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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第10話 リッチと不死①

魔界東部。


死霊の谷。


生者が近寄ることを嫌うその土地に、一体のリッチが住んでいた。


名はノワール。


優秀な魔術師だった。


数百年を生きるリッチの中でも、特に知識量に優れている。


死霊魔術。


結界術。


呪術。


錬金術。


ありとあらゆる分野を研究し、その名は周辺地域でも知られていた。


だが。


「また失敗か……」


研究室の机に突っ伏し、深いため息を吐く。


床には魔法陣。


周囲には無数の魔導書。


そして中央には砕け散った水晶球。


研究は失敗だった。


これで今年に入って八回目。


ノワールは頭を抱えた。


「なぜだ……」


原因は分かっている。


時間だ。


圧倒的に時間が足りない。



リッチが時間不足。


普通なら笑い話だった。


なにしろリッチは不死者である。


寿命がない。


老いない。


病にもならない。


だからこそ多くの魔術師が憧れる存在だ。


だがノワールには問題があった。


研究テーマが大きすぎたのだ。


彼が目指しているのは、魔界全土の魔力循環を解明すること。


数百年単位の研究。


いや。


下手をすれば千年でも足りない。


それでも進めたい。


知りたい。


解明したい。


だが現実は厳しい。


周囲の研究者は次々と成果を出している。


新たな魔法。


新たな理論。


新たな発見。


それに比べて自分はどうだ。


何百年も研究しているのに完成が見えない。



その日。


ノワールは学術会議へ出席していた。


会場には多くの研究者が集まっている。


そこで発表されたのは若い悪魔族の研究だった。


画期的な成果。


大きな拍手。


歓声。


称賛。


ノワールも拍手を送る。


だが胸の奥は重かった。


「素晴らしい研究です」


誰かが言う。


「十年で完成させたらしい」


「天才だな」


十年。


ノワールはその数字に苦笑する。


自分は百年以上研究しているのに。



帰り道。


ノワールは一人で歩いていた。


谷へ戻る途中。


ふと耳に入ったのは酒場から聞こえてくる会話だった。


「知ってるか?」


「魔界スキル商店だろ?」


「願いに合ったスキルを売ってくれるらしい」


またその話か。


最近よく聞く。


ゴブリン。


サキュバス。


オーガ。


様々な魔族の間で噂になっている店。


正直、興味はなかった。


ノワールは研究者だ。


努力や知識こそが力だと思っている。


だが。


「時間が欲しいなら行ってみればいいじゃねぇか」


酒場の客が笑いながら言った。


その言葉に足が止まる。


時間が欲しい。


その願い。


まさに今の自分ではないか。



数日後。


ノワールは荒野を歩いていた。


結局来てしまった。


我ながら単純だと思う。


だが興味はあった。


本当に願いに合ったスキルを売るのか。


本当に人生が変わるのか。


やがて一軒の店が見えてくる。


木造の小さな建物。


看板にはこう書かれていた。


『魔界スキル商店』


ノワールは扉の前で立ち止まる。


少しだけ迷う。


そして。


カラン。


扉を開いた。



「いらっしゃいませ」


店内には黒髪の青年がいた。


人間だった。


ノワールは少し驚く。


「君が店主か」


「はい」


青年は微笑む。


「アルトと申します」


ノワールは椅子に座った。


そして単刀直入に言う。


「時間が欲しい」


アルトは何も言わない。


ノワールは続ける。


「研究が終わらない」


「もっと時間が必要だ」


「何百年あっても足りない」


言葉が止まらない。


積み上げた焦り。


苛立ち。


不安。


全部吐き出していた。



十分後。


話を聞き終えたアルトが紙を取り出す。


ペンを走らせる。


光が文字を刻む。


やがて一枚のカードが完成した。


そこにはこう書かれていた。


【不死】


ノワールは眉をひそめる。


「私は既に不死だが?」


リッチだからだ。


寿命など最初からない。


だがアルトは首を横に振った。


「いいえ」


「これは少し違います」


静かな声だった。


「このスキルは、お客様から“終わり”を奪います」


店内の空気が少しだけ重くなる。


ノワールは気付かなかった。


その言葉に含まれていた意味を。


まだ。

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