↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/100

第100話 可能性を売る店

巨大な魔力が夜の森を覆っていた。


才能管理機関が用意した魔力結晶。


それは一つの魔道具としては、あまりにも強大だった。


結晶へ集められた魔力が次々と圧縮され、周囲の空気そのものが震えている。


レオンは剣を構えたまま、その光を見上げた。


「……あれをまともに受けたら、まずいな。」


隣ではカインがルナと顔を見合わせている。


ポヨンたちも、いつものような楽しそうな雰囲気を消していた。


魔王軍の幹部が叫ぶ。


「全員、散れ!」


直後。


巨大な魔力が放たれた。


轟音。


森の木々が一斉に揺れ、地面が大きく陥没する。


だが。


その攻撃が店へ届くことはなかった。


「――止めろ!」


レオンが叫ぶ。


カインがルナと共鳴する。


ポヨンたちが一斉に分裂し、巨大な壁を作る。


さらに。


魔王軍の魔族たちが防御魔法を展開した。


幾重にも重なった防御。


それでも。


魔力の奔流は止まらない。


「くっ……!」


レオンの足が地面へ沈む。


腕が震える。


それでも。


剣を離さない。


「まだだ……!」


カインも叫ぶ。


「ルナ!」


「クゥゥゥ!」


二人の魔力が重なる。


さらに後ろでは、ミナが目を閉じていた。


【集中】


その力によって、周囲の状況を正確に把握する。


敵の魔力。


味方の位置。


防御の薄い場所。


そして。


一つの可能性。


「レオンさん!」


ミナが叫んだ。


「右です!」


「右?」


「魔力が一瞬だけ弱くなります!」


レオンは迷わなかった。


「分かった!」


一歩踏み込む。


剣を振る。


魔力の流れを断つ。


完全に破壊することはできない。


しかし。


ほんの少し。


攻撃の軌道が逸れた。


巨大な魔力が店の横を通り抜け、森の奥へ消えていく。


轟音と共に。


遠くの木々が何百本も倒れた。


静寂。


誰も動かなかった。


やがて。


ポヨンが。


「ぷる。」


小さく鳴いた。


その声をきっかけに。


誰かが笑った。


そして。


一人。


また一人。


緊張が解けていく。



「……なぜだ。」


才能管理機関の指揮官は呆然としていた。


「なぜ、止められる?」


彼らの計算では。


これほどの人数が集まっても、防ぎ切れるはずがなかった。


レオン。


カイン。


ポヨン。


その他の契約者たち。


魔王軍。


それぞれ単独なら、対処できる。


しかし。


今は違った。


全員が。


自分の得意なことを使っている。


強い者が弱い者を守る。


弱い者が情報を伝える。


情報を得た者が次の人間へ繋ぐ。


そして。


一人ではできないことを、複数人で補っている。


それは。


才能管理機関が最も理解できなかったものだった。


「これが……。」


指揮官は震える声で呟く。


「可能性、なのか。」


その時。


背後から声がした。


「そういうことです。」


振り返る。


グラディウスだった。


才能管理機関の最高責任者。


彼は戦場を見渡していた。


レオン。


カイン。


ポヨン。


ミナ。


魔王軍。


そして。


名も知られていなかった契約者たち。


誰一人として。


同じ力を持っていない。


それでも。


今は一つの場所を守っている。


「我々は、才能を管理しようとしすぎた。」


グラディウスは静かに言う。


「生まれ持った力だけを見て。」


「強い者を評価し。」


「弱い者には限界を決めた。」


「だが。」


視線を店へ向ける。


「ここにいる者たちは、その限界を自分自身で越えてきた。」


指揮官が振り返る。


「では、撤退するのですか?」


長い沈黙。


そして。


グラディウスは頷いた。


「そうだ。」


「しかし……。」


「我々が間違っていたことを認めるのは、今日ではない。」


「今日、認めるのは。」


グラディウスは店を見る。


「この店を力で消すことはできない、ということだ。」



戦いは終わった。


才能管理機関の部隊は撤退していく。


魔王軍も武器を収めた。


契約者たちは疲れ切っていた。


店の周囲には、戦闘によって壊れた木々や地面が広がっている。


それでも。


魔界スキル商店は無事だった。


リリアは店を確認して回る。


「壁……無事。」


「棚……無事。」


「結晶……無事。」


そして。


最後に店の中央を見る。


「店長。」


「はい。」


「全部守れましたね。」


アルトは頷いた。


「皆さんのおかげです。」


レオンが笑う。


「違う。」


「ん?」


「俺たちが勝手に来ただけだ。」


カインも笑う。


「そうですね。」


ポヨンも。


「ぷる!」


アルトは少し困ったように笑った。



その夜。


店内には珍しく、多くの客がいた。


戦いに参加した者たちが集まっている。


人間。


魔族。


魔物。


