表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/34

第8話 オーガと守護②

カラン。


鈴の音が静かに店内へ響いた。


「いらっしゃいませ」


店の奥から現れた青年は、グロンを見るなり少しだけ目を細めた。


大きい。


店の天井に頭がぶつかりそうなほどの巨体だった。


歴戦の戦士にも見える。


だが、その表情はどこか困ったような顔をしていた。


「お客様ですね」


「あ、ああ」


グロンは緊張していた。


戦いよりもこういう場所の方が苦手だ。


何を話せばいいのか分からない。


アルトは椅子を勧めた。


「どうぞ」


「ありがとう」


オーガ用ではないため少し小さい。


だが何とか腰を下ろす。


しばらく沈黙が続いた。


そしてアルトが口を開く。


「本日はどのようなご用件でしょうか」


グロンは拳を握った。


言葉を探す。


そして。


「強くなりたい」


そう言った。


アルトは黙る。


何も書かない。


何も作らない。


ただ静かに見ている。


妙な沈黙だった。


やがてアルトが尋ねる。


「何のために?」


グロンは答えようとする。


だが言葉が詰まった。


強くなりたい。


そう思ってここへ来た。


なのに。


「……分からない」


ぽつりと漏れる。


アルトは急かさない。


店内には時計の音だけが響いていた。


やがてグロンは少しずつ話し始める。


集落のこと。


戦士たちのこと。


祖父のこと。


魔獣の襲撃のこと。


そして。


自分が動けなかったこと。


全部。



話し終えた頃には、外は夕方になっていた。


グロンは少し恥ずかしくなる。


初対面の相手にこんなに話したことはなかった。


「なるほど」


アルトは静かに頷く。


「お客様は強くなりたいわけではありません」


「え?」


グロンは顔を上げた。


「違うのか?」


「はい」


アルトは即答した。


そして続ける。


「お客様は守りたいのです」


その瞬間。


グロンの胸が大きく揺れた。


祖父に言われた言葉と同じだった。


守りたい。


そのための力が欲しい。


それが本当の願い。


「そうか……」


自然と声が漏れる。


アルトは紙を取り出した。


ペンが走る。


淡い光が文字を描いていく。


やがて一枚のカードが完成した。


そこに刻まれていたのは――


【守護】


だった。



「守護……」


グロンが呟く。


アルトは説明を始めた。


「このスキルは守るための力です」


「敵を倒すためではありません」


「守る?」


「はい」


アルトはカードを指差した。


「お客様が守りたいと強く思った相手に対して発動します」


グロンは聞き入る。


「発動中、お客様の耐久力は大幅に上昇します」


「傷付きにくくなるということか?」


「正確には違います」


アルトは首を横に振った。


「傷付くことを恐れなくなります」


グロンは眉をひそめた。


意味がよく分からない。


だが不思議と心に残る言葉だった。



「価格はいくらだ?」


グロンは尋ねた。


商店なのだから当然だ。


アルトはカードを見る。


少し考える。


そして答えた。


「金貨五枚」


グロンは頷いた。


払える。


問題ない。


だがアルトは続けた。


「それと」


「まだあるのか?」


「はい」


アルトは微笑んだ。


「お客様の武器をいただきます」


グロンは固まった。


背中に背負っていた巨大な戦斧を見る。


父から譲られた物だ。


オーガにとって武器は誇り。


特にこの斧は特別だった。


「なぜだ?」


「必要だからです」


アルトはいつものようにそれ以上説明しない。



店内に静寂が落ちる。


グロンは戦斧を見つめた。


何度も握った。


だが実際に使った回数は少ない。


戦いが嫌いだったから。


それでも手放すとなると迷う。


父の形見でもある。


思い出もある。


簡単には決められない。


アルトは待っていた。


急かさない。


説得もしない。


選ぶのは客自身。


そういう店なのだろう。


しばらくして。


グロンはゆっくりと戦斧を下ろした。


「分かった」


カウンターへ置く。


重い音が響く。


「これで頼む」


アルトは静かに頷いた。



金貨を支払う。


戦斧を渡す。


契約は成立した。


アルトがカードを差し出す。


「使用しますか?」


「もちろんだ」


グロンは迷わなかった。


カードに触れる。


光が溢れる。


暖かい。


まるで誰かに背中を押されるような感覚だった。


そしてカードは消える。


体の奥へ溶け込むように。


「終わりです」


アルトが言う。


グロンは自分の両手を見る。


特に変化はない。


筋肉も変わらない。


力も変わらない。


「本当に成功したのか?」


「はい」


アルトは頷いた。


「ただし」


そこで言葉を切る。


「このスキルは、お客様が本当に守りたいと思った時にしか力を発揮しません」


「つまり?」


「試し打ちはできません」


グロンは苦笑した。


なんとも変わったスキルだ。



帰り際。


扉の前でグロンは振り返る。


「店主」


「何でしょう」


「俺は強くなれると思うか?」


アルトは少し考えた。


そして答える。


「それは分かりません」


予想外の返答だった。


だがアルトは続ける。


「ただ」


「ただ?」


「守るために戦う者は、案外強いものですよ」


静かな声だった。


グロンは思わず笑う。


不思議な店主だ。


励ましているようで、励ましていない。


優しいようで、どこか突き放している。


だが嫌な気はしなかった。


「また来る」


「お待ちしております」



店を出る。


夕暮れの荒野を歩く。


背中の戦斧はもうない。


代わりに胸の奥には新しい力がある。


本当に役に立つのかは分からない。


だが不思議と不安はなかった。


遠くに故郷の山々が見える。


守りたい場所。


守りたい人たち。


祖父の顔が浮かぶ。


グロンは歩みを速めた。


まだ知らない。


近いうちに再び魔獣の群れが現れることを。


そしてその時。


【守護】の真価を知ることになるのを。


まだ誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