第51話 補佐妖精と並列思考④
「従業員募集してますか?」
リリアの言葉に、アルトは思わず笑った。
スキルを購入した直後に就職の話を持ち出す客は初めてだった。
しかも目の前の補佐妖精は本気である。
冗談を言っている顔ではない。
「セレナ様から話は聞いています」
「本当ですか?」
「出向の件ですね」
リリアの表情が明るくなる。
「では採用ですか?」
「まだです」
「ですよね」
少しだけ肩を落とした。
しかし次の瞬間には気持ちを切り替えている。
並列思考を得た影響なのか、元々なのかは分からない。
ただ、感情の切り替えが妙に早かった。
アルトは席を勧める。
リリアも素直に座った。
そのまま自然と会話が始まる。
仕事内容。
勤務条件。
魔王軍との連絡体制。
様々な話をしているうちに、アルトは改めて彼女の能力の高さを実感していた。
理解が早い。
記憶力も高い。
何より質問の質が良い。
話の本質を正確に掴んでくる。
「なるほど」
リリアは頷く。
「つまり私は店員兼事務担当兼監視役兼連絡役ですね」
「大体そんな感じです」
「仕事量が多くないですか?」
「全部できそうなので」
「否定できません」
そこは認めるらしい。
そんなやり取りを続けていると、リリアの視線が店内を見回した。
棚。
商品。
帳簿。
そして整然と並ぶスキル結晶。
補佐妖精らしく観察が始まる。
「店長」
「まだ採用してません」
「では店長候補」
「何でしょう」
「この店、かなり儲かってますよね?」
アルトは少し考えた。
否定はできない。
開店当初と比べれば驚くほど売上は伸びている。
「それなりには」
「それなり?」
「ええ」
「金貨十万枚以上はありますよね?」
「あります」
即答だった。
リリアは少し驚いた。
思った以上に正直だったからだ。
「なのに店は質素ですね」
「必要以上の贅沢はしませんので」
「貯金ですか?」
「半分は」
「残り半分は?」
アルトは店の中央にある帳簿へ視線を向けた。
「あれです」
「帳簿?」
「正確には仕入れですね」
リリアが首を傾げる。
スキルの仕入れ。
その言葉自体は理解できる。
だが、この店の商品は普通の商品ではない。
スキルである。
「誰から仕入れているんです?」
その質問は当然だった。
アルトも最初は同じ疑問を持った。
今でも完全には理解していない。
「分かりません」
「はい?」
「仕入れ先が分からないんです」
「それで商売成立してるんですか?」
「成立しています」
リリアは頭を抱えた。
意味が分からない。
仕入れ先の分からない商店。
普通なら即潰れる。
しかし目の前の店は繁盛している。
「説明してください」
アルトは頷く。
そして帳簿を開いた。
数ページが自動でめくられる。
淡い光が浮かび上がる。
やがて一つの項目が表示された。
【未回収スキルを検知】
リリアの目が見開く。
「初めて見ました」
「私もです」
「え?」
「検知の瞬間を見るのは初めてです」
さらに文字が続く。
【D級スキル】
【高速記憶】
【回収費用:金貨一万枚】
【購入しますか?】
店内が静まり返る。
リリアは表示とアルトを交互に見た。
「これが仕入れ?」
「そうです」
「場所は?」
「分かりません」
「発見者は?」
「分かりません」
「作成者は?」
「分かりません」
「分からないことだらけですね」
「そうですね」
アルトは苦笑した。
だが不安そうな様子はない。
むしろ研究者が未知の現象を前にした時の顔だった。
「私は昔からスキル研究をしていました」
リリアは頷く。
その話はセレナから聞いている。
追放前は有名な研究者だったらしい。
「だから興味があるんです」
アルトは表示されたスキルを見つめる。
「どこで生まれたのか」
「誰が作ったのか」
「なぜ発見されたのか」
「この店は教えてくれません」
それは不満ではない。
純粋な探究心だった。
リリアは少し納得する。
なるほど。
この人は商人ではあるが、本質は研究者なのだ。
「購入するんですか?」
「もちろん」
アルトは迷わなかった。
承認欄へ指を置く。
帳簿が光る。
金貨一万枚が消費される。
次の瞬間。
店の奥にある空の棚へ光が集まり始めた。
まるで遠い場所から何かが運ばれてくるように。
やがて一つの結晶が出現する。
【高速記憶】
リリアは思わず立ち上がった。
「本当に来た!?」
「来ましたね」
「だからどこから!?」
「分かりません」
「店長候補の上司が頼りない!」
今日一番のツッコミだった。
アルトは笑う。
そしてリリアも笑った。
だが二人とも理解していた。
今、目の前で起きた現象は極めて重要だ。
この店はスキルを売るだけではない。
世界のどこかからスキルを集めている。
その仕組みこそが、魔界スキル商店最大の謎なのかもしれなかった。
そしてリリアは思う。
――やっぱりこの店、面白すぎる。
正式採用されたら、絶対に退屈しないだろうと。




