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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第80話 魔物使いと適性診断⑤

エミナがシャドウフォックスと正式契約を結んでから、一か月が過ぎた。


魔界スキル商店の観測水晶には、今日も契約者たちの様子が映し出されている。


「元気そうですね。」


リリアが嬉しそうに微笑む。


水晶の中ではエミナとシャドウフォックスが森の中を駆け回っていた。


戦っているわけではない。


一緒に遊び、一緒に食事をし、一緒に眠る。


そんな何気ない毎日の積み重ねだった。


「普通の魔物使いなら、もっと戦闘訓練を優先しますよね。」


リリアが首を傾げる。


アルトは静かに頷いた。


「ええ。」


「ですが、エミナにはその必要はありません。」


帳簿には毎日の変化が記録されている。


【契約者 エミナ】


【信頼度 62%→68%→74%】


【魔力同調率 55%→71%→83%】


【精神同期率 上昇中】


数字は日に日に伸び続けていた。


戦闘経験ではない。


共に暮らした時間そのものが、二人を強くしているのである。


その頃、エミナは新人冒険者向けの依頼を受けていた。


依頼内容は薬草採取。


危険度の低い森で薬草を集めるだけの簡単な仕事だった。


「今日はこの辺りまでかな。」


籠の中には薬草がぎっしり入っている。


依頼としては十分な成果だ。


「キュッ!」


シャドウフォックスが小さく鳴きながら、森の奥を見つめた。


「どうしたの?」


エミナが近付く。


すると茂みの向こうから弱々しい鳴き声が聞こえてきた。


「ピィ……。」


二人が近寄ると、小さな鳥型魔物が倒れていた。


翼を怪我して飛べなくなっている。


「大丈夫!?」


エミナはすぐに駆け寄った。


傷を確認する。


幸い骨は折れていない。


だが、このまま放置すれば魔物に襲われる可能性が高かった。


エミナは迷わず鞄から包帯と薬草を取り出す。


丁寧に傷口を洗い、薬を塗り、包帯を巻いていく。


シャドウフォックスも心配そうに隣で見守っていた。


「これで少しは楽になるよ。」


小鳥は安心したように目を閉じる。


その様子を見てエミナは微笑んだ。


「元気になったら、お家へ帰るんだよ。」


契約するつもりはない。


助けたかっただけだった。


その一部始終を、少し離れた場所から見ている人物がいた。


レオンである。


彼は別の依頼で森へ来ていた。


「また余計なことを……。」


思わず苦笑する。


普通の魔物使いなら怪我をした野生の魔物には近付かない。


恩を売っても得はない。


契約できる保証もない。


時間の無駄だと考える者がほとんどだった。


しかしエミナは違う。


損得を考えず助けている。


「相変わらずお人好しだな。」


そう呟いた時だった。


ガサガサッ!


突然、茂みの奥から大きな物音が響く。


エミナもレオンも同時に振り向いた。


姿を現したのは巨大な魔獣だった。


全身を灰色の毛で覆われた熊型魔物。


Bランク魔獣――ロックベア。


新人冒険者では到底勝てない相手だった。


「まずい!」


レオンが叫ぶ。


ロックベアは怪我をした小鳥へ向かって一直線に突進してくる。


獲物を狙っているのだ。


エミナは反射的に小鳥を抱きかかえた。


「逃げて!」


だが間に合わない。


ロックベアの巨大な腕が振り上げられる。


その瞬間だった。


「キュオオオッ!」


シャドウフォックスが飛び出した。


今まで見たこともない速度だった。


エミナの前へ立ち塞がり、小さな身体でロックベアを睨みつける。


「シャドウ!」


エミナが叫ぶ。


普通なら逃げる。


勝てる相手ではない。


それでもシャドウフォックスは一歩も退かなかった。


主人を守るために。


その瞬間、観測水晶を見ていたアルトの帳簿が強く輝く。


【隠し進化条件】


【危機から主人を守る】


【条件達成】


アルトとリリアが同時に立ち上がる。


「まさか……。」


帳簿には、黄金色の文字が次々と刻まれていく。


【進化開始】


【対象 シャドウフォックス】


【特殊進化発動】


観測水晶の中で、シャドウフォックスの身体が眩い闇色の光に包まれ始めた。


リリアは思わず息を呑む。


「こんなに早く……。」


アルトも驚きを隠せなかった。


本来なら数年かけて辿り着くはずだった条件。


しかしエミナとの深い信頼関係が、その時間を大きく縮めたのである。


森の中ではロックベアも異変に気付き、思わず足を止める。


闇色の光はさらに強く輝き、周囲の木々を揺らした。


そして光の中から、新たなシルエットがゆっくりと姿を現そうとしていた。

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