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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第6話 サキュバスと魅了④

魔界スキル商店。


荒野の外れに建つ小さな店の前で、リリアは足を止めた。


前回ここを訪れたのは一か月以上前。


あの時の自分は必死だった。


魅力が欲しかった。


誰かに認められたかった。


今もその気持ちが消えたわけではない。


だが、少しだけ違う。


カラン。


扉を開く。


聞き慣れた鈴の音が響いた。


「いらっしゃいませ」


カウンターの向こうで、アルトが本を読んでいた。


顔を上げる。


そして少しだけ微笑む。


「お久しぶりです」


「はい」


リリアも自然と笑った。


前回来た時のような緊張はない。



「それで、本日は?」


アルトが尋ねる。


リリアは椅子に腰掛けた。


少し考える。


何から話そうか。


気付けば話したいことがたくさんあった。


「最初は、本当に夢みたいでした」


アルトは黙って聞いている。


「皆が優しくて」


「友達も増えて」


「お店も繁盛して」


リリアは苦笑した。


「でも途中から苦しくなったんです」


「ほう」


「私じゃなくて、スキルを見ている気がして」


店内が静かになる。


窓の外では風が吹いていた。


アルトは急かさない。


答えも与えない。


ただ聞いている。


「だから考えました」


「私が本当に欲しかったものは何だったんだろうって」


しばらく沈黙する。


そしてリリアは答えを口にした。


「魅力じゃありませんでした」


アルトが少しだけ目を細める。


「では?」


「自信です」


即答だった。


迷いはない。


「私は自分が嫌いだったんです」


「だから皆に認めてもらいたかった」


「でも、本当に必要だったのは、自分で自分を認めることでした」


その言葉を口にした瞬間。


胸の中がすっきりした。


ようやく答えに辿り着いた気がした。



アルトは静かに頷く。


「それは何よりです」


「怒らないんですね」


「何をです?」


「せっかく買ったスキルなのに」


リリアが言うと、アルトは小さく笑った。


「私は商人です」


「お客様の人生を決めるつもりはありません」


「商品を売るだけです」


以前も聞いた気がする言葉だった。


だが今なら意味が分かる。


アルトは願いを叶える。


けれど答えまでは与えない。


歩くのは客自身だ。



「そういえば」


アルトが言う。


「お店はどうですか?」


リリアの表情が明るくなる。


「順調です」


「最近は常連さんも増えて」


「服の修理依頼も増えました」


楽しそうに語る。


新しい服。


修理した服。


常連客。


職人街の話。


気付けば十分以上話していた。


そして途中で気付く。


アルトは全部聞いてくれている。


話を遮らない。


否定しない。


最後まで聞く。


「店主さんって不思議ですね」


「よく言われます」


「昔からですか?」


「いいえ」


アルトは少しだけ遠くを見る。


だが、それ以上は語らなかった。



帰ろうとした時だった。


アルトが引き出しから小さな箱を取り出した。


「これは?」


リリアが首を傾げる。


「忘れ物です」


箱の中には小さな鏡が入っていた。


見覚えがある。


いや。


見覚えしかない。


「えっ?」


「お客様からお預かりした物です」


それは間違いなく、代金として渡した鏡だった。


リリアは混乱する。


「で、でも」


「代金じゃ……」


アルトは頷く。


「確かに代金でした」


「ではなぜ?」


「必要なくなったので」


さらりと言った。


リリアは意味が分からない。


アルトは続ける。


「この鏡は、自信のないお客様が毎日見ていた鏡です」


「ですが今のお客様には、もう必要ないように見えました」


静かな声だった。


リリアは鏡を見る。


昔の自分なら。


毎日欠点を探していた。


もっと可愛くなりたい。


もっと魅力的になりたい。


そう思いながら見ていた。


だが今は違う。


鏡に映るのは裁縫師の自分だ。


まだ未熟だ。


失敗も多い。


それでも嫌いではなかった。



「ありがとうございます」


リリアは鏡を胸に抱いた。


アルトは微笑む。


「また何かありましたらご利用ください」


「次はスキルじゃなくてもいいですか?」


「もちろんです」


「雑談だけでも?」


「営業時間内でしたら」


リリアは思わず吹き出した。


商人らしい返事だった。



数か月後。


魔界の一角にある小さな裁縫店は評判になっていた。


派手な宣伝はない。


大きな看板もない。


それでも客は絶えない。


理由は単純だった。


服の出来が良い。


そして店主が丁寧だから。


「いらっしゃいませ!」


笑顔で客を迎えるリリア。


そこに以前のような卑屈さはない。


魅了の力は今も残っている。


だが、それだけではない。


彼女自身の努力。


技術。


人柄。


積み重ねた時間。


それが店を支えていた。


閉店後。


リリアは棚の上に置かれた小さな鏡を見た。


そして微笑む。


あの日、魔界スキル商店を訪れていなければ。


今の自分はいないだろう。


願いは確かに叶った。


だが本当に価値があったのは、その先だった。


そして荒野の外れでは今日もまた。


一人の商人が静かに店を開いている。


次に訪れる客の願いを待ちながら。

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