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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第43話 魔王軍幹部と観察①

魔王城。


魔界の頂点に君臨する巨大な城。


その一角にある執務室で、一人の女性が書類に目を通していた。


魔王軍幹部セレナ。


軍事、行政、外交。


複数の分野を担当する実力者であり、若くして幹部にまで上り詰めた才女だった。


彼女の机の上には、一冊の報告書が置かれている。


差出人はガルム。


内容はもちろん――魔界スキル商店についてだった。



セレナは静かにページをめくる。


店主アルト。


スキルの売買。


代価契約。


客たちの変化。


どれも常識では説明できない。


だが。


ガルムが嘘を書くことはない。


推測を書くことはある。


誤認することもある。


しかし。


事実を捏造する男ではなかった。



「本当に存在するのですね」


セレナは小さく呟く。


彼女自身も最初は半信半疑だった。


噂だけならいくらでもある。


魔界には胡散臭い伝説が溢れている。


だが。


今回は違う。


実際に確認した者がいる。


しかも。


それがガルムだ。



報告書の最後には一文だけ追加されていた。


【現時点で敵対意思は確認できず】


【接触継続を推奨】


セレナは少し笑う。


いかにもガルムらしい。


感情ではなく事実だけを書く。


だから信頼される。



その時。


扉がノックされた。


「入って」


部下の魔族が入室する。


「セレナ様」


「どうしました?」


「北部防衛線の報告です」



報告を受ける。


魔獣の出現。


補給状況。


部隊再編。


幹部としての日常業務だった。


しかし。


説明を聞きながらも。


セレナの頭の片隅には別のことがあった。


魔界スキル商店。


あの店だ。



不思議だった。


強くなりたいわけではない。


権力も十分ある。


財産にも困らない。


地位もある。


なのに。


興味が消えない。



「何を売るのでしょうね」


報告を終えた後。


セレナは一人で呟いた。


もし自分が客として訪れたら。


アルトは何を勧めるのか。


何を失い。


何を得るのか。


想像できなかった。



その日の夕方。


セレナは城内の訓練場を訪れていた。


幹部とはいえ戦闘能力も必要だ。


魔界では珍しくない。


机仕事だけで務まるほど甘い世界ではないからだ。



剣を振るう。


魔法を放つ。


訓練相手を圧倒する。


周囲の兵士たちから歓声が上がる。


誰が見ても強者だった。


だが。


本人は納得していなかった。



訓練終了後。


一人で座る。


額の汗を拭く。


そして。


ふと空を見上げた。


「成長していませんね」


自嘲気味に笑う。



弱くはない。


むしろ強い。


だが。


ここ数年。


ほとんど変わっていない。


努力している。


研究もしている。


経験も積んでいる。


それでも壁がある。



ヴァルドの資料を読んだ時。


少し羨ましいと思った。


進化。


限界を超え続ける力。


そんなものが本当に存在するなら。


誰だって憧れる。



「いえ」


セレナは首を振る。


違う。


自分が羨ましかったのは強さではない。


変化だった。



毎日同じ仕事。


同じ責任。


同じ立場。


魔王軍幹部としては理想的だろう。


だが。


いつからだろう。


人生が予定調和になってしまったのは。



その夜。


執務室へ戻ったセレナは再び報告書を開いた。


そして。


あるページで手が止まる。


そこにはガルムの感想が書かれていた。


【店主は商人である】


【少なくとも本人はそう考えている】



セレナは思わず笑った。


実に妙な文章だ。


世界を揺るがす力を持ちながら。


本人は商人。


それだけ。



「一度くらい」


彼女は呟く。


「会ってみたいですね」



その頃。


魔界スキル商店。


アルトは店内の掃除を終えていた。


棚を整える。


商品を確認する。


いつも通りの閉店準備。


しかし。


契約帳簿には新しい変化が現れていた。


【魔王軍幹部 セレナ】


状態:来店意思発生


到達確率:79%



アルトは少しだけ目を細める。


ガルムは仕事で来た。


だが。


セレナは違う。


純粋な興味。


純粋な疑問。


純粋な好奇心。


だからこそ。


帳簿の反応も大きい。



ページの下に、新しい文字が浮かび上がる。


【適性商品選定開始】


【候補検索中】


アルトは珍しく眉を上げた。


「これはまた」


候補数が多い。


それだけ珍しい客ということだった。



店の外では夜風が吹いている。


魔王軍幹部。


諜報魔族。


上級魔族。


少し前まで接点のなかった存在たちが、少しずつこの店へ引き寄せられていた。


そして。


その流れの先にいるセレナ自身もまだ知らない。


自分の来店が、後に魔界スキル商店へ大きな変化をもたらすことを。

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