第56話 召喚士と契約共有④
契約共有を取得してから一か月。
カイルの生活は大きく変わっていた。
劇的な変化ではない。
伝説級の魔獣を手に入れたわけでもない。
一夜で最強になったわけでもない。
しかし確実に変わっていた。
毎日少しずつ。
少しずつ。
積み上がるように。
それは契約共有というスキルらしい成長だった。
「よし、もう一回だ」
訓練場に声が響く。
角兎が駆ける。
小鬼が剣を振る。
影獣が影へ潜る。
三体とも以前より明らかに動きが良い。
特に変化が大きいのは連携だった。
今まではそれぞれが個別に戦っていた。
だが今は違う。
角兎が敵の注意を引く。
その隙を小鬼が狙う。
さらに影獣が死角へ回る。
まるで長年組んだ冒険者パーティのような動きだった。
「キュッ!」
角兎が跳ぶ。
相手の足元へ潜り込む。
同時に小鬼が剣を振る。
その一撃を避けた相手の背後から影獣が現れる。
連携としては単純だ。
だが以前の彼らには不可能だった。
経験が共有されているからこそ成立している。
そして。
「共有率十五%か……」
カイルは胸の奥の感覚を確かめる。
最初は三%だった。
それが今では十五%。
まだ完成には程遠い。
それでも効果は十分すぎた。
角兎は小鬼の剣術理論を理解し始めている。
小鬼は影獣の索敵能力を利用している。
影獣は角兎の反応速度を応用している。
本来なら数年かかる経験共有が一か月で起きているのだ。
召喚士としては異常だった。
だからこそ。
周囲も気付き始めていた。
「最近のカイル、妙に強くないか?」
「聞いたぞ。模擬戦で勝ったらしい」
「相手は中級召喚士だろ?」
「嘘だろ?」
噂は少しずつ広がっていく。
だが誰も真相は知らない。
カイル自身も語らなかった。
魔界スキル商店のことも。
契約共有のことも。
全て秘密にしていた。
そんなある日だった。
召喚士協会。
魔界各地の召喚士が所属する組織である。
カイルは協会職員に呼び止められた。
「カイル君」
「はい?」
「昇格試験を受けてみないか?」
予想外の言葉だった。
召喚士には等級が存在する。
下級。
中級。
上級。
そして特級。
カイルは現在下級。
数年間ずっと変わらなかった。
「俺がですか?」
「推薦が出ている」
職員は書類を見せる。
そこには最近の戦績が記録されていた。
模擬戦勝利。
依頼成功率上昇。
連携評価向上。
どれも最近のものばかりだった。
「試験は一週間後だ」
カイルは少し考えた。
そして笑う。
一か月前なら断っていただろう。
どうせ無理だと思っていた。
だが今は違う。
「受けます」
迷いはなかった。
職員も満足そうに頷いた。
その様子を。
少し離れた場所から見ている人物がいた。
黒いローブ。
細い目。
そして鋭い観察眼。
男は静かに呟く。
「面白いな」
その視線はカイルへ向いていた。
最近急激に成長した召喚士。
それが気になっていた。
男も召喚士だった。
しかも上級。
若手の有望株として知られている。
名前はゼクト。
そして。
他人の秘密を探ることが趣味だった。
「何かあるな」
ゼクトは笑う。
一か月でここまで変わるなど普通ではない。
才能の開花?
突然変異?
それとも――。
何か特別な力か。
彼の興味は完全にカイルへ向いていた。
一方その頃。
魔界スキル商店ではリリアが帳簿を見ながら驚いていた。
「店長」
「何ですか?」
「契約共有の成長速度がおかしいです」
アルトも確認する。
【契約共有】
共有率
15%
そして下に続く文字。
【推定到達率】
92%
アルトは少し目を細めた。
高い。
非常に高い。
ここまで適性が噛み合う例は珍しい。
「良いお客様でしたね」
リリアが言う。
「そうですね」
アルトは頷く。
だが次の瞬間。
帳簿に新たな文字が浮かんだ。
【注意】
【契約者への観測者を確認】
【接触予測】
アルトとリリアは同時に顔を見合わせた。
店の利用者が増えれば増えるほど。
成功者が増えれば増えるほど。
当然、それを不思議に思う者も現れる。
どうやら。
カイルの物語は新しい局面へ入ろうとしているらしかった。




