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『ようこそ魔界スキル商店へ』  作者: もかどら


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第41話 諜報魔族と追跡③

魔王城での会議から数日後。


諜報魔族ガルムは、魔界西部の荒野を歩いていた。


風が吹く。


赤黒い砂が舞う。


生命の気配はほとんどない。


旅人が好んで通る場所ではなかった。


だが。


ガルムには確信があった。


「近いな」


彼は立ち止まり、周囲を見回す。


何もない。


岩山。


荒野。


乾いた大地。


それだけだ。


しかし。


最近になって感じるようになった違和感があった。



最初は偶然だと思っていた。


だが。


何度も同じ現象が起きる。


店の情報を追っている時だけ。


不自然なほど道に迷わないのだ。


普段なら選ばない道を選ぶ。


休憩場所を変える。


進路を変更する。


そして気付けば。


調査対象に近付いている。


まるで。


誰かが道を示しているように。



「面白い」


ガルムは笑う。


普通の諜報員なら気味悪がるだろう。


しかし。


彼は違う。


未知を追うことに喜びを感じる性格だった。


だからこそ。


魔王軍最強の諜報員になれた。


「隠れる気がないのか」


「それとも」


「探している者だけを導いているのか」



歩き続ける。


そして。


夕方になった頃。


ガルムは再び足を止めた。


違和感。


今までで最も強い。


目の前には岩壁しかない。


行き止まり。


誰が見てもそう見える。


しかし。


ガルムの勘が告げていた。


違う、と。



彼はゆっくりと前へ進む。


岩壁へ手を伸ばす。


触れた瞬間。


景色が揺らいだ。


水面に石を投げ込んだような波紋。


そして。


目の前の世界が変わる。



そこには。


一軒の店があった。


「……」


ガルムはしばらく言葉を失う。


豪華ではない。


巨大でもない。


王城と比べれば、あまりにも小さい。


だが。


存在感だけは異様だった。


何故なら。


そこにあるはずがないからだ。



古びた看板。


静かな建物。


店先の小さな花壇。


まるで普通の商店。


しかし。


ここは魔界の荒野のど真ん中だ。


誰がこんな場所で商売をする。


誰が客として来る。


常識で考えれば成立しない。


だからこそ。


ガルムは理解した。


「見つけたぞ」


魔界スキル商店。



ガルムは慎重に観察する。


罠はない。


敵意も感じない。


魔法反応も不自然なほど少ない。


普通なら逆に怪しい。


だが。


不思議と危険な印象はなかった。


「さて」


ガルムは扉を見る。


ここから先は未知だ。


何が起きるか分からない。


しかし。


引き返すという選択肢は存在しない。



扉を開く。


カラン。


鈴が鳴った。


その音はどこか心地よかった。


店内は静かだった。


棚には無数の結晶が並んでいる。


色も形も様々。


そして。


その奥。


一人の男が立っていた。



「いらっしゃいませ」


穏やかな声。


まるで以前から来ることを知っていたような口調だった。


ガルムは男を見る。


若い。


少なくとも外見だけなら。


だが。


普通ではない。


長年諜報員をしてきた勘が告げる。


目の前の男は危険ではない。


しかし。


底が見えない。



「あなたが店主か」


ガルムは尋ねた。


「はい」


男は微笑む。


「魔界スキル商店へようこそ」


「私はアルトと申します」



ガルムは周囲を見る。


商品。


店内の配置。


出口。


窓。


習慣的に確認する。


そして気付く。


どこを見ても普通だ。


普通すぎる。


それが異常だった。



「俺を知っているか?」


ガルムは聞いた。


「ガルム様ですね」


即答だった。


「魔王軍諜報部所属」


「現在は当店の調査中」


「優秀な諜報員として有名です」


ガルムの目が細くなる。


「調べたのか」


「いいえ」


アルトは首を横に振った。


「お客様のことは、ある程度分かります」



説明になっていない。


だが。


嘘をついているようにも見えない。


ガルムは困惑する。


尋問。


交渉。


脅迫。


そうした駆け引きには慣れている。


しかし。


目の前の男はそのどれにも当てはまらない。



「一つ確認したい」


ガルムは言う。


「お前は本当にスキルを売っているのか?」


「はい」


「なぜだ」


アルトは少し考えた。


そして。


当然のように答える。


「商人だからです」



ガルムは思わず黙った。


野望でもない。


陰謀でもない。


支配でもない。


返ってきた答えはあまりにも単純だった。



「……変な男だな」


「よく言われます」


アルトは微笑む。


その言葉に。


ガルムは初めて小さく笑った。



その時だった。


アルトが棚へ向かう。


そして。


一つの結晶を取り出した。


「ところで」


アルトが言う。


「調査は順調でしたか?」


「何?」


「お客様は探し物が得意です」


結晶が淡く光る。


「ですので」


「こちらの商品は、相性が良いかもしれません」



ガルムの視線が結晶へ向く。


その中に浮かんでいた文字。


【真実看破】



諜報員として生きてきた男が。


初めて。


心の底から興味を抱いた瞬間だった。

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