第90話 共鳴召喚士と未知の進化
観測水晶に映し出された映像を、アルトとリリアは静かに見つめていた。
そこに映っているのは、森の中で訓練を続けるカインとルナ。
数日前まで、召喚に失敗し続けていた青年。
そして今、その隣には自分だけの召喚獣がいる。
「……本当に変わりましたね。」
リリアが呟く。
アルトは頷いた。
「ええ。」
「ですが、変わったのは召喚能力だけではありません。」
水晶の横に置かれた帳簿には、現在の観測結果が表示されている。
【契約者:カイン】
【職業:召喚士】
【特殊契約:共鳴契約】
【召喚獣:ルナ】
【共鳴率:92%】
【精神安定度:上昇】
【魔力循環:正常】
アルトは一つ一つ確認していく。
以前のカインは、召喚魔法を発動するたびに魔力の流れが乱れていた。
原因は魔力不足ではない。
才能不足でもない。
自分と召喚対象を別々の存在として扱っていたこと。
それが最大の問題だった。
しかし今は違う。
カインはルナを道具として扱っていない。
ルナもまた、カインをただの主人として見ていない。
互いを相棒として認識している。
「共鳴契約……。」
アルトはその名前を改めて口にする。
「これは召喚士という職業そのものを変える可能性がありますね。」
リリアは首を傾げた。
「でも、今まで誰も発見していなかったんですよね?」
「はい。」
「では、なぜカインさんだけが?」
アルトは少し考える。
「才能が特殊だったからです。」
「普通の召喚士は、召喚する力に優れています。」
「ですがカインさんは違う。」
「繋がる力に優れていた。」
その答えに、リリアは納得したように頷いた。
同じ召喚士でも、求められる才能は一つではない。
強力な魔物を呼ぶ者。
多くの魔物と契約する者。
召喚獣を進化させる者。
そして。
共に成長する者。
カインは最後のタイプだった。
◆
その頃。
森の中では、カインとルナが新たな訓練を始めていた。
「もう一度やろう。」
カインは木剣を構える。
目の前には小型の魔物。
以前のカインなら、一人で戦おうとしていた。
召喚士なのに、召喚獣を信用できなかった。
いや。
信用したくても、方法が分からなかった。
だが今は違う。
「ルナ。」
名前を呼ぶだけ。
それだけで、ルナは動く。
影の中へ消える。
次の瞬間。
魔物の背後へ現れた。
「今!」
カインが攻撃する。
完璧な連携だった。
戦闘後。
カインは息を整えながら笑う。
「すごいな。」
ルナが近寄ってくる。
「クゥ。」
「僕が何をするか、分かっているみたいだ。」
ルナは首を傾げる。
まるで当然だと言っているようだった。
カインは思う。
昔なら、この力を見て羨ましいと思ったかもしれない。
才能がある者だけが持つ力だと思ったかもしれない。
でも今は違う。
自分にも、自分だけの可能性がある。
その事実が何より嬉しかった。
◆
魔界スキル商店。
観測水晶の映像を見ながら、アルトは新しい表示を確認していた。
【共鳴率:95%】
【特殊能力発現】
【共鳴感知】
アルトの目が細くなる。
「発現しましたか。」
リリアが覗き込む。
「何ですか、それ?」
アルトは説明する。
「互いの存在をより深く理解する能力です。」
「視界を共有するわけではありません。」
「ですが、相手の感情や危険を直感的に察知できる。」
リリアは驚く。
「それって……かなり強いですよね?」
「はい。」
アルトは頷く。
「しかし、戦闘能力そのものではありません。」
「だからこそ重要です。」
リリアは不思議そうな顔をする。
アルトは続けた。
「強い能力は、誰でも欲しがります。」
「ですが、本当に価値がある能力とは、その人の才能を最大限に引き出すものです。」
「カインさんに必要なのは、巨大な魔力でも最強の召喚獣でもない。」
「共に成長できる環境です。」
その時。
帳簿に新しい項目が追加された。
【新規スキル候補】
【共鳴強化】
【必要研究データ:不足】
アルトは少し笑う。
「やはり出てきましたね。」
リリアが尋ねる。
「作れるんですか?」
「まだ分かりません。」
「ですが。」
アルトは観測水晶を見る。
「可能性はあります。」
これが魔界スキル商店の仕組みだった。
最初から完成したスキルを売るだけではない。
誰かの人生。
誰かの成長。
誰かだけが持つ特殊な経験。
そこから新しい価値を生み出す。
だからアルトは研究を続ける。
そのために金貨を使う。
そのために観測する。
そして。
その結果生まれた新しいスキルが、また誰かの人生を変える。
◆
数日後。
カインは再び魔界スキル商店を訪れた。
「アルトさん。」
「どうしました?」
「相談があります。」
カインは少し緊張した様子で言う。
「ルナのことを、もっと知りたいんです。」
アルトは頷いた。
「良いことですね。」
「召喚士にとって、召喚獣を理解することは最も重要です。」
カインは真剣な表情になる。
「でも、僕にはルナの種族も能力も分かりません。」
「だから……。」
「解析をお願いしたいです。」
アルトは帳簿を開く。
新たな依頼。
新たな研究。
そして、新たな商売。
「承知しました。」
「では、正式に解析依頼として受け付けます。」
カインは頷く。
「料金はいくらですか?」
アルトは迷わず答えた。
「金貨20枚です。」
カインは財布を取り出す。
魔界スキル商店は、今日も動き続ける。
価値あるものには、正しい対価を。
そして。
未知なる才能には、新たな可能性を。
その理念のもとで。




