第57話 召喚士と契約共有⑤
昇格試験当日。
召喚士協会の訓練場には多くの受験者が集まっていた。
下級から中級への昇格試験。
受験資格は過去一年間の実績と推薦。
決して難関ではない。
しかし簡単でもない。
毎年三割近くが不合格になる。
カイルは受付を終え、静かに待機していた。
角兎、小鬼、影獣。
三体の契約魔獣も落ち着いている。
一か月前なら緊張していただろう。
だが今は違う。
不思議な自信があった。
慢心ではない。
積み重ねてきた訓練への信頼だった。
「久しぶりだな」
声がした。
振り返る。
そこには見覚えのある召喚士たちがいた。
昔、何度も模擬戦で負けた相手たちだ。
「カイルか」
「最近調子が良いらしいな」
「運が良かっただけじゃないのか?」
少し棘のある言葉。
以前なら黙っていただろう。
しかし今のカイルは笑うだけだった。
「そうかもしれないな」
余裕のある返答だった。
相手たちは少し面食らう。
以前のカイルはもっと自信がなかった。
だが今は違う。
その変化が気に入らなかった。
そんな空気が流れる。
その時だった。
「なるほど」
別の声が聞こえた。
全員の視線が向く。
黒いローブ。
細い目。
上級召喚士ゼクト。
若手の有力者として知られる人物だった。
周囲の空気が少し変わる。
上級召喚士は数が少ない。
この会場でも格上の存在だった。
「最近話題のカイル君か」
ゼクトは穏やかに笑う。
だがその目は笑っていない。
観察している。
値踏みしている。
そんな視線だった。
「何か用ですか?」
カイルが尋ねる。
「いや」
ゼクトは肩をすくめた。
「少し興味があってね」
それだけ言って離れていく。
だが。
カイルは何となく嫌な予感を覚えた。
訓練場の隅で。
ゼクトは一人考えていた。
最近の戦績は全て確認している。
一か月前まで平凡。
今は急成長。
契約魔獣は変わっていない。
新しい召喚獣もいない。
それなのに強くなった。
普通ではない。
「何かある」
ゼクトは確信していた。
だが証拠はない。
だから見る。
試験で。
直接。
そして試験が始まった。
内容は実戦形式。
訓練用魔獣との戦闘だった。
受験者が次々と呼ばれる。
勝つ者。
負ける者。
苦戦する者。
様々だった。
やがて。
「次、カイル」
名前が呼ばれる。
カイルは前へ出た。
対戦相手は中級魔獣。
鋼牙狼。
素早さと攻撃力を兼ね備えた強敵だった。
以前なら苦戦していた。
だが今は違う。
「行くぞ」
契約魔獣たちが動く。
角兎が先行する。
鋼牙狼が飛びかかる。
その瞬間。
角兎は紙一重で回避した。
会場がざわつく。
速い。
異常なほど速い。
さらに小鬼が突撃する。
鋼牙狼の攻撃を読み切り、剣で弾く。
下級魔獣とは思えない技術だった。
そして。
影獣が消える。
鋼牙狼が警戒する。
だが遅い。
背後から現れた影獣が足元を崩した。
体勢が乱れる。
そこへ。
角兎。
小鬼。
影獣。
三方向から同時攻撃。
連携としては完璧だった。
数分後。
鋼牙狼は戦闘不能となった。
静寂。
そして歓声。
誰もが驚いていた。
下級魔獣三体で中級魔獣を圧倒したのだ。
あり得ない光景だった。
「合格!」
試験官の声が響く。
カイルは小さく息を吐いた。
成功だった。
だが。
会場の誰よりも驚いていたのはゼクトだった。
「おかしい」
小さく呟く。
強くなった理由が分からない。
しかし戦闘は見た。
連携。
共有されたような動き。
まるで三体が一つの生き物のようだった。
そして。
ゼクトは一つの可能性に辿り着く。
「新しいスキル……?」
召喚士はスキルで化ける。
それは常識だ。
だが。
あの変化は異常だった。
もし未知のスキルなら。
価値は計り知れない。
ゼクトの興味はさらに深くなる。
その頃。
魔界スキル商店。
リリアは帳簿を確認していた。
「店長」
「何ですか?」
「昇格しました」
アルトが覗き込む。
【契約者:カイル】
【昇格成功】
【中級召喚士】
【契約共有】
共有率 21%
順調だった。
だが。
その下に表示された情報を見て、アルトは少しだけ眉を上げる。
【観測者】
上級召喚士 ゼクト
興味度 78%
追跡確率 64%
リリアもそれを見て苦笑する。
「かなり気にされていますね」
「そうですね」
成功者には注目が集まる。
当然のことだった。
ただ。
帳簿はさらに一行追加する。
【推奨】
放置
アルトは吹き出した。
「放置らしいです」
「雑ですね」
リリアも笑う。
どうやら帳簿の判断では、まだ問題になる相手ではないらしい。
しかし。
その判断が正しいのか。
間違っているのか。
それはまだ誰にも分からなかった。