普段なら同じ場所に集まることなどない者たち。


しかし。


今日は違った。


アルトは全員へ飲み物を出していた。


「本当に、ありがとうございました。」


「こちらこそ。」


レオンが答える。


「俺の人生を変えてくれた店だ。」


「守るくらいはするさ。」


カインも頷く。


「僕も同じです。」


ポヨンは机の上で跳ねている。


「ぷるぷる!」


「ポヨンは……。」


アルトは少し考える。


「楽しそうですね。」


「ぷる!」



宴が終わった後。


店内にはアルトとリリアだけが残った。


アルトは帳簿を開く。


そこには。


今まで契約した者たちの記録が並んでいた。


【分裂】


契約者:ポヨン。


【努力】


契約者:レオン。


【共鳴契約】


契約者:カイン。


【集中】


契約者:ミナ。


その他にも。


数多くの名前がある。


誰にも知られていない契約者。


すでに成功した契約者。


まだ成長途中の契約者。


そして。


これから成長する者。


アルトは一人ずつ確認していく。


「増えましたね。」


リリアが言った。


「そうですね。」


「最初は、こんなに契約者が増えると思っていました?」


アルトは首を横に振る。


「思っていませんでした。」


「じゃあ、店を始めた理由は?」


アルトは少し考える。


「商売です。」


「……。」


リリアは呆れた。


「最後までそれなんですね。」


「重要ですよ。」


アルトは真面目に答える。


「商売ですから。」


リリアは笑った。



アルトは棚から一つの古い帳簿を取り出した。


そこには。


最初の契約から現在までの記録が残されている。


販売したスキル。


受け取った金貨。


そして。


それぞれの契約で受け取った代価。


鏡。


武器。


言い訳。


執着。


大切な記憶。


本人にとって価値のあるもの。


契約によっては。


金貨だけで成立したものもある。


それぞれ違う。


アルトは最初から。


「金貨だけを取る店」


だったわけではない。


その者にとって必要のないもの。


手放すことで前へ進めるもの。


そして。


本人が納得して差し出せるもの。


それが代価だった。


ただ。


最近では。


スキルの価値と契約者の状況を見極めた上で、金貨だけで成立する契約も増えている。


アルトにとって。


それも商売の一つだった。


「店長。」


リリアが帳簿を見る。


「これからも続けるんですか?」


アルトは頷く。


「もちろんです。」


「また人生を変えたい人が来るかもしれませんから。」



そして。


アルトは観測水晶を見る。


金貨を一枚入れる。


水晶が淡く輝いた。


映し出される世界。


レオン。


剣を振っている。


カイン。


ルナと共に旅をしている。


ポヨン。


大量の子スライムたちに囲まれている。


ミナ。


工房で魔道具を作っている。


他の契約者たちも。


それぞれの場所で。


それぞれの人生を生きている。


アルトはしばらく黙って眺めた。


そして。


水晶の光が消える。


「みんな元気そうですね。」


「はい。」


アルトは満足そうに頷く。


自分が何かを成し遂げたわけではない。


彼ら自身が。


自分の人生を歩いている。


それで十分だった。



翌朝。


魔界スキル商店。


いつものように。


アルトは店を開けた。


カラン。


扉の鈴が鳴る。


アルトが顔を上げる。


「いらっしゃいませ。」


入ってきたのは。


一人の若い女性だった。


服は汚れている。


長い旅をしてきたようだ。


女性は店内を見回す。


そして。


小さな声で言った。


「本当に……あった。」


アルトは微笑む。


「当店をお探しでしたか?」


女性は頷いた。


「はい。」


「人生を変えたいんです。」


アルトは席を勧める。


「では。」


「お話を伺いましょう。」


女性が椅子へ座る。


そして。


新しい帳簿が開かれた。


魔界スキル商店。


その店は。


今日も営業を続けている。


誰かの人生を変えるためではない。


誰かが。


自分自身の人生を変えるために。


選択する場所として。


これからも。



そして。


誰も知らない。


今回の事件によって。


世界の価値観が少しだけ変わったことを。


才能は。


生まれた時に決まるものではない。


努力も。


集中も。


記憶も。


共鳴も。


小さな力であっても。


使う者によって。


大きな可能性へ変わる。


魔界スキル商店が売っていたのは。


スキルだけではなかった。


「自分にも、まだ何かできるかもしれない。」


そう思える可能性。


それこそが。


アルトの店で売られていた。


そして。


今日もまた。


新しい客が。


その扉を開く。


カラン。


「いらっしゃいませ。」


魔界スキル商店の物語は。


ここで一度。


幕を閉じる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。