第54話 召喚士と契約共有②
「契約共有……」
カイルは結晶を見つめながら呟いた。
聞いたことのない名前だった。
召喚士向けのスキルは数多く存在する。
召喚強化。
魔力供給。
契約数増加。
感覚共有。
だが契約共有という名は聞いたことがない。
リリアも興味深そうに身を乗り出している。
「どんなスキルなんですか?」
アルトは結晶を手に取った。
淡い銀色の光が店内を照らす。
「簡単に言えば、契約した仲間と力を共有するスキルです」
「力を共有?」
カイルが首を傾げる。
「はい」
アルトは頷く。
「経験」
「感覚」
「成長」
「技術」
「一部の能力」
それらを契約者同士で共有できるようになる。
カイルは言葉の意味を考える。
そして数秒後。
表情が変わった。
「まさか……」
「気付いたようですね」
アルトは微笑んだ。
「お客様の契約魔獣は三体です」
「はい」
「三体とも別々に成長しています」
「そうだな」
「ですが契約共有を取得すると、その成長を互いに利用できるようになります」
カイルの呼吸が止まる。
召喚士最大の問題。
それは育成効率だった。
一体を育てれば他は育たない。
三体育てれば時間は三倍。
五体育てれば五倍。
だから召喚士は強くなりにくい。
だが。
もし成長が共有されるなら。
話は全く変わる。
「例えば角兎が回避技術を覚える」
アルトが説明する。
「すると他の契約魔獣もその経験を利用できます」
「小鬼が剣技を学ぶ」
「影獣も応用できる可能性があります」
「さらにお客様自身も学習できます」
カイルは絶句した。
そんなことが可能なのか。
もし本当なら。
召喚士という職業の常識が変わる。
リリアも思わず呟く。
「凄いですね……」
補佐妖精らしく即座に計算していた。
三体なら三倍。
四体なら四倍。
仲間が増えるほど効率が上がる。
単純だが恐ろしい。
「ただし」
アルトは続ける。
「最初から強くなるわけではありません」
カイルは頷いた。
そんな都合の良い話はない。
「共有するためには積み重ねが必要です」
「学ぶこと」
「訓練すること」
「経験すること」
「戦うこと」
「成長すること」
その全てが必要になる。
つまり努力は消えない。
ただ無駄にならなくなるだけだ。
カイルは静かに笑った。
それで十分だった。
今までの努力。
契約魔獣たちの努力。
全てが繋がる。
それだけで価値がある。
「代価は?」
アルトは帳簿を確認する。
そして少しだけ驚いた。
珍しい内容だった。
「絆です」
「……絆?」
カイルも戸惑う。
意味が分からない。
「正確には」
アルトは説明する。
「今後、新しい契約魔獣を簡単には増やせなくなります」
店内が静かになる。
カイルは考えた。
新しい契約魔獣。
強い魔獣。
上位種。
伝説種。
普通の召喚士なら欲しがるだろう。
だが。
彼の頭に浮かんだのは別の存在だった。
角兎。
小鬼。
影獣。
ずっと一緒だった三体。
失敗した時も。
負けた時も。
笑われた時も。
いつも隣にいた。
「それだけですか?」
アルトは頷く。
「契約枠が減るわけではありません」
「ですが新たな契約への適性が下がります」
「今いる仲間を大切にするほど、このスキルは強くなります」
カイルは笑った。
迷う理由がなかった。
むしろ。
これ以上ないほど自分に合っている。
「買います」
即答だった。
アルトは契約書を差し出す。
料金は金貨二万枚。
決して安くない。
だが価値を考えれば安い。
カイルは署名した。
契約成立。
銀色の結晶が光る。
光が体へ流れ込む。
優しい感覚だった。
強烈な力ではない。
爆発的な変化でもない。
だが確かに何かが繋がった。
遠く離れた場所にいる契約魔獣たち。
その存在が今までより近く感じる。
心の中に温かな糸が伸びているようだった。
「これは……」
カイルは目を見開く。
角兎の感情が伝わる。
小鬼の気配が分かる。
影獣が昼寝していることまで何となく理解できる。
思わず笑ってしまった。
「寝てるのかよ」
リリアが首を傾げる。
「何がです?」
「影獣です」
カイルは苦笑した。
まだ試していないのに分かる。
それだけで驚きだった。
そして帳簿には新しい文字が浮かび上がっていた。
【契約共有】
取得完了
【共有率】
3%
【契約魔獣】
3体
【成長開始】
アルトはその数字を見る。
わずか3%。
だが問題ない。
むしろ十分だった。
このスキルは最初から完成しているものではない。
積み重ねることで真価を発揮する。
そして。
帳簿のさらに下。
小さな文字が浮かんでいた。
【上位進化候補】
【群体契約】
【契約共鳴】
【魂の共同成長】
アルトは目を細める。
どうやら。
この召喚士の物語も、まだ始まったばかりらしい。




