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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第96話 狙われ始めた契約者

才能管理機関による排除計画が承認された翌日。


魔界の各地で、静かに調査が始まった。


標的は魔界スキル商店。


しかし。


いきなり店を襲うわけではない。


彼らには、まず確認しなければならないことがあった。


魔界スキル商店が、どれほどの人間や魔族に力を与えているのか。


そして。


その契約者たちが、どこまで成長しているのか。


「最初に店を潰すのは危険です。」


調査部門の責任者が言った。


「契約者の数が把握できていません。」


「もし店を破壊した後、すでに大量の契約者が存在していたとしたら?」


「我々は、その全員を敵に回すことになります。」


会議室に沈黙が落ちる。


「だから先に契約者を調べる。」


「どの程度の戦力なのか。」


「どの程度、店主アルトに忠誠を持っているのか。」


「そして。」


男は資料へ目を落とした。


「どの程度、この店に恩を感じているのか。」


そこが重要だった。


契約者が全員、店を守るとは限らない。


スキルを買っただけ。


アルトとは一度会っただけ。


そういう者もいるだろう。


逆に。


人生そのものを変えてもらった者なら。


店が襲われた時、黙って見ているとは限らない。


「まずは、確認できている者から調べろ。」


命令が下された。



最初の標的になったのは、レオンだった。


理由は単純だった。


最も分かりやすい成長を遂げているからだ。


半年ほど前。


才能なし。


冒険者失格。


そう評価されていた青年。


それが今では、複数の依頼を安定してこなす冒険者になっている。


しかも。


成長が止まらない。


「……あれがレオンか。」


酒場の隅。


二人の男がレオンを観察していた。


「聞いていたより普通だな。」


「見た目だけならな。」


「強いのか?」


「今のところ、中級冒険者程度だ。」


男は資料を見る。


「ただし。」


「成長速度が異常だ。」


レオンはそんな視線に気付かない。


依頼から戻り、仲間と今日の戦いについて話していた。


「もっと早く動けたと思う。」


「十分だっただろ。」


「いや。」


レオンは首を振る。


「相手の動きを見てから判断するまでに、少し時間がかかった。」


「次はそこを修正したい。」


仲間が笑う。


「お前、本当にそればっかりだな。」


「そうか?」


「毎回、反省してるだろ。」


レオンは少し考えてから笑った。


「だって、まだ上手くなれるからな。」


その言葉を聞いた調査員の表情が変わった。


「……なるほど。」


資料に一行追加する。


【精神状態:安定】


【成長意欲:極めて高い】


そして。


【魔界スキル商店への忠誠度:不明】



次に調査対象となったのは、カインだった。


しかし。


こちらはレオンとは違う意味で厄介だった。


召喚士。


しかも。


召喚獣との異常な連携能力。


調査員が遠くから観察していると、カインとルナが森の中から現れた。


「ルナ、どうだった?」


「クゥ。」


「そうか。」


二人は短い言葉を交わす。


しかし。


それだけで意思が通じている。


調査員には理解できなかった。


何を話しているのか。


なぜ、あれほど自然に連携できるのか。


ただ。


一つだけ分かった。


「……あれは、普通の召喚士ではない。」


ルナが突然、調査員のいる方向を見る。


「!」


男は息を止めた。


こちらを見ている。


気付かれた?


しかし。


カインは何も言わなかった。


ルナもすぐに視線を戻す。


調査員は知らなかった。


共鳴感知。


その能力によって、ルナは周囲の異変を感じ取っていた。


だが。


カインは追わなかった。


「行こう、ルナ。」


「クゥ。」


二人は森の奥へ消えていく。


調査員は汗を拭った。


「……厄介だな。」



そして。


ポヨン。


こちらはさらに予想外だった。


「どれが本体だ?」


調査員が湿地帯を見ながら呟く。


目の前には大量のスライム。


小さいもの。


大きいもの。


青いもの。


少し色の違うもの。


全てが似た姿をしている。


「分からない。」


「では、識別しろ。」


「無理です。」


「……。」


調査員は頭を抱えた。


ポヨンを探しているはずなのに。


逆に。


大量のスライムに囲まれていた。


「ぷる?」


一匹のスライムが近づいてくる。


調査員は後退する。


「来るな。」


「ぷるぷる?」


「だから来るな!」


スライムたちが一斉に集まってくる。


そして。


ぴょん。


一匹が跳ねた。


「うわっ!」


調査員は思わず避ける。


その様子を遠くから見ていたポヨンは。


「ぷるる。」


楽しそうだった。



才能管理機関へ報告が戻る。


「どうだった?」


責任者が尋ねる。


調査員たちは沈黙していた。


「……予想以上です。」


「何がだ?」


「契約者たちは、単純に強くなったわけではありません。」


「それぞれが、自分だけの能力を持っている。」


「そして。」


男は資料を並べた。


レオン。


カイン。


ポヨン。


「彼らに共通しているのは、スキルではありません。」


「何だ?」


「自分で成長を続けていることです。」


責任者は黙った。


それは最も厄介なことだった。


倒して終わりではない。


時間が経てば、さらに強くなる。


しかも。


まだ確認されていない契約者がいる。


「……やはり。」


責任者は低く呟いた。


「店を先に潰すべきだ。」



その頃。


魔界スキル商店。


アルトは観測水晶へ金貨を一枚投入した。


水晶が淡く光る。


これは単なる映像装置ではない。


契約者の現在を確認するための観測設備。


使用には金貨が必要だった。


アルトが金貨を支払うことで、指定した契約者の現在の状態を確認できる。


「レオン。」


水晶に映像が浮かぶ。


続いて。


カイン。


ポヨン。


そして。


まだ世界には知られていない契約者たち。


アルトは一人ずつ確認していく。


「順調ですね。」


リリアが隣から覗き込む。


「みんな元気そうです。」


「はい。」


「……店長。」


「何でしょう?」


リリアは少しだけ不安そうな顔をした。


「最近、周囲の魔力反応が増えています。」


「調査されているようですね。」


アルトは落ち着いていた。


「でも。」


リリアは続ける。


「もし、本当に店が狙われたら?」


アルトは少し考える。


そして。


「その時は、その時でしょう。」


「相変わらずですね……。」


リリアはため息を吐く。


しかし。


アルトは知らない。


今、世界の各地で。


自分の店を調査する者たちが動いていることを。


そして。


その者たちが。


契約者たちの存在を、一人ずつ知り始めていることを。


まだ。


誰も動いてはいない。


だが。


戦いの準備は、すでに始まっていた。

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