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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第99話 守る者たち

夜の森を、無数の足音が進んでいた。


月明かりを遮るほどの木々の間を、黒い装備に身を包んだ魔族たちが進んでいる。手には魔道具や武器が握られ、隊列の中央には大きな魔力結晶を積んだ馬車まであった。


その数、およそ五十。


才能管理機関が、初めて本格的な実力行使へ出たのだ。


先頭を歩く男が立ち止まる。


「ここから先が、魔界スキル商店だ。」


部隊の者たちが周囲を確認する。


「報告では、店主アルト本人に戦闘能力はほとんどない。」


「店内には多数のスキル結晶が保管されている。」


「目的は店主の拘束、及びスキル結晶の回収だ。」


隊員の一人が尋ねる。


「契約者たちは?」


男は少し間を置いた。


「レオン、カイン、ポヨン。」


「その他にも複数の契約者が集まっている可能性がある。」


「ですが、所詮は寄せ集めです。」


別の隊員が言う。


「互いに面識のない者も多い。」


「組織として戦えるはずがありません。」


男は頷いた。


「その通りだ。」


「だからこそ、今夜で終わらせる。」


その言葉と共に。


部隊は再び進み始めた。



魔界スキル商店。


店の前には、すでに多くの者が集まっていた。


レオン。


カインとルナ。


ポヨンと大量のスライム。


そして、これまで表立って名前を知られることのなかった契約者たち。


鍛冶職人。


魔法使い。


商人。


冒険者。


魔族の研究者。


種族も立場もバラバラだった。


戦闘能力にも大きな差がある。


それでも。


誰一人として帰ろうとはしなかった。


「本当に来るんでしょうか。」


ミナが不安そうに尋ねる。


彼女は【集中】を購入した少女だった。


以前は自分の力に自信がなかった。


しかし今は違う。


「来る。」


レオンが答える。


「俺たちを調べていた連中が、今さら諦めるとは思えない。」


「怖くないんですか?」


「怖いさ。」


レオンは正直に答えた。


「でも。」


剣の柄を握る。


「怖いからって逃げる理由にはならない。」


カインも頷く。


「僕も同じです。」


ルナが隣で低く唸る。


「クゥ……。」


ポヨンはというと。


「ぷる!」


元気いっぱいだった。


緊張感があるのかないのか分からない。


「ポヨンは相変わらずですね。」


カインが苦笑する。


その時。


森の奥から魔力の波が押し寄せてきた。


空気が変わる。


レオンが目を細める。


「来た。」


全員が身構えた。



魔界スキル商店の扉が開く。


アルトが外へ出てきた。


「店長!」


リリアが慌てて後を追う。


「危ないですよ!」


「大丈夫です。」


アルトは森を見る。


やがて。


木々の間から黒い集団が現れた。


先頭の男が叫ぶ。


「魔界スキル商店店主、アルト!」


アルトは静かに答えた。


「はい。」


「才能管理機関の命令により、この店を閉鎖する。」


「閉鎖、ですか。」


「お前が販売したスキルによって、世界の秩序が乱れ始めている。」


男は声を張り上げる。


「これ以上の販売を許可することはできない。」


アルトは少し考えた。


「なるほど。」


「理解したか?」


「いえ。」


「……何?」


「閉鎖する理由が、よく分かりません。」


周囲がざわつく。


アルトは続けた。


「私が販売しているのは、武器ではありません。」


「購入するかどうかも、お客様自身が決めています。」


「その結果として人生が変わったのであれば、それはお客様が選んだ結果です。」


「それを、なぜ私が止めなければならないのでしょうか。」


男の表情が険しくなる。


「だから危険なのだ!」


「才能のない者に力を与えれば、世界の秩序が壊れる!」


その言葉を聞いたレオンが前へ出る。


「俺は違う。」


男が振り返る。


「何?」


「俺が手に入れたのは、誰かを支配する力じゃない。」


「自分を諦めないための力だ。」


レオンは剣を抜いた。


