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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第93話 才能を変える店

魔界には、長い間変わらない常識があった。


強者は生まれた時から強者である。


才能を持つ者は、幼い頃から特別扱いされる。


魔力が多い者。


剣の才能がある者。


特殊な能力を持って生まれた者。


そういった存在が上へ進み、持たざる者は下へ沈む。


それが当たり前だった。


もちろん、努力で強くなる者もいる。


しかし。


努力だけでは越えられない壁が存在する。


それが、この世界の常識だった。


だからこそ。


魔界スキル商店の存在は、少しずつ異質なものとして認識され始めていた。


「才能を後から得る?」


ある魔族は報告書を見て笑った。


「そんなことが可能なら、今まで積み重ねてきた階級制度は何だったんだ?」


机の上に置かれているのは、複数の報告資料。


そこには、最近名前が広がり始めた者たちの情報が書かれている。


【ポヨン】


種族:スライム


取得スキル:【分裂】


評価:低級種から異常成長


【レオン】


種族:人間


取得スキル:【努力】


評価:無才能判定から冒険者として急成長


【カイン】


種族:人間


取得スキル:【共鳴契約】


評価:未知の召喚体系を確立


どれも普通ならあり得ない変化だった。


「偶然だ。」


魔族は言う。


「一人なら偶然で済む。」


「しかし……。」


部下が別の資料を差し出す。


そこには、さらに複数の契約者の記録があった。


魔族は黙る。


偶然ではない。


誰かが意図的に、眠っていた可能性を引き出している。


その存在こそ。


魔界スキル商店。



一方。


魔界スキル商店では、いつも通りの時間が流れていた。


アルトは帳簿を整理している。


外の騒ぎなど知らないように、淡々と作業を続けていた。


「店長。」


リリアが声をかける。


「最近、店の周囲を探っている魔族が増えています。」


アルトは手を止めた。


「そうですか。」


「気付いていたんですか?」


「はい。」


アルトは窓の外を見る。


「ここ最近、森へ入る者の魔力反応が増えています。」


リリアは呆れたように息を吐く。


「だったら、もっと警戒してくださいよ。」


「必要でしょうか?」


「必要です。」


即答だった。


「店長、自分が狙われている自覚あります?」


アルトは少し考える。


「研究資料を狙われる可能性はありますね。」


「そこじゃないです。」


リリアは頭を抱えた。


アルトは本当に、自分自身への危機感が薄い。


しかし。


それは油断ではない。


アルトには分かっている。


魔界スキル商店を狙う者が現れる可能性は、いつか必ず来る。


なぜなら。


この店の商品は、ただの魔道具ではない。


人の人生を変えるものだから。



その頃。


魔王城。


広間では、幹部たちが集まっていた。


議題は一つ。


魔界スキル商店について。


「放置するべきではない。」


一人の幹部が言う。


「たかが小さな店でしょう。」


別の幹部が反論する。


「しかし、その店によって力を得た者たちを見ろ。」


資料が机に置かれる。


「スライムが異常進化した。」


「人間が才能の壁を越えた。」


「召喚術の常識が変わり始めている。」


沈黙。


魔王軍の幹部たちも理解していた。


問題は、アルト自身ではない。


アルトが作り出している流れだ。


もし。


誰もが自分の可能性を引き出せるようになれば。


今までの支配構造は崩れる。


生まれによる差。


種族による差。


才能による差。


それらが絶対ではなくなる。


「危険なのは力ではない。」


老いた幹部が呟く。


「希望だ。」


その言葉に、全員が静まる。


「希望を持った弱者ほど、恐ろしいものはない。」



夜。


魔界スキル商店。


アルトは一人、観測水晶を見ていた。


そこには、成長を続ける契約者たちの姿がある。


「……。」


アルトは静かに記録する。


【成功例】


【成功例】


【成功例】


以前なら。


ただの研究結果だった。


しかし今は少し違う。


彼らが成長したことは、スキルの性能を証明しているだけではない。


それぞれが、自分自身の価値を証明している。


「店長。」


リリアが尋ねる。


「怖くないんですか?」


「何がですか?」


「この店が世界を変えるかもしれないことです。」


アルトは少し考えた。


そして答える。


「世界が変わるかどうかは、私には判断できません。」


「ですが。」


観測水晶を見る。


「可能性がある者へ、可能性を渡す。」


「それが、この店の役目です。」


その答えに、リリアは黙った。


しかし。


その直後。


魔界スキル商店の外。


森の奥。


誰かが立っていた。


黒いローブ。


顔は見えない。


その手には、一枚の報告書。


【魔界スキル商店】


【危険度:調査対象】


男は小さく呟く。


「才能を変える店か。」


「ならば、その価値を確かめる必要がある。」


静かに消える気配。


まだ戦いは始まっていない。


しかし。


魔界スキル商店を巡る流れは、確実に変わり始めていた。

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