どう、と言いますと……?」
「コンビとしてしっくりくるとか、あるいはいまいち息が合わないとか。そういう感想、聞かせて」
「か、感想ですか……」
ファティマはそう言われてミオンとの仕事のことを思い浮かべる。
そこで思い浮かぶのは頼りになり、導いてくれるミオンの姿。
いつだって指示は的確で、前線で剣戟を繰り広げる姿は勇敢だ。
その様子にファティマは何度も見惚れていた。
「そ、そ、そのう、いい感じなんじゃないでしょうか…………?」
ファティマは赤面しながらミオンにそう返す。
見惚れているなどとは恥ずかしすぎて正直に言えないので、ファティマは無難な言葉を選んでいた。
「そうかそうか! よかったーっ! あたしもファティマと一緒に仕事をやるのは、凄いしっくりくるって感じがするんだ!」
そう言って満面の笑みでミオンがファティマに抱き着く。
ミオンとの距離が猛烈に近くなるのにファティマは心臓がばくばくと高鳴った。
ミオンの体温が、ミオンの髪の香りが、ファティマにダイレクトに伝わるのだ。
やはりミオンは距離感がバグっているっ! とファティマは内心で悲鳴を上げた。
「これからも一緒にやっていこう。ねっ?」
「は、ははっ、はい。こ、こ、こちらこそよろしくお願いします……」
ミオンがファティマに囁くようにそう言い、ファティマは耳まで真っ赤に紅潮した。
ミオンとファティマの顔の距離はほんの数センチである。
ファティマはもう心臓が破裂しそうだった。
「この仕事が終わったら、お昼にしようか。今日は何食べたい?」
「え、えっと……。お任せします……」
「なら、李可昕からも駄賃を貰わないといけないし、龍龍亭で済ませようか」
龍龍亭はミオンの行きつけだったらしく、彼女はすぐにそこを選んだ。
それから暫くしてアルチョムが手術室から出てきた。
アルチョムは包帯やガーゼをしている様子もなく、すでに自分で歩いていた。
脳を手術したというのに、平気そうなアルチョムは笑いながら、待合室にいるファティマたちの元へやってきた。
「助かった、傭兵。約束の報酬とインプラントの代金だ」
そして、アルチョムからミオンの端末に送金される。
「毎度あり!」
ミオンは笑顔でそう言い、ファティマを連れてクリニックを出た。
こうして李可昕からの仕事は無事に成功したのだ。
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