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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第94話 才能を管理する者たち

魔界には、表には出ない組織が存在していた。


魔王軍でもない。


冒険者ギルドでもない。


国を治める者たちでもない。


しかし。


長い年月、世界の裏側で一つの役割を担ってきた者たち。


その名は――


【才能管理機関】


彼らの役目は、世界中に存在する特殊な才能を記録し、管理することだった。


危険な能力を持つ者。


歴史を変える可能性がある者。


生まれながらにして大きな力を持つ者。


そういった存在を把握し、必要ならば監視する。


それが彼らの仕事だった。


「報告を続けろ。」


薄暗い会議室。


中央に座る老人が言う。


目の前には複数の資料が並べられていた。


「対象、魔界スキル商店。」


「確認された能力は三件。」


研究員が読み上げる。


「一件目。」


「スライム種、ポヨン。」


「本来なら低級魔物として扱われる存在。」


「しかし、特殊スキル【分裂】によって異常な成長を確認。」


「二件目。」


「人間、レオン。」


「才能不足と判断されていた冒険者候補。」


「しかし、スキル【努力】によって継続的な成長を確認。」


「三件目。」


「人間、カイン。」


「召喚適性不足。」


「しかし、特殊契約【共鳴契約】を成立。」


資料が閉じられる。


老人は静かに息を吐いた。


「……理解した。」


「これは危険だ。」


その言葉に、周囲が頷く。


「強力なスキルが危険なのですか?」


若い研究員が尋ねる。


老人は首を振った。


「違う。」


「本当に危険なのは、力ではない。」


「可能性だ。」


室内が静まる。


「今まで世界は、才能によって整理されてきた。」


「魔力が多い者は魔法使いになる。」


「剣の才能がある者は騎士になる。」


「特殊な血統を持つ者は上位へ進む。」


「それが自然な流れだった。」


老人は資料を見る。


「しかし、あの店は違う。」


「才能がないと判断された者に、別の可能性を与えている。」



魔界スキル商店。


アルトはいつも通り帳簿を整理していた。


「最近、視線が増えましたね。」


リリアが窓の外を見る。


「はい。」


アルトは紅茶を飲みながら答える。


「複数の組織が調査しているようです。」


「分かっていたんですか?」


「観測水晶の反応で確認できます。」


アルトは机の横に置かれた小さな魔道具を見る。


観測水晶とは別の、周囲の魔力反応を確認するための道具。


これもアルトが金貨を払って購入した研究設備だった。


「店長。」


リリアが少し不安そうに言う。


「もし、敵が来たらどうするんですか?」


アルトは少し考える。


「話します。」


「話す?」


「はい。」


「戦わないんですか?」


アルトは首を傾げる。


「私は戦闘員ではありません。」


その答えに、リリアは少し安心したような、呆れたような表情になる。


「そこは変わらないんですね。」


「はい。」


アルトにとって重要なのは、自分が強いことではない。


必要な人へ、必要なスキルを届けること。


それが店の役割だった。



数日後。


才能管理機関の調査員が、魔界スキル商店の近くまで来ていた。


「本当にここにあるのか?」


若い調査員が周囲を見る。


「記録では、この森の奥だ。」


「しかし……。」


彼は眉をひそめる。


「妙だな。」


普通なら、強力な魔道具や結界の反応があるはずだった。


しかし。


何も感じない。


まるで普通の小さな店。


「なぜだ。」


調査員は呟く。


世界を変えるほどの力を扱う店。


それなら、もっと恐ろしい場所であるべきだ。


しかし。


目の前にあるのは。


古びた木造の建物。


小さな看板。


そして。


中から聞こえる声。


「いらっしゃいませ。」


調査員は思わず足を止めた。


扉の前に立っていたアルトが、普通の客へ向けるように声をかけたのだ。


「……。」


調査員は困惑する。


警戒されていない。


敵意もない。


ただの店主として接している。


「あなたが……アルトか。」


「はい。」


「魔界スキル商店の店主。」


「そうですね。」


調査員は店内を見る。


棚には大量のスキル結晶。


どれも危険な力を秘めている。


「あなたは理解しているのか?」


「何をでしょうか。」


「この店が、世界の均衡を崩す可能性があることを。」


アルトは少し考える。


そして答えた。


「可能性を与えることが、均衡を崩すことになるのでしょうか。」


調査員は言葉に詰まる。


「今まで才能がないと言われた者が、力を得る。」


「それは危険だ。」


アルトは静かに聞く。


「なぜですか?」


「秩序が崩れるからだ。」


その答えを聞き、アルトは少しだけ考える。


「なるほど。」


「では、才能がある者だけが未来を選べる世界が、正しいということですね。」


調査員は答えようとする。


しかし。


言葉が出ない。


アルトは続ける。


「私は才能を配っているわけではありません。」


「その人の中にある可能性を、見つける手助けをしているだけです。」


沈黙。


調査員は初めて理解した。


この店主は世界を変えようとしているわけではない。


ただ。


目の前の客を見ているだけなのだ。



その夜。


才能管理機関へ戻った調査員は報告書を書いていた。


【対象:魔界スキル商店】


【危険度:高】


しかし。


最後の項目で手が止まる。


【店主アルトについて】


しばらく悩み。


一文を追加した。


【敵意なし】


【ただし、既存の世界観を変える可能性あり】


報告書は上層部へ送られる。


そして。


その内容を見た者が一人。


静かに笑った。


「ならば。」


「消すしかないな。」


魔界スキル商店を巡る動きは、ついに始まろうとしていた。

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