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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第46話 魔王軍幹部と可能性①

セレナが魔界スキル商店へ辿り着いたのは、それから三日後のことだった。


ガルムから聞いた情報を頼りに旅を続けたわけではない。


むしろ逆だった。


最初の一日は何も見つからなかった。


二日目も成果はない。


三日目になってようやく違和感を感じた。


まるで道が繋がったような感覚。


気付けば見覚えのない荒野へ出ていた。


そして。


岩壁の向こうに隠されていた一軒の店を見つけた。


「本当にあったのですね」


思わず呟く。


報告書で読んでいた。


ガルムの証言も聞いている。


それでも。


実際に目の前へ現れると不思議な気分だった。


魔界の常識から外れた存在。


それが静かにそこに建っている。



扉を開く。


鈴が鳴る。


店内は思っていたよりも普通だった。


豪華な装飾はない。


高級店のような威圧感もない。


棚が並び、商品が置かれている。


ただそれだけ。


しかし。


だからこそ異質だった。


ここは世界を変える力を売る店のはずなのに。


空気だけは近所の雑貨店のように穏やかだった。



「いらっしゃいませ」


奥からアルトが現れる。


穏やかな笑み。


落ち着いた声。


ガルムの報告通りだった。


「魔王軍幹部セレナ様ですね」


「ええ」


「ご来店ありがとうございます」


「私が来ることも分かっていたのですか?」


セレナが尋ねる。


アルトは少しだけ考えた。


「予想はしていました」


その曖昧な答えに、セレナは思わず笑う。


確かに。


この男らしい。



店内を見渡す。


様々な結晶が並んでいる。


どれも見たことのないものばかりだ。


強い魔力を感じるわけではない。


だが。


一つ一つが不思議な存在感を放っている。


「これが商品ですか」


「はい」


「全部スキル?」


「全てではありません」


アルトは答えた。


「ですが、多くはスキルです」



セレナは棚の前を歩く。


興味深い。


本当に興味深い。


軍務も忘れ、しばらく商品を眺めてしまう。


すると。


アルトが一つの結晶を持ってきた。


淡い銀色の結晶。


派手さはない。


むしろ地味だった。



「こちらがお客様に最も適した商品です」


セレナは結晶を見る。


そこに浮かぶ文字。


【可能性】



「可能性?」


聞き返してしまう。


正直、予想外だった。


強力な魔法。


未来予知。


能力強化。


そういうものを想像していた。


だが。


可能性。


あまりにも抽象的だった。



アルトは椅子を勧める。


セレナも腰を下ろした。


二人の間に結晶が置かれる。


「このスキルは珍しい商品です」


アルトが説明を始める。


「戦闘能力は上がりません」


「魔力量も増えません」


「寿命も伸びません」


「では何が変わるのですか?」



アルトは静かに答える。


「選択肢です」


セレナは眉をひそめる。


選択肢。


それだけでは意味が分からない。



「人は年齢と経験を重ねるほど可能性を失います」


アルトは続けた。


「成功率の高い道を選ぶようになります」


「失敗を避けるようになります」


「効率を求めます」


「当然ですね」


「はい。当然です」



アルトは頷く。


「ですが」


そこで言葉を切った。


「可能性とは、本来存在していた別の未来です」



セレナは黙る。


なぜか言葉が胸に刺さった。



「若い頃のお客様は」


アルトが続ける。


「無数の選択肢を持っていました」


「将軍になる未来」


「研究者になる未来」


「旅人になる未来」


「商人になる未来」


「様々な可能性があった」



セレナは視線を落とす。


確かにそうだった。


若い頃は何にでもなれると思っていた。


失敗してもやり直せた。


挑戦できた。


だが今は違う。


魔王軍幹部。


それが自分だ。


その立場に誇りもある。


後悔もない。


しかし。


失ったものがあることも理解していた。



「このスキルは」


アルトが結晶を指差す。


「失われた可能性を再び見せてくれます」


「未来予知?」


「違います」


アルトは首を振った。


「選ばなかった道を理解する力です」



店内が静まる。


セレナは言葉を失った。


そんな力が存在するのか。


もし本当なら。


それは戦闘能力などより遥かに恐ろしい。



「代価は何ですか」


しばらくして尋ねる。


アルトは少しだけ表情を変えた。


そして静かに答える。


「諦めです」



セレナの目が細くなる。


「諦め?」


「はい」



アルトは続ける。


「お客様は長い人生の中で多くのことを諦めてきました」


「夢」


「挑戦」


「未知」


「立場のために捨ててきたものがあります」



図星だった。


否定できない。



「その諦めを代価としていただきます」


「失うとどうなるのですか?」



アルトは少しだけ笑った。


「面倒になります」



「面倒?」


「はい」



「やりたいことを我慢できなくなるかもしれません」


「興味を持ったことを放置できなくなるかもしれません」


「新しいことに首を突っ込みたくなるかもしれません」



セレナは思わず吹き出した。


初めてだった。


この店で心から笑ったのは。



「それは確かに困りますね」


「幹部としては不向きかもしれません」


「でしょうね」



二人は小さく笑う。


だが。


セレナは理解していた。


本当は困らない。


むしろ。


今の自分に足りないものなのだと。



「ちなみに料金は?」


セレナが尋ねる。


アルトは即答した。


「金貨五万枚です」



セレナは少しだけ目を見開いた。


高額だ。


だが払えない額ではない。


むしろ。


世界を変える力なら安いとさえ思えた。



結晶を見つめる。


【可能性】


不思議な商品だった。


強くなるわけではない。


偉くなるわけでもない。


それでも。


今まで見てきたどのスキルより魅力的に見える。



そして。


アルトの背後では契約帳簿が静かに光っていた。


魔王軍幹部の来店。


それは単なる一人の客の訪問では終わらない。


この契約をきっかけに。


魔王軍と魔界スキル商店の距離は、大きく縮まろうとしていた。

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