第55話 召喚士と契約共有③
魔界スキル商店を後にしたカイルは、自宅へ戻る道中ずっと不思議な感覚に包まれていた。
契約共有。
取得したばかりの新しいスキル。
体が劇的に強くなったわけではない。
魔力が増えたわけでもない。
それなのに世界の見え方が少し変わっていた。
遠くにいる契約魔獣たちの存在が感じられる。
怒っている。
眠っている。
退屈している。
ぼんやりとだが感情が伝わってくるのだ。
「面白いな……」
思わず笑みが漏れる。
そして数時間後。
彼は自宅へ到着した。
召喚士用の訓練施設を兼ねた小さな住居。
裕福ではない。
むしろかなり質素だ。
だが長年暮らしてきた大切な場所だった。
扉を開く。
すると。
「キュッ!」
白い影が飛び込んできた。
角兎だった。
小型の魔獣であり、契約してから五年以上になる相棒である。
続いて。
「グガッ!」
小鬼が現れる。
最後に。
部屋の隅の影が揺れた。
影獣だった。
相変わらず寝ている。
「お前、本当に寝てたんだな」
影獣の尻尾が少しだけ動いた。
どうやら聞こえていたらしい。
カイルは思わず笑った。
以前よりも感情が伝わってくる。
それだけで新鮮だった。
そして同時に気付く。
三体とも自分の帰宅を喜んでいる。
今までもそうだったのだろう。
だが自分が感じ取れていなかっただけだ。
「よし」
カイルは立ち上がる。
「試してみるか」
契約共有の効果。
それを確かめたい。
まずは訓練場へ移動した。
広さは十分。
召喚士向けの簡易訓練場である。
角兎。
小鬼。
影獣。
三体を並ばせる。
「まずはいつも通りやってみろ」
角兎が走る。
素早い。
だが攻撃力は低い。
小鬼が剣を振る。
技術はある。
だが身体能力が足りない。
影獣が影へ潜る。
隠密能力は高い。
しかし決定力がない。
いつも通りだった。
だからこそカイルは確信する。
才能がないわけではない。
全員が中途半端なのだ。
それが問題だった。
しかし。
今日からは違う。
「契約共有」
魔力を流す。
すると胸の奥で何かが反応した。
次の瞬間。
角兎が動く。
いつもより少しだけ。
本当に少しだけ。
動きが変わった。
「今のは……」
カイルは目を見開く。
角兎の回避行動だった。
だが。
どこか小鬼の剣術の足運びが混ざっている。
さらに影獣の気配遮断まで利用していた。
偶然ではない。
明らかに今までできなかった動きだ。
「キュッ!?」
角兎自身も驚いていた。
そして。
小鬼も驚いていた。
なぜなら。
自分の技術を角兎が使ったからだ。
「グガ……?」
困惑している。
しかし共有は続く。
今度は小鬼が剣を振る。
いつもより速い。
いや。
正確には無駄が減っていた。
角兎の機動力。
影獣の気配察知。
それらが微かに混ざっている。
「本当に共有されてる……」
カイルは息を呑んだ。
まだ3%。
帳簿が示した数字はたったそれだけ。
なのに効果は確実に存在している。
もし10%になったら。
もし30%になったら。
もし100%になったら。
想像するだけで恐ろしかった。
その時だった。
影獣が立ち上がる。
珍しい。
普段なら面倒臭がって寝ている。
だが今日は違った。
影獣は静かに歩き出す。
そして訓練用の木柱へ向かう。
影へ潜る。
次の瞬間。
木柱の背後から現れた。
ここまでは普通だった。
しかし。
さらにもう一度影へ潜る。
すると。
今度は角兎の背後へ移動した。
「え?」
カイルは固まった。
影獣も固まった。
角兎も固まった。
今の移動距離は普段の限界を超えている。
なぜできたのか。
すぐに答えは分かった。
角兎の身体能力。
小鬼の空間把握。
その経験が共有されたのだ。
「まさか……」
カイルの胸が高鳴る。
このスキルは単なる補助ではない。
成長速度を加速させる。
しかも仲間が増えるほど効果も増える。
召喚士との相性が良すぎた。
その夜。
カイルは遅くまで訓練を続けた。
そして。
角兎も。
小鬼も。
影獣も。
誰一人として途中で休もうとしなかった。
自分たちが強くなっている。
その実感があったからだ。
一方その頃。
魔界スキル商店では。
リリアが帳簿を見ながら首を傾げていた。
「店長」
「何ですか?」
「契約共有の共有率が上がっています」
アルトは視線を向ける。
【共有率】
3%
↓
5%
↓
7%
数字がゆっくり増えていた。
アルトは小さく笑う。
「頑張っているみたいですね」
「分かるんですか?」
「何となくです」
リリアも少し笑った。
スキルを買った客。
その後の人生。
それを見るのも、この店の面白さなのかもしれない。
そして共有率は今も少しずつ上昇を続けていた。
まるで。
新しい可能性が育っていくように。




