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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第42話 諜報魔族と追跡④

ガルムは結晶を見つめていた。


棚の上に置かれた小さな結晶。


派手な輝きはない。


強大な魔力も感じない。


だが。


その中に浮かぶ文字だけははっきり見えた。


【真実看破】


「……真実看破か」


ガルムは呟く。


長年諜報員を続けてきた。


無数の嘘を見てきた。


裏切りも見た。


陰謀も暴いた。


だからこそ分かる。


もし本当にそんな力が存在するなら。


国家一つを揺るがしかねない。



「どんなスキルだ?」


ガルムは尋ねる。


アルトは結晶を手に取った。


「文字通りです」


「曖昧だな」


「真実を見抜く力です」


「嘘発見か?」


「少し違います」



アルトは続ける。


「嘘を見抜く能力ではありません」


「では?」


「本質を見る能力です」


ガルムは黙る。


興味が湧く。


諜報の世界では。


嘘をつく者より厄介な相手がいる。


本気で自分を正しいと思い込んでいる者だ。


そういう相手は嘘発見能力では見抜けない。



「例えば」


アルトが言う。


「ある者が英雄を名乗ったとします」


「ふむ」


「その者は本当に多くの人を救っているかもしれません」


「だが?」


「心の奥では名声だけを求めている」


ガルムは頷く。


珍しく話が分かりやすい。



「真実看破は」


アルトが続ける。


「言葉ではなく、本質を見る力です」


「相手が何を望み」


「何を恐れ」


「何に執着しているか」


「その断片を理解できるようになります」



ガルムは腕を組む。


危険な能力だ。


戦闘向きではない。


だが。


諜報員としては極めて強力だった。


交渉。


尋問。


情報収集。


潜入。


あらゆる場面で役に立つ。



「代価は?」


ガルムは尋ねる。


今までの事例は調べている。


この店に無料の商品は存在しない。


アルトは少し考えた。


そして。


静かに答える。


「金貨1000枚と、、、疑う心です」



店内が静まる。


金貨1000枚は問題ない。その後の言葉にガルムは一瞬意味が分からなかった。


「……何だと?」


「お客様は誰も信用しません」


アルトが言う。


「部下も」


「上司も」


「友人も」


「自分自身すらも」



ガルムは否定できなかった。


諜報員として生きる以上。


それは当然だった。


誰かを信じすぎれば死ぬ。


裏切られる。


利用される。


だから疑う。


常に。


全てを。



「それが代価か」


「はい」


「安いな」


ガルムは笑う。


しかし。


アルトは首を振った。


「いいえ」



その表情は珍しく真剣だった。


「お客様はまだ理解していません」


「何をだ」


「疑うことと、見抜くことは別です」



ガルムは黙る。


確かにそうだった。


今までの自分は。


誰かを疑うことで真実へ近付いてきた。


しかし。


本当にそうなのだろうか。



「疑い続ける者は」


アルトが静かに言う。


「いつか誰も信じられなくなります」


「……」


「それは真実を見失うことでもあります」



ガルムは結晶を見る。


不思議だった。


最初は警戒していた。


だが今は違う。


純粋に興味がある。


そして。


少しだけ。


自分自身を見透かされている気分だった。



「面白い」


ガルムは言う。


「本当に面白い店だ」


アルトは何も言わない。


商人らしく微笑んでいるだけだった。



ガルムは考える。


購入するか。


しないか。


諜報員としてなら欲しい。


間違いなく欲しい。


だが。


疑う心を失う。


それは自分の生き方そのものを変えることになる。



長い沈黙。


やがて。


ガルムは息を吐いた。


「すぐには決められんな」


アルトは頷く。


「構いません」


「売り込まないのか?」


「商売は押し付けるものではありません」



ガルムは笑った。


普通の商人なら必死に勧める。


だが。


この男は違う。


買うかどうかは客が決める。


ただ商品を見せるだけ。


その姿勢が妙に気に入った。



店を出る頃には夜になっていた。


ガルムは扉の前で振り返る。


「また来るかもしれん」


「お待ちしております」


アルトは答える。



ガルムは荒野を歩き出す。


報告しなければならない。


店は存在した。


危険性は不明。


敵意は感じられない。


店主は謎。


商品の力は本物。


そして。


自分はまだ購入していない。



だが。


心のどこかで分かっていた。


今日で終わりではない。


むしろ。


ここから始まるのだと。



その頃。


魔界スキル商店。


アルトは契約帳簿を開いていた。


【諜報魔族 ガルム】


状態:検討中


購入確率:87%


アルトは少しだけ目を細める。


そして。


ページをめくった。


そこには別の名前が浮かんでいる。


【魔王軍幹部 セレナ】


状態:興味増大


「こちらも近そうですね」


アルトは静かに呟いた。


魔王軍。


諜報部。


そして幹部。


魔界スキル商店の影響は。


ついに魔界の中枢へ届こうとしていた。

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