↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/100

第65話 配合士と観察眼②

魔界スキル商店を出た後も、ロイドはしばらく歩くことができなかった。


世界が変わっていたからだ。


正確には世界そのものが変化したわけではない。


変わったのは自分の認識だった。


今まで見えていた景色の中に、膨大な情報が隠されていたことを初めて理解したのである。


道端に生えている魔草。


今まではただの雑草にしか見えなかった。


しかし今は違う。


葉の色。


魔力の流れ。


成長状態。


土壌との相性。


微細な情報が自然と頭へ入ってくる。


「なんだこれ……」


ロイドは思わず立ち止まった。


混乱していた。


便利というより恐ろしい。


まるで今まで片目を閉じたまま生きていたような感覚だった。


視界に映る情報量が桁違いなのである。


その日は配合研究所へ戻るまで何度も立ち止まることになった。


そして翌日。


ロイドはいつものように研究所へ出勤していた。


魔王軍公認の配合研究施設。


数十人の配合士が所属している中規模の研究所である。


だが彼の立場は良くなかった。


実績がない。


成功例も少ない。


若手の中でも評価は低い。


そのため研究所内での扱いも決して良いとは言えなかった。


「おい、失敗作。」


朝から聞き慣れた声が飛んでくる。


振り返ると同僚の配合士たちが立っていた。


嘲笑を浮かべている。


ロイドは反論しない。


今まではそうだった。


しかし今日は少しだけ違った。


相手の腰に下げられた研究記録が見える。


そして何気なく視線を向けた瞬間、情報が流れ込んできた。


使用魔物。


配合履歴。


成功率。


研究内容。


「……あれ?」


ロイドは思わず声を漏らした。


おかしい。


記録と実際の素材が一致していない。


正確には一致しているように見えるが、一部の個体情報が欠落している。


今までなら気付かなかっただろう。


しかし観察眼を得た今は違う。


違和感がはっきり見える。


「どうした?」


同僚が眉をひそめる。


ロイドは少し迷った。


だが結局口を開いた。


「その配合。」


「次失敗するかもしれない。」


周囲が静まり返る。


次の瞬間。


大爆笑が起こった。


「は?」


「お前が言うのか?」


「失敗専門家が?」


「笑わせるなよ。」


いつも通りの反応だった。


ロイド自身も少し後悔した。


確かに自分が言っても説得力はない。


だが違和感は消えない。


素材となる魔狼の魔力循環が不安定なのだ。


この状態で配合すれば暴走する可能性が高い。


「忠告したからな。」


それだけ言って席へ戻る。


背後では笑い声が続いていた。


昼過ぎ。


研究所の奥から爆発音が響いた。


建物全体が揺れる。


悲鳴が上がる。


職員たちが慌てて駆け出した。


ロイドも反射的に立ち上がる。


そして現場へ向かった。


そこには黒煙が上がっていた。


配合室の一つが半壊している。


幸い死者はいない。


だが実験は完全に失敗だった。


「なんでだ!」


研究員が叫ぶ。


「理論上は成功するはずだった!」


ロイドは壊れた配合槽を見る。


やはりだった。


素材の一体が不安定だったのである。


その影響で魔力バランスが崩壊した。


「……嘘だろ。」


同僚の一人が呟く。


朝の会話を思い出したらしい。


ロイドも驚いていた。


予想はしていた。


だが本当に当たるとは思わなかった。


観察眼の精度は予想以上だったのである。


その日の夕方。


研究所長室へ呼び出しを受けた。


正直、怒られると思った。


余計なことを言ったのだから当然だろう。


しかし部屋へ入った瞬間、予想は外れる。


そこには研究所長だけでなく、数名の上級配合士まで集まっていた。


全員がロイドを見ている。


重苦しい空気だった。


「ロイド。」


研究所長が口を開く。


「なぜ失敗を予測できた?」


直球だった。


ロイドは少し考える。


魔界スキル商店のことは話せない。


契約内容でもある。


だから嘘はつかず、しかし真実も隠すことにした。


「観察です。」


「観察?」


「素材を見ました。」


上級配合士たちが顔を見合わせる。


「それだけで分かったのか?」


「はい。」


信じられないという表情だった。


だがロイド自身も昨日までは信じなかっただろう。


だから責める気にはなれない。


しばらく沈黙が流れる。


やがて研究所長が立ち上がった。


そして机の奥から資料を取り出す。


分厚い。


かなりの量だった。


「なら試してみろ。」


ロイドは資料を受け取る。


中には数十件の配合計画がまとめられていた。


まだ実行前の案件ばかりである。


「全部ですか?」


「全部だ。」


研究所長は真剣だった。


「成功するもの。」


「失敗するもの。」


「危険なもの。」


「改善できるもの。」


「お前の意見を書け。」


ロイドは資料を見下ろした。


膨大な量だった。


今までの自分なら逃げ出していたかもしれない。


だが今は違う。


不思議と胸が高鳴っていた。


観察眼を得て初めての本格的な挑戦。


そして。


自分が本当に変われるのか試される最初の機会だった。


その頃、魔界スキル商店では観測水晶が淡く光っていた。


映像の中には大量の資料と格闘するロイドの姿が映っている。


リリアは感心したように頷いた。


「早速大変そうですね。」


「そうですね。」


アルトも映像を見ながら小さく笑う。


帳簿には新しい文字が浮かんでいた。


【観察眼】


【適応率上昇】


【解析速度向上】


【成長を確認】


まだ始まったばかりだった。


だがロイドは確実に前へ進み始めている。


そして配合士としての人生も、ようやく本当の意味で動き始めようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。