「それを奪う権利が、お前たちにあるのか?」


続いて。


カインが前へ出る。


「僕も。」


ルナが隣に立つ。


「この力がなければ、僕は召喚士を続けられなかった。」


さらに。


ミナも前へ出た。


「私だって。」


震えている。


それでも。


一歩も下がらない。


「私は、ようやく自分の作ったものを好きになれた。」


その後ろから、別の契約者たちも続いた。


一人。


また一人。


名前すら知られていなかった者たちが、静かに前へ並ぶ。


才能管理機関の部隊に動揺が走った。


「……これほどいるのか。」


「報告より多い。」


「契約者の全容が、まったく掴めていない……。」


先頭の男も、初めて表情を変えた。


「全員、店を守るつもりか?」


レオンが答える。


「違う。」


「俺たちは、この店を守るためだけに来たんじゃない。」


「自分で選んだ人生を守るために来たんだ。」


その言葉に。


アルトは少しだけ目を細めた。



その時。


空から巨大な魔力が降り注いだ。


「全員、警戒!」


才能管理機関の部隊が一斉に空を見る。


夜空を飛ぶ複数の魔族。


その中心には、魔王軍の紋章があった。


「魔王軍……?」


敵側に動揺が走る。


地面へ降り立った魔族の一人が、冷たい声で告げた。


「そこまでだ。」


「なぜ魔王軍がここへ……。」


魔族は才能管理機関の男を睨む。


「我々は魔界スキル商店の味方をするために来たわけではない。」


「では、なぜ?」


「貴様らのやり方が気に入らないだけだ。」


男は一歩前へ出る。


「この店を潰すということは、ここで力を得た魔族たちまで否定することになる。」


「魔王軍にも、この店の契約者は存在する。」


才能管理機関の隊員たちがざわめく。


「魔王軍まで契約者を……?」


魔族は鼻で笑う。


「今さら驚くな。」


「我々の中にも、あの店によって救われた者はいる。」


その瞬間。


戦場の空気が変わった。


人間。


魔族。


魔物。


本来なら互いに争うこともある者たちが。


今だけは同じ方向を向いている。



店の中。


アルトは一人、帳簿を開いた。


外からは怒号が聞こえる。


魔力がぶつかる気配もする。


それでも。


アルトは落ち着いていた。


「店長。」


リリアが尋ねる。


「怖くないんですか?」


アルトは少し考える。


「怖いですよ。」


「え?」


「店が壊れれば困りますから。」


「そこですか……。」


リリアが呆れる。


アルトは帳簿を見る。


そこには。


これまで契約してきた者たちの名前が並んでいる。


ポヨン。


レオン。


カイン。


ミナ。


そして。


数え切れないほどの契約者。


「この店を作った時は。」


アルトは静かに呟く。


「こんなことになるとは思いませんでした。」


「でも。」


外から大きな衝撃音が響く。


「悪くないですね。」


リリアが驚いてアルトを見る。


アルトは観測水晶へ金貨を入れた。


水晶が光る。


そこに映し出されたのは、店の前で戦う契約者たちだった。


レオンが敵の攻撃を受け止める。


カインとルナが連携する。


ポヨンたちが分裂し、敵の隊列を分断する。


ミナは集中力を極限まで高め、仲間へ的確な指示を出している。


それぞれが。


自分の得た力を。


自分自身のやり方で使っている。


アルトはしばらく、その光景を見つめていた。


そして。


小さく笑った。


「皆さん、成長しましたね。」



だが。


戦いはまだ終わっていない。


才能管理機関の部隊は、予想以上の抵抗を受けながらも、後退してはいなかった。


先頭の男が手を上げる。


「予定を変更する。」


部下たちが振り返る。


「店を守る者ごと、まとめて排除する。」


男の手元で、巨大な魔力結晶が光り始める。


レオンが顔を上げる。


「何だ、あれは……。」


魔王軍の幹部も表情を変えた。


「全員、構えろ!」


夜の森を。


巨大な魔力が覆っていく。


そして。


魔界スキル商店を巡る戦いは。


最終局面へ突入した。

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