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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第84話 召喚士と契約回路①

店内へ入ってきた青年は、静かに一礼した。


年齢は二十歳前後。


落ち着いた雰囲気を纏っているが、その表情には疲労の色が滲んでいた。


長旅をしてきたのだろう。


ローブの裾には土埃が付き、革靴もかなり擦り減っている。


それでも背筋だけは真っ直ぐ伸びていた。


「ようこそ、魔界スキル商店へ。」


アルトはいつものように穏やかに迎える。


青年は店内を見回し、不思議そうな表情を浮かべた。


「本当に……普通のお店なんですね。」


その一言にリリアが小さく笑う。


「もっと怪しい場所だと思いました?」


「少しだけ。」


青年は照れ笑いを浮かべた。


「噂では『人生が変わる店』とか、『一度入れば世界が変わる』とか、色々聞いていましたから。」


アルトも苦笑する。


噂というものは、契約者が増えるほど大げさになっていくらしい。


ロイドは魔王軍で新種魔獣を完成させた。


エミナは特殊進化種を育て始めた。


その実績だけでも、噂が独り歩きするには十分だった。


「お名前を伺っても?」


「カインです。」


青年は静かに答える。


「召喚士をしています。」


その言葉にリリアの表情が少し変わる。


「召喚士……。」


以前アルトが話していた職業だった。


配合士や魔物使いとは異なり、異界と契約し、一時的に魔物を呼び出して戦う特殊な職業。


高い魔力と精密な制御能力が求められるため、非常に難易度が高い。


「今日はどのようなご相談でしょうか。」


アルトが尋ねると、カインは少しだけ目を伏せた。


「召喚できないんです。」


短い言葉だった。


だが、その重みは十分に伝わる。


「正確には……。」


「契約までは成功します。」


「召喚陣も完成します。」


「魔力も足りています。」


「それなのに、最後だけ失敗するんです。」


リリアは驚いた。


そんな失敗の仕方は珍しい。


普通なら契約ができないか、魔力不足で召喚できないかのどちらかである。


「学校でも原因が分からなくて。」


カインは苦笑する。


「才能がないと言われました。」


「先生にも、召喚士を諦めて別の職業へ転向した方がいいと言われています。」


店内が静かになる。


アルトはすぐには答えなかった。


ロイドもそうだった。


エミナもそうだった。


努力している者ほど、自分を責めてしまう。


だからこそ、まず事実を知る必要がある。


「カインさん。」


「はい。」


「努力は続けていますか?」


「もちろんです。」


返事は迷いなく返ってきた。


「召喚陣の研究。」


「契約術式の勉強。」


「魔力制御。」


「全部毎日続けています。」


アルトは静かに微笑む。


「なら、大丈夫です。」


その言葉にカインは顔を上げた。


「一度、調べてみましょう。」


アルトは帳簿を開く。


淡い光が店内へ広がっていく。


【適性診断】


新しく完成したスキルが静かに発動した。


光がカインを包み込み、膨大な情報が帳簿へ流れ込んでいく。


魔力量。


精神力。


契約履歴。


術式構築能力。


魔力循環。


召喚適性。


次々と情報が整理されていく。


アルトは無言でページをめくる。


リリアも固唾を呑んで見守っていた。


数十秒後。


アルトの手が止まる。


「……そういうことですか。」


その一言で、カインの心臓が大きく跳ねた。


「原因が分かったんですか?」


「はい。」


アルトは静かに頷く。


「ですが、これは珍しい症例ですね。」


帳簿へ表示された診断結果は、これまで見たことがない内容だった。


【召喚適性 SS】


【契約適性 SS】


【魔力量 A】


【魔力制御 S】


どれも一流の数値。


失敗する理由など見当たらない。


しかし最後の項目だけが赤く表示されていた。


【契約回路】


【異常】


【魔力出力方向 逆流】


アルトは目を細める。


「なるほど。」


「召喚できないのではありません。」


「召喚した魔力が、最後に自分へ戻ってしまっているんです。」


「……え?」


カインは理解できなかった。


「逆流……ですか?」


「ええ。」


アルトは机へ紙を置き、簡単な図を描き始める。


「普通の召喚士は、自分から召喚陣へ魔力を流します。」


一本の矢印を書く。


「ですが、あなたはここで流れが反転しています。」


矢印を逆向きに描く。


「召喚する直前、契約先から流れてきた魔力を無意識に受け入れてしまう。」


「その結果、召喚陣が完成せず崩壊していたんです。」


カインは息を呑む。


今まで誰にも言われたことがない原因だった。


「でも……。」


「そんなことが本当にあるんですか?」


アルトは少し考えてから答えた。


「普通ならありません。」


「ですが、あなたは普通の召喚士ではありません。」


帳簿の最後のページを見つめる。


そこには、さらに気になる文字が浮かび上がっていた。


【特殊体質】


【未解析】


【契約回路変異】


【追加解析開始】


アルトは内心で驚いていた。


これは単なる欠陥ではない。


何か別の才能が隠されている。


そんな予感がしてならなかった。


帳簿は静かに金色の光を放ち始める。


今までにない速度で解析が進んでいく。


リリアもその異変に気付いた。


「店長……。」


「はい。」


「この反応、ロイドさんやエミナさんの時より強くありませんか?」


アルトは静かに頷く。


「ええ。」


「おそらく今回も、『向いていない』のではありません。」


「向き先そのものが違うのでしょう。」


そして数秒後。


帳簿へ新たな文字が浮かび上がる。


それを見たアルトは、思わず目を見開いた。


「……これは。」


「召喚士の常識が変わります。」

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