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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第9話 オーガと守護③

グロンが集落へ戻ったのは、それから三日後だった。


「帰ったぞー」


集落の門をくぐりながら声を上げる。


だが返事は少ない。


相変わらずだった。


「お、弱虫が帰ってきたぞ」


「今度はどこで泣いてきたんだ?」


戦士たちが笑う。


以前なら俯いていた。


だが今は違う。


グロンは苦笑しながら受け流した。


魔界スキル商店での出来事があったからかもしれない。


不思議と気持ちは落ち着いていた。


「じいちゃんは?」


「畑だろ」


そう聞いてグロンは集落の外れへ向かった。



畑では祖父が鍬を振るっていた。


肩の怪我もかなり良くなっている。


「帰ったか」


「ただいま」


祖父はグロンの背中を見る。


そして眉を上げた。


「斧はどうした」


「売った」


「ほう」


驚くかと思った。


怒るかと思った。


だが祖父は笑っただけだった。


「お前らしいな」


グロンも笑う。


そして商店の話をした。


店主のこと。


スキルのこと。


守護のこと。


祖父は最後まで聞いていた。


「それで、その力は使えるのか?」


「分からない」


「正直だな」


「試しに発動できないらしい」


祖父は大笑いした。


「欠陥品じゃねぇか!」


二人で笑う。


久しぶりに穏やかな時間だった。



その夜。


異変は突然訪れた。


ドォォォン!


地面が揺れる。


大きな衝撃音。


寝ていたグロンは飛び起きた。


外から悲鳴が聞こえる。


「魔獣だ!」


「門が破られた!」


「総員戦闘準備!」


嫌な予感が走る。


急いで外へ飛び出した。


そして息を呑む。


そこにいたのは、先日とは比較にならない巨大な魔獣だった。


全長五メートルはある。


黒い毛皮。


鋭い牙。


赤い目。


シャドウウルフの群れを率いる上位種。


ブラッドファング。


集落の戦士たちが次々と吹き飛ばされていた。


「まずいぞ……」


誰かが呟く。


実際まずかった。


戦士長ですら押されている。



「逃げろ!」


叫び声が響く。


住民たちが避難を始める。


グロンも動いた。


戦うためではない。


避難の手伝いだ。


子供を抱える。


荷物を運ぶ。


老人を支える。


だが。


その時だった。


「じいちゃん!?」


祖父の姿が見当たらない。


胸がざわつく。


慌てて畑の方へ走った。


そして見つける。


祖父がいた。


転んでいた。


足を怪我している。


そして。


その前にはブラッドファング。


巨大な魔獣が牙を剥いていた。



間に合わない。


そう思った。


祖父も悟ったのだろう。


苦笑していた。


「逃げろ、グロン」


「嫌だ!」


グロンは叫ぶ。


体が震える。


怖い。


相手は強い。


勝てるはずがない。


昔の自分なら逃げていたかもしれない。


だが。


目の前にいるのは祖父だ。


守りたい相手だ。


失いたくない相手だ。


その瞬間だった。


胸の奥が熱くなる。


何かが弾けた。



――守護。


頭の中に言葉が響く。


全身を光が包んだ。


淡い金色。


体の奥から力が湧き上がる。


恐怖が消える。


いや。


正確には違う。


怖いままだ。


それでも前へ出られる。


それが【守護】だった。


「グロン!?」


祖父が目を見開く。


グロンは前へ出る。


祖父を背にして立つ。


魔獣と向き合う。



ブラッドファングが飛びかかった。


巨大な牙。


避けられない。


直撃する。


だが。


バキィッ!


鈍い音が響いた。


グロンは吹き飛ばされない。


倒れない。


足が地面を踏み締めていた。


「なっ……」


自分でも驚く。


確かに痛い。


だが耐えられる。


いや。


守らなければならない。


その思いが体を支えていた。



ブラッドファングが再び襲う。


爪。


牙。


体当たり。


次々と攻撃が飛んでくる。


グロンは反撃しない。


ただ受ける。


祖父へ届かないように。


後ろへ通さないように。


ひたすら耐える。


それだけだった。


だが。


時間が稼げた。



「戦士長!」


「今だ!」


集落の戦士たちが集まる。


包囲が完成する。


ブラッドファングが気付いた時には遅かった。


四方から攻撃が叩き込まれる。


最後に戦士長の大斧が振り下ろされた。


魔獣は大きく吠える。


そして崩れ落ちた。


静寂が訪れる。


戦いは終わった。



グロンはその場に座り込んだ。


全身が痛い。


腕も足も傷だらけだ。


だが。


祖父は無事だった。


「馬鹿者」


祖父が笑う。


目には涙が浮かんでいた。


「無茶しおって」


グロンも笑う。


「守りたかったから」


その言葉を聞いた瞬間。


祖父は何度も頷いた。



周囲の戦士たちも集まってくる。


皆、黙っていた。


そして。


戦士長が口を開く。


「勘違いしていた」


グロンが顔を上げる。


「俺たちは強さを履き違えていたらしい」


誰も笑わない。


誰も馬鹿にしない。


先ほどまでの軽蔑はそこになかった。


「今日、一番強かったのはお前だ」


戦士長がそう言った。


グロンは返事ができなかった。


胸が熱くなる。


だが不思議だった。


認められたことは嬉しい。


それでも。


一番嬉しかったのは。


祖父を守れたことだった。



その夜。


集落では久しぶりの宴が開かれた。


中心にいたのは戦士長でもなく英雄でもない。


一人の優しいオーガだった。


そして遠く離れた荒野の外れでは。


魔界スキル商店の店主が帳簿を閉じていた。


「なるほど」


アルトは小さく呟く。


【守護】の顧客記録に、新しい一行を書き加える。


成功。


その文字を書き終えると、静かにペンを置いた。


次の客は、もうすぐそこまで来ていた。

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