第53話 召喚士と契約共有①
店内へ入ってきた魔族は、扉を閉めると周囲を慎重に見回した。
深く被ったフード。
やや痩せた体格。
年齢は若い。
おそらく二十代前半だろう。
警戒心が強いのはすぐに分かった。
アルトはいつも通り穏やかな笑顔を浮かべる。
「いらっしゃいませ」
その言葉に、魔族は少しだけ肩の力を抜いた。
だが警戒は消えていない。
逃げ道。
窓。
店内の構造。
そんなものを確認している。
リリアは興味深そうに観察していた。
補佐妖精の分析能力は非常に高い。
視線の動きだけでも相手の性格がある程度見えてくる。
「初めてのお客様ですね」
アルトが席を勧める。
魔族は少し迷った後、椅子へ腰掛けた。
「……本当にスキルを売っているんですか?」
第一声はそれだった。
最近では珍しい反応である。
ガルムやセレナは既に噂を聞いて来店していた。
だが目の前の青年は違う。
まだ半信半疑なのだ。
「売っています」
アルトは答える。
「信じられないなら帰っても構いません」
その言葉に青年は驚いた。
普通の商人なら引き止める。
だがアルトは違った。
押し売りをしない。
それが逆に信用できた。
「名前を聞いても?」
「カイルです」
少し迷った後、青年は名乗った。
リリアは帳簿へ視線を向ける。
そこには既に情報が浮かび始めている。
【カイル】
【職業:召喚士】
【契約魔獣:3】
【適性検索中】
リリアの目が輝いた。
初めて見る情報ばかりだった。
「召喚士なんですね」
思わず口にする。
カイルが驚く。
「なぜ分かった?」
「あっ」
リリアが固まる。
アルトは額を押さえた。
採用初日である。
まだ教育が終わっていない。
「リリアさん」
「はい」
「帳簿情報を先に言わない」
「申し訳ありません」
「今後気を付けます」
反省は早かった。
カイルは逆に興味を持ったらしい。
「本当に分かるのか?」
「ある程度は」
アルトが答える。
「お客様に合うスキルを探すためです」
カイルは腕を組む。
そしてしばらく考え込んだ。
やがて小さく頷く。
「なら相談したい」
その表情には切実さがあった。
アルトは自然と真剣な顔になる。
「何に悩んでいますか?」
カイルはすぐには答えなかった。
視線を落とし、言葉を選ぶ。
そして静かに口を開く。
「俺には三体の契約魔獣がいる」
召喚士にとって魔獣は家族のような存在だ。
共に戦い。
共に成長する。
一生を共にする者も多い。
「でも弱いんだ」
苦笑が漏れる。
そこには長年の諦めが滲んでいた。
「契約した頃は期待してた」
「珍しい才能があるかもしれない」
「進化するかもしれない」
「強くなるかもしれない」
だが現実は違った。
一体は角兎。
一体は小鬼。
一体は小型の影獣。
どれも下級魔獣。
決して弱すぎるわけではない。
だが強者にもなれない。
中途半端な立場だった。
「仲間はどんどん強くなる」
「上位召喚獣を契約する」
「強力な魔獣を従える」
「俺だけ取り残される」
リリアは黙って聞いていた。
その気持ちは少し分かる。
周囲が成長していく中で、自分だけが停滞しているように感じる。
セレナが抱えていた悩みにも少し似ていた。
「それでも手放せないんです」
カイルは笑った。
「弱いけど、あいつらは頑張ってる」
「ずっと一緒だったからな」
その言葉に嘘はなかった。
アルトは静かに頷く。
そして帳簿を開く。
ページが光る。
文字が浮かび上がる。
【適性スキル】
【契約共有】
アルトの目が細くなる。
珍しい。
かなり珍しいスキルだった。
横から覗いたリリアも息を呑む。
初めて見る名前だった。
「決まりましたか?」
カイルが尋ねる。
アルトはゆっくり頷く。
そして結晶を取り出した。
淡い銀色に輝く結晶。
「お客様に最も適したスキルです」
カイルが息を飲む。
「名前は?」
アルトは静かに答えた。
「契約共有」
その瞬間。
帳簿の下に新しい文字が現れる。
【進化適性:極高】
【契約魔獣との相性:最高】
リリアは目を見開いた。
おそらく。
この召喚士は。
彼自身ではなく。
共に生きる魔獣たちによって大きく変わる。
そんな予感がしていた。




