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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第85話 召喚士と契約回路②

店内には静かな空気が流れていた。


アルトは帳簿を見つめたまま、しばらく言葉を発しなかった。


その表情を見たカインは、不安そうに唇を噛む。


「やっぱり……。」


「何か致命的な欠陥なんでしょうか。」


これまで何人もの教師や研究者に診てもらった。


誰も原因を突き止められず、最後には決まって同じ言葉を告げられた。


「才能がない。」


その言葉を何度聞いたか分からない。


だから今回も、同じ結論になるのではないかと覚悟していた。


しかしアルトはゆっくりと首を横に振る。


「違います。」


「むしろ逆です。」


その一言に、カインもリリアも目を丸くした。


「逆……ですか?」


アルトは帳簿をカインへ向ける。


もちろん契約内容は見えないよう調整されている。


見えるのは簡単な魔力の流れだけだ。


「普通の召喚士は、一方通行なんです。」


アルトは紙へ図を書き始める。


一つ目の円を書き、『召喚士』と記す。


もう一つの円を書き、『召喚獣』と書いた。


その二つを一本の矢印で繋ぐ。


「召喚士が魔力を送り、その対価として召喚獣を一時的に現界させます。」


カインも頷く。


学校で何度も学んだ基本理論だった。


「ですが。」


アルトはもう一本、逆向きの矢印を書き加えた。


「あなたは違います。」


「召喚獣からも魔力が流れています。」


「本来存在しないはずの双方向回路が形成されているんです。」


リリアは思わず身を乗り出した。


「それって、どういうことなんですか?」


アルトは少し考えてから説明する。


「例えば井戸があります。」


「普通の召喚士は、自分で水を汲み上げます。」


「ですがカインさんの場合は、井戸の向こう側からも水が流れ込んでくる。」


「それで水路が壊れてしまうんです。」


「なるほど……。」


リリアも理解できたようだった。


つまり力が足りないのではない。


逆に流れ込み過ぎて制御できなくなっていたのである。


カインは呆然と呟く。


「じゃあ……。」


「今まで失敗していた原因は。」


「才能不足ではなく。」


「才能が特殊過ぎた。」


アルトは静かに頷いた。


「その可能性が高いです。」


その瞬間、カインの目に涙が浮かんだ。


初めてだった。


誰かに「才能がある」と言われたのは。


努力を否定されなかったのは。


「ありがとうございます……。」


思わず頭を下げる。


アルトは慌てて首を振った。


「まだ早いですよ。」


「問題は原因ではありません。」


「原因が分かったなら、次は使い方です。」


その言葉にカインも表情を引き締める。


「使い方……。」


アルトは帳簿の解析結果をさらに読み進める。


そこには今まで表示されていなかった新しい項目が追加されていた。


【契約回路変異】


【解析完了】


【名称】


【共鳴契約】


「共鳴契約……。」


アルトはその文字を何度も見返した。


初めて見る言葉だった。


帳簿が自ら名付けた新しい才能。


その説明には、さらに驚く内容が記されている。


【通常召喚】


【一時契約】


【共鳴契約】


【成長共有型】


アルトは静かに息を吐いた。


「そういうことですか。」


リリアが尋ねる。


「店長、分かったんですか?」


「ええ。」


「カインさんは召喚獣を呼び出す才能ではありません。」


「召喚獣と共に成長する才能です。」


「……え?」


カインは思わず聞き返した。


「普通の召喚士は、必要な時だけ召喚します。」


「ですが、あなたの契約回路は違います。」


アルトは紙へ新しい図を書く。


召喚士と召喚獣を二重の線で繋いだ。


「常に繋がった状態を前提としているんです。」


「だから一時召喚が成立しない。」


「途中で契約が切れることを、あなた自身の魔力回路が拒絶しているからです。」


カインは息を呑んだ。


そんな理論は聞いたことがない。


「つまり……。」


「僕は召喚士じゃない?」


アルトは少しだけ笑う。


「いいえ。」


「召喚士です。」


「ただし、世界で初めての召喚士です。」


店内が静まり返る。


リリアも鳥肌が立っていた。


ロイドは配合士の新しい可能性を開いた。


エミナは魔物使いの常識を覆した。


そして今、カインは召喚士という職業そのものを変えようとしている。


その時、帳簿が再び強く輝いた。


新たな文字が浮かび上がる。


【新規スキル候補】


【契約安定】


【契約共有】


【魔力共鳴】


アルトは目を細める。


「なるほど。」


「必要なのは召喚能力ではありません。」


「この才能を完成させる補助スキルです。」


帳簿の開発進捗がゆっくりと動き始める。


【新規スキル開発】


【共鳴系】


【進捗 12%】


アルトは静かに帳簿を閉じた。


「カインさん。」


「はい。」


「少し時間をいただけますか。」


「あなた専用のスキルを作ります。」


その言葉にカインは目を見開く。


「専用……?」


「ええ。」


アルトは穏やかに笑った。


「既製品では、あなたの才能は活かせません。」


「なら、才能に合わせて新しく作ればいい。」


魔界スキル商店の強みは、完成品を売ることではない。


契約者の人生を観察し、その経験を積み重ね、一人ひとりに最適なスキルを生み出すこと。


ロイドも。


エミナも。


そうして人生を変えてきた。


そして今度は、カインの番だった。


その頃、帳簿の最終ページでは誰にも見えない文字が静かに刻まれていた。


【観測対象】


【異界反応を確認】


【共鳴対象、接近中――】


その一文は、新たな運命の始まりを静かに告げていた。

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